パートナーは爆弾魔?

王都オクスガトル

ユニウス王国の首都たるそこは地元の町よりも遥かに賑わいがあり、それこそ前世の繁華街にもひけをとらないほどだった。







「それじゃ坊っちゃん、あっしはこの辺で」


「ありがとう」


荷物を降ろし終わり、鞄を抱えながら通りを練り歩く。


馬車の発着場から目的の学園は真反対の場所にあるため見学を兼ねて人混みを見渡せば、尖った耳の色素の薄い美形と肩にハンマーを担いだ髭もじゃの背の低い男が言い争い、また別の方に眼を向ければ耳の長い少女が犬の顔を持った子供と走り回る。

実家及び周辺の村にはいなかった様々な人種が喧騒を成して賑わいを見せてくれる。


(あれは……エルフか?原本と和製の両方がみられるなんて)


完全に御上りさん状態でキョロキョロと町並みを見学しながら歩いていると不意に飛び出してきた人にぶつかってしまう。


「うわっ?!」


「おっと……」



こちらは荷物の重量も有ってどうということはなかったものの、相手は受身も取れず顔面を強打したらしく額に腕をあてる。


「うぅ。痛たたた……」


「すみません、大丈夫ですか?」



袖をダボダボに余らせた服にすっぽりとポンチョを被った奇妙な相手、受け身も取らず顔面から地面に叩きつけられた際にフードが外れ癖の強い濃い茶髪に眼鏡を掛けた少年へ手を差しのべる。



「あ……、いや、その、大丈夫ですから!!!」


しかし両手で赤くなった額を押さえながら、一瞬袖口から手を出そうとしてハッとしたように引っ込めると半ば強引に立ち上がりながら此方の手を振り払い走り去ってしまう。


「……なんだったんだいまのは?」




そう思いながら、余裕を持っているとはいえそれなりに遠い学園へと足を進めるのだった。





王都の裏通り、表の賑やかさから一変して人通りが少なくなる。


表通りの入り口から見て丁度対極の位置に存在し、裏通りの中心から王都を下より支える新進気鋭と言う名の玉石混合達をどうにかこうにか最低使えるようにする救済施設。



『トリッガー冒険者養成学校』



伝説的英雄、トリッガー・ローゼスが創設した学園である。


主に家督を継承できない貴族の姉弟や一発逆転を狙うもの達に広く門戸を開けており、それらの受け皿になっている。


また、普通は最下級のランクから依頼をこなさなければより上位の仕事を植えられず階級も上がりにくいがこの学園を卒業できれば最低でも下級の上位~中級の下位程度階級と依頼が受けられるようになるため貴族出身以外にもある程度依頼をこなした下級冒険者が貯金を叩いて仕事をしながら入学してくる場合も多々ある。




受付に荷物を預けると校庭には既に人だかりが出来ていて下は十代の多種多様な男女がそれこそ種族も性別もなく無秩序に集まっていた。


(少し入学式を思い出したが……あれって面倒くさかったけど結構必要だったんだな)


前世では毎週の全体朝礼で並ばされていたが学生のころから整列するという行為を覚えさせられたのは元は 徴兵用と聞いたがこうしてみると入り用だったと感じてしまう。


「それではこれより入学式を執り行う、新入生は静粛に学園長の話をきくように!」


魔法で拡声したのかどこかハウリングしながら放送が流れると校庭の端から校長と思われる若い男が歩み出てくる。



「私が校長のジュノ・ローゼスです」


青みの掛かった紫黒の髪をおかっぱにし装飾のあしらわれたローブに宝玉の埋め込まれた長い杖という魔術師スタイルで壇上にあがり、口上を述べるとスピーチが始まる。


「まず、皆様当学園への入学おめでとうございます。

当学園に在籍できたということは冒険者としての確か実力、華やかな成功、安泰な将来が約束されたも同然です。


勿論、それらを成すには個々人の努力が必要不可欠で有りますがこの場に集まったみなさんはその努力する力、あるいは実力があると私は確信しております……」



何時の時代も偉い人の話は何故こうもながいのかクドクドとどこか胡散臭く、裏がありそうな口調でスピーチを続ける校長にペテンに掛けられているような気分になりながらぼんやりと話半分に思考を巡らせる。




(どうせ魔術師なら奇跡で不敗のほうに寄せて二秒で終わらせて欲しいな、お茶と歴史書を進呈するので是非とも転向して頂きたい)


「……と此にて私からの入学祝いのスピーチとさせて頂きます」



そんな事を考えていると長々としたスピーチが終わり各自教室へと割り振られる。





教室に入り、しばらくするとハデな灰髪を逆立たせた巨漢が教壇に立ち拳を撃ち付けながら自己紹介する。


「俺がお前達の担任となるラギア・ティーゼルだ!学長はああ言ったが実力の無いやつはどんどん間引いていく!!」



いきなりの厳しい発言に教室がざわつき始め、一部のそれなりに自信と自負があると思わしき数人が噛みつこうと腰を浮かしかける。


「情けをかけて技量の身に付かないまま漫然と送り出してはすぐにあの世行きだ。

一人で死ぬのならソイツの勝手だが他の有能なパーティメンバーを巻き込んで自滅など笑い話にもならん!

そしてまかり間違ってそのまま出世してしまったらパーティ全滅処かギルドの屋台骨にすら傷が付きかねん。


それでも納得いかんというのなら、


此処で一発ヤキをいれてもいいんだぞ……」



殺気混じりのドスを聞かせたその言葉に否応なく収まり、全員が背筋を正す。



「解ったようだな!では、これよりバディを決める。今後活動を共にするパートナーだから心して掛かるように!なお、公平を期すため組み合わせはくじ引きで決める。 一番前の……お前から順に引いていけ」



順番に箱に手を入れ名前の書かれた木札を取っていき、その都度ペアが決まっていく。


「次、リドル・ウォルナット!」


「はい!」


約半分の人数が呼ばれ、自分の番はまわってこないかと思っていたので急いで


箱に手を突っ込むと案の定ほとんど名札は残っておらず、数枚のうち一枚を無造作に引き抜く。


「ふむ……。トロン!」


「は、……い?」



ペアが決定され俺の相方の名前が呼ばれると教室の中が急にざわつきだす。



「ペアになったアイツってあれだろ」


「あぁ、優秀だったのにしくじって……を吹きとばしちまったんで有名だ」






「おいおい、終わったな……」





「よりにもよってあの……魔とバディになるなんて運の悪いやつ」






(一体なんだって言うんだ?)


耳を済ませばなにやら不穏な会話がひそひそと聞こえ、中には俺の身を案じて憐れむような声すらある。


思わず固まってしまうと教官からどやされそそくさと席に戻る。




「あ、あの……。俺のバディってそんなにヤバいやつなの?」



「ん?お前っ……知らないのか?あいつはポーションでトンデモナイことをやらかしたんだぞ」



異様な雰囲気に流石に不安となり、コッソリと隣の生徒に聞いてみると信じられないという顔をしながらもコッソリと教えてくれる。




「アイツは元ポーション作りの天才と謳われたが……。ある時とてつもない威力の爆発を引き起こすポーションを作って研究室を文字通り吹き飛ばしたんだよ」


横の奴の言葉に思わず目が点になる。


どうやら本当にヤバいようだ……。

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