爆裂妃の敗北
「確かに、魔剣『ウェクスガリパー』のようですね。実を言うと半信半疑だったのですがこうしてみると……」
『ウェクスガリパー』を掘り出した俺達はラギア先生に連れられて校長室に来ていた。
「はい、私も目の前で台座を掘り起こしていくのは驚きました」
ラギア先生の報告に校長先生は相変わらず内心の読めない笑いを貼り付けたまま、しかし何処か嬉しそうな声色で答える。
その様子に実家で初めて掘り出したときもポカンとされたなと考えながらもこのあとようやくコミュニケーションを取ってくれそうな雰囲気になっているトロンが控えているため少々強引ながらまだ話している二人の中に割って入ることにした。
「それで、何処に移したらいいんですか?」
「あぁ、そうですね。それについては少し教員間で会議を行うので二、三日待ってください。『ウェクスガリパー』を埋め直すときにはまた協力をお願いしますので」
「そういうことだ。今日は戻っていいぞ」
「わかりました」
ラギア先生に促され、トロンと二人で一礼して校長室をあとにする。
「それで、話っていったい何なのかな?」
昨日と同じようにベッドに腰掛けてお互いに向かい合う。
「ねぇ、なんで……何で私の作ったものを使ってくれたの?」
じっと瞳を閉じ、ため息を一つ付いてトロンは何かを決意したかのように話を切り出す。
「なんでって普通に使えるなら使わないと損でしょうに」
「爆発するかもしれなかったのに?」
「いや、火にもかけて無いし何で液体が爆発するのさ」
火どころか火花の一つも起こしてなく、沸騰しているわけでもない。
ましてや通電すらさせてない物に爆発なんてそうそう起こるようなものではないと思う。
「私の作ったものは皆爆発してしまうってきかなかったの?この手だって……」
そう言ってトロンは視線で自分の義手を指す。
「……あえて聞かなかったけど、魔物か何かにやられたんじゃないのか?」
「違う……。そうじゃない、そうじゃないんだよ!」
そのまま堰を切ったようにトロンは語りだす。
トロンは生家は有名な商家だったそうだ。
そこでポーション作りを始めとした薬学の才能をもっていてたトロンは見様見真似で職人顔負けのクオリティを持つポーションを作れてしまうほどの腕前を持っていた。
そのため幼くして俊才ともてはやされ、開発のため研究用ラボまで貰っていたという。
昼間に使わせて貰った除草剤ポーションもかつて試作したものの一つで効果の程は使ってみて解ったがかなりの高水準だった。
「一応、自慢になるみたいだけど僕の作ったものはカンペキなのが当たり前だったんだよ」
「そりゃあまぁ、実際に使った感じあの状況で的確に発揮してくれたね」
同意の相槌を打ち続きを頼むと少し嬉しそうな表情を義手で隠しながら、その鉤爪で擦って引き締める。
「あのときも調合は完璧だったし扱うモノがモノがだから気をつけていたんだ」
その時の事を思い出したのか歯噛みしながら話を続けると件のポーションを作っている最中にラボで火事が起き、その原料の一つに引火して爆発災害を引き起こしてしまったらしい。
なんとか一命こそ取り留めたものの、その両腕は使い物にならなくなり切断を余儀なくされた。
更にトロンの受難は続き、事故原因は新たなポーションの配合実験の最中に材料を取り違えるミスとされ、全責任がトロンに被せられたのだ。
そして、ダンジョンから見つかったという魔導義手をつけられた。
通常ならば喪った手足の代わりとしては破格の性能を持ち、ものによっては生身以上の性能を持つものもある。当然、相応の値は貼るがトロンの今まで稼いだものに加えて実家の財力なら容易く手に入るはずだった……。
だが、トロンが目を覚ましたときに、実際につけられていたものが今目の前で開閉を繰り返す代物だったという。
その後、才能を疎ましく思っていた親族のバッシングにあってこの冒険者養成所に叩き込まれたという。
「あの事故と親戚が流したうわさのせいで僕の作ったものは全部爆発するってことになっているんだよ、ソレを君と来たら……。平然と使うし、どういう神経してるのさ!!」
そこまで言い終わるとゼィゼィと息を整えながら上目遣いでコッチを見つめる。
「…………。使えるものは使わないともったいないし、こっちとしては爆発する方も魔剣を掘り出すのに使えるから欲しいくらいなんだが」
「おべっかはいいよ。どうせコレの哀れみも入ってるんでしょ!」
俺が本音を漏らすと訳がわからないと言う風に義手で頭を抱えてグリグリと振り回す。
「それに、その義手は……。その、カッコいいと思う」
「ハァ?!」
トロンが疑いと驚きの混ざったような声をあげる。
確かにレトロなSF作品のような武骨さ極まる形状だが、駆動音とシンプルな機構がノスタルジックな美しさを感じさせる。
「武器かと思ったら採掘具な俺の聖剣と比べたら断然だよ、自信を持っていい」
各種薬品に回復ポーション、更には爆薬と何でも作れる上に持ち運びに適した能力を持っている頼もしいルームメイトに少しの媚と9割の本音による肯定を送る。
「でも、コレじゃ足手まといに……」
「大丈夫大丈夫、鍛冶師に伝手もあるし」
トロンに実家からの餞別による伝手の事を伝えるが
、尚も煮えきらないらしい。
どうしたものかと考えあぐねるうちに一つのアイデアが浮かぶ。
「それでも駄目ならソレをメリットにすればいいんじゃないかな?」
「メリット?」
「あぁ俺の知っている話の中にこういうのがある。それは……」
そうして俺はかつて嗜んでいたサブカルチャーの物語をトロンに語って聞かせ始めるのだった。
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