若気の想像でも語りたい!

「いや……。ちょっと待って、なんで急に?」


「まぁまぁ、騙されたと思って聞いてよ」


トロンに語って聞かせるのは自分が大好きだった物語、長きに渡って続いてきたSFリアルロボットの金字塔。宇宙を舞台に巨大な機動兵器で闘うその中でも最もビターな一作。

大量のデブリが漂い常に放電現象が発生する暗礁宙域を戦場とした義足のスナイパーとジャズに乗って闘うウォーモンガーのストーリー。


「雷鳴轟く暗礁海域に潜んで待ち伏せ狙撃を得意として防衛する海軍、通称ロメロ・グール部隊とソコを攻略しようとする帝国軍の戦記だよ。お互いにゴーレムを使って戦うんだ」


「ゴーレム?なんで?」


勿論巨大機動兵器やその他の創造上の武器はトロンに伝わらないため、舞台は宇宙の暗礁宙域ではなく浅瀬で落雷の降り注ぐ難所、長距離狙撃用固定ビーム砲台は巨大弩、機動兵器は乗り込むタイプのゴーレムと言い換えて話を展開していく。

しかしポーションという言わば薬学をしていたトロンとしてはやはり畑違いかもしれないが技術体系のほうが気になるようだった。

「まぁ、アレだよ。甲冑の発展系、中にはいることで魔力を通しやすくして動かしやすくなるんじゃないかっていう発想から生まれた設定だ。中に入って自分の体が巨大化したと考えれば制御の物凄く大変なゴーレム操作も随分難易度が下がるだろう」


「魔力伝達効率……。それに感覚の延長……。確かにやり方は無茶苦茶だけど……。理には叶ってる」



話の要所要所、気になったポイントがあればトロンは即座に質問を浴びせかけてくる。

その度に覚えているストーリーと設定、そしてこの世界に来てから学んだ知識と経験を下地にしてそれに答えていく。


「そうして部隊のエースは最後の手段として自ら残った方の腕を切り落としゴーレムと一体となって精鋭重装機動ゴーレムに立ち向かう」


話も佳境、最終局面の箇所に入ればコチラも自然と語り口に熱が籠もり、身振り手振りを交えての演じていく。




「……激闘の果てに両者は相打ちとなる。お互いに搭乗していたゴーレムを喪ってしまい、ロメロ・グール部隊のエースの乗っていた赤銅のゴーレムは爆発四散し、帝国の重装機動ゴーレムも満身創痍となり二人共脱出して海に落ちながら直に顔合わせする。そしてその姿を目にした帝国の操縦者はその壮絶な姿と戦いぶりから絶叫しながらスナイパー部隊の援軍に取り押さえられ、両軍共に壊滅状態になりながらこの闘いは幕を閉じる」


これにて今月今宵の『重機動戦記落雷海域会戦』はお仕舞い、と締め括る。


「どうだった?俺としてはなかなか巧くできたと思うんだけど」


なかなか熱く語っていたため、汗をかいてしまった額を拭いながらトロンに感想を求める。

するとトロンは自身の金属の手を見つめ、少し考えてから口を開く。


「あのさ……。もしかしてその話、君が作った?」


その瞬間、俺の脳天にグサリとソレこそさっきの話に使っていた狙撃用長距離弩の矢が突き刺さったような衝撃を伴ってトロンは一刀両断に斬り込んで来た。



「えーと、質問を質問で返して悪いんだけど何故そう思うの?」


「だって端々で妙に力が入った語り口だし」


それは元々好きな作品の好きなシリーズだったので許して欲しいと思う。


「言い回しもなんか普通の話と違って敵役贔屓というか……。個人の感想が入り過ぎてるし」


学生時代に文芸をやっていたし、もっと言えば子供の時から正義の味方(主人公)側よりもそれに対抗して様々なメカを制作したり作戦を練ったりする敵側が好きだった。

それは転生しても変わらない辺り筋金入りだから最早どうしようもない嗜好の範疇の気がする。


「そもそも設定とか言っていた時点で大概妄想入ってるって判るうえに基本視点が画一的に過ぎるんじゃないかと思う」


工場勤務の単純作業の中で脳内で二次創作をやって長時間勤務を耐えていたからイヤでも妄想力があがってしまっているからそういう意味では嫌な経験実績の賜物で思わぬ自己嫌悪の不意打ちまで食らってしまう。


「も、もうこの辺で勘弁……」


ズバズバとコチラの精神にビームを撃ち込むかの如くメンタルをスナイプしてくるトロンに段々と打ち据えられ、その度に頭部が下がり『ゴフッ』という吐血するかのようなイメージが過る。 




「でも、面白かったよ」


辛辣な感想に頭を抱えながらベッドに突っ伏しそうになってしまったところで唐突にフォローが入る。


「確かに個人的嗜好が強すぎるし色々拙いけど……。話し方自体は変わってるけど面白かったし……。普通のと違う支店での展開と突飛な発想も悪くない……。何より出てきた技術は興味深いし、頑張ったらギリギリどうにかなりそうなのが気に入った」


表情こそ変わらないものの、ドコかキラキラとした瞳で打って変わって良かったポイントを列挙していく。


「それは、まぁ良かった。そう言ってくれると頑張ってみた甲斐があるよ」


実際、自分の作ったモノを評価してくれるということは創作者冥利に尽きる。


「お母様がベッドで聞かせてくれたみたいで……。その、できればまた他にも聞かせて欲しい……」


「え?それって……」


それだけ言うとトロンは返事も聞かずヒョイッとベッドから降りると、そのまま食堂へと向かうのだった。

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