採掘者の相棒はかく観察す
「……!。何っ、それ……」
虚空から顕現させた
「これが俺の聖剣だよ。前に軽く説明したと思うけど」
「いやいや……絶対可怪しいでしょ、掘削が得意とは言ってたけど普通は斧とか……頑張ってもハンマーとか……」
疑問を呈するトロンにハハハと笑って返しながらツルハシを担ぎ、ラギア先生の方に向き直って一応の確認を取ってみる。
「まぁまぁ、そこは個性ということで……。やってしまっていいですよね」
「あぁ、他にはもうコイツしかいないしバディなら見せておくのも有りだろう」
お前の考え方次第だな、と付け加えながら腕を組むと辺りを見回しつつも目の奥を鋭く尖らせて注意深くコチラを見通す。
「それじゃ、行きます……っよ、と!」
一挙手一投足も見逃さず、というように目を見開く二人に見せつける勢いでツルハシを台座に振り下ろす!
相変わらずの金属音に加えて森の中という環境からか矢鱈と絡みついてくる木の根や砂利をツルハシモードとシャベルモードを取っ替え引っ替えフォルムチェンジしながら少しづつ掘り進めていく。
「おお!話には聞いていたが本当にできるとはな!」
「……ウソでしょ……!」
一回打ち付ける事に台座の周辺が穿たれていく様に
二人が抑えながら声を上げるのがわかるが、その一打毎に不純物が掘削の邪魔となって予想以上に体力を持っていかれる。
「っ……ふぅ」
今まで掘り出してきた魔剣は森の中でも比較的開けた場所にあり、
「スゴイじゃないかっ!」
少し休憩を入れようとツルハシの先端を地面に置くとラギア先生が称賛の声をたあげながら肩を叩いてくる。
「いや、そこまでお褒め頂くほどでは……」
「謙遜するな!噂以上じゃないか!」
いや、本当に謙遜とか抜きにして体育会系のノリそのままで酷使した肩や腕を叩いてくるのは色々なところに響くので止めてもらいたい……。
「いえ本当に進捗が今ひとつなんですよ。これまでこんな森の中のやつは掘り出したことがないので」
身体の筋を伸ばしながらラギア先生にそう伝えるとそれまで黙っていたトロンが「あの……」と控えめに声をかけてくる。
「その……、よかったら……嫌でなければだけど、コレを使ってみてほしい」
そういいながら虚空から何かを取り出す。
恐らく部屋で聞いていた収納魔法のようだが思っていたような、それこそアニメでお約束だったアイテムボックスのようなものではなく某皇帝のように物体を手の中に出現させるアポートに近い要領でいつの間にか鉤爪の内に小瓶が握られていた。
「これは?」
「……木々を腐食させるポーション……前にたまたま出来て、しまっていたから……」
除草剤みたいなものか?そう考えながら鋼鉄の腕で掴まれた瓶を受け取る。
「あの……疑わないの?」
「なにがだ?この状況にピッタリじゃないか」
確かに除草剤のような効果を持ったポーションというのは前世のゲームを含めても殆ど聞いたことのない珍しい効能だが別段嫌がるものでもないと思う。
「それで、これはどうやって使えばいいのかな?」
「えっと……地面に垂らしたら……そのまま染み込んで行くから……あ、原液が肌に付くと危ないから……気を付けて」
信じられないような目を向けながらトロンがしどろもどろに説明してくれることに一抹の不安をかんじる。
とりあえず身体につかないよう注意しながら蓋を外して中身を少し垂らすとみるみるうちに浸透し、辺りの土が変色し始める。
「コレ、この使い方でよかった?というか結構な勢いで拡がっていくんだけど……」
「だ、大丈夫。そろそろ……効果が、出るはず……」
トロンにポーションの瓶をかえすと、その言葉を信じて再びツルハシを振り下ろすとあっさりと引っ掛かりがなくなりサクサクと掘り進められる。
「お?!これはなかなかっ!」
そのまま苦労無く半分程掘削し、額を拭いながら反対側に移動する。
「ここまで来たら発破とかもしてみたいな」
「……はっぱ?」
さっきとは打って変わってやりやすくなった事に気が緩み、ついつい漏れてしまった一言にトロンが反応してくる。
振り向くと大振りな鉤爪を口元にあて、しまったという表情でコチラを凝視していた。
「発破とは俺も聞いたことがないな。どういうものなんだ?」
「あーいや、詳しくは知らないのですが……」
どうやら「発破」の概念自体がないらしく、やってしまったと思ったがラギア先生まで乗ってきたので仕方なく曖昧に濁して誤魔化そうと試みる。
「いや、構わん。知っている範囲でいいから話してみてくれ」
掘り出しに関係ありそうだからな。
と勘を働かされてしまい、渋々うろ覚えの拙い知識を絞り出していく。
「確か、ある程度掘り進めた穴に爆発物を埋めて蓋をしてその衝撃で一気に貫通させていく方法だったと……」
「ふむ、楔を打ち込んで岩を割る時に魔法で砕くのは見たことがあるが其れの一種か?」
前世での創作物で見たワンシーンを何かの本で読んだとボカしながら説明すると一定の理解に至ったのかそれ以上の追求はなく、相槌を返しながら掘削作業へ戻る。
「それじゃ、もう半分もサッサと終わらせてしまいますね」
「これ、何処にやったらいいですか?」
掘り出させた魔剣をゆっくりと引き上げながら運ぶ場所を問う。
「お、おおぅ……そうだったな。では中央の、いや一先ずは此方で預かるから職員室へ頼む」
「わかりました。ではそちらを持ってくれますか?」
長柄の魔剣は流石に一人で運ぶには無理があるのでラギア先生に助力を乞うとあちらも了承を返し反対側を持ってくれる。
「行くぞ、せーっ……」
「ちょっと待って」
掛け声と共に持ち上げようとした瞬間、トロンが待ったをかける。
「なんだ?手伝ってくれるならそっち側を……」
「まさか、こうするの」
流石にあの手では持ちにくいかとラギア先生の側を勧めるがどうやらそうでは無いらしく、魔剣の柄をその鋼鉄の鉤爪で摘む。
そしてそのまま「ガオン」っという効果音が聞こえて来そうなほどの一瞬……。
そう、一瞬にして魔剣が消え失せる。
「こうすれば、簡単でしょ」
「あ……えっと、その、確かに」
収納魔法で魔剣を亜空間に仕舞ったらしい、正直結構な大きさの魔剣を音もなく格納できるとは思っても見なかった。
「収納魔法を実際に使うところは初めて見たけど、ここまでデカい物まで入るんだな」
「いや、普通はここまでの物は収納できんぞ」
長物をいとも容易く仕舞ってみせたトロンに目を見張っているとラギア先生に釘を刺される。
「そんな顔をするな、さっきまで俺も同じような顔をしていた。正直気持ちはわかるがな」
信じられないような光景を目の当たりにすると人間大体同じようなリアクションを取るらしい、自分では気が付かなったがあまりの出来事にでた言葉だったがどうやらさっきまでの二人と同じような表情をしていたらしい。
「……いくよ……?」
トロンに促され、校舎に向かい始めると道すがら小声で話しかけられる。
(後で話したいことがあるんだけど……良い?)
「?いきなりだな。別にいいけど」
特に断る理由もなく了承するとトロンも首肯し森の中をあとにする。
こうして無事学園の魔剣は掘り出されるのだったが、バディとして間近で掘削をみたトロンは俺の語ったおぼろげな知識を噛み砕いていた。
そしてこのあとの出来事が人生を変えることになるとはまだ知る由もなかった。
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