異世界特訓生活録 テンセイシャ 休息編



「では、今回も魔剣採掘と『塩害飛蝗ソルティホッパー』の間引き成功を祝して……」


「「「「「乾杯!!!」」」」」


 すっかり日が落ちた頃、俺達は貸し切りにしてもらった酒場で打ち上げを行う事になった。


「支払いは旦那にツケていいと言われてる!今日は呑め呑め!」

 母が音頭をとり、全員が並々に注がれたにエールを一斉に呷る。

 一仕事終えた後の一杯に加え、支払いは領主持ちという太っ腹に全員が呑みまくる姿勢で遠慮なくアルコールを胃袋へと流しこむと刹那の速さで飲み干す。


「っ、クアァァァァ!!この一杯の為に生きてるよっ!」


「ハハっ、坊っちゃんそれジュースですよ。何一緒になってオッサン臭いこといってるんですか」


 日本より遥かに規制がゆるいと言っても未成年(こっちでは15歳より成人)なので建前上ノンアルコールの果汁水を口にし気分で爽快感を味わうと既に3杯目突入している班長に突っ込まれ、周りからも笑いが響く。


「良いじゃんこう言うのは気分だよ気分」


 欲を言えば好きだった強アルコールのチューハイ、もしくは炭酸が欲しいところだったが楽しい空気で箸が転げても可笑しい状態のテンションに突入しながらお代わりを注文し酒宴の喧騒に飲まれていく。


「お待たせいたしました!こちらソルティホッパーの唐揚げになりまーす!!」


「おお、キタキタ!ヤッパリこれだよ」


 誰かがそう言うと皆で大皿に山盛り盛られた飛蝗今日の獲物のフライへ我先にと群がる。


 カリカリに揚げられた後ろ足を確保し、未だ熱いそれを豪快に噛る。

 塩気のある肉汁が飛び出し、火傷しそうな所を冷たいエールで流し込む。

 この一連の流れだけで体を張って働いた疲れを癒してくれる。


 最初こそ巨大な昆虫を食すことには抵抗があったものの慣れてみれば大振りの甲殻類と鶏肉のようなジューシーさが合わさった独特の旨味を醸し出し、特に発達した後ろ足は塩気と旨味が集中していて一番俺の好みだ。

 動物の肉よりも油が少ない分クリスピーな食感を楽しめるそれは、ともすれば下手なフライドチキンよりも遥かに上等な酒の肴と言えた。


「う………………」


 そんななか唯一口元を抑え眼を背けている人物が一人。


 メイだ。


「ハハハハハハハハ、お前ま~だ虫が苦手なのか。だらしないなぁ」


「お、奥様。でも……ヤッパリ無理なモノは無理なんですよぉ」


 普段の仕事ぶりからは考えられない狼狽した姿をスッカリ出来上がってしまっている母上に突っ込まれる。


 ドリンクをエールからよりアルコール度数の高い蒸留酒に切り替えた母がバッタの触覚を咥えながら絡んでくるのを後退さる。

 嫌悪感を紛らわせようと母のもつ蒸留酒を引ったくり、それをラッパ呑みする様をネタにして酒場はより楽しく混迷を深めていく。



 この慌ただしくも充実した楽しい日々が続けば良い。

 いつかは終わってしまう生活なのだがそう願わずにはいられず、実際もう少しの間はこのような生活が続けられると思っていた。







 ________________



 ビートが自分と決闘しろなどとトチ狂った提案をするまでは…………。

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