初めてのクエスト 帰還と報告編

「それはそれは大変でしたねぇ。まさかそのような横穴が存在するとは……」


俺とトロンはどうにかこうにかその日の内に学園に帰ってきて早々、学園長に呼び出されて報告を求められていた。


「はい、本当に大変でした」


入室してきて早々に隣で疲れ切ってウトウトと舟を漕ぎ始めるトロンを然り気無く支えつつ、両手を口元で合わせながら肘を付く旧約聖書モチーフな某まるで駄目な男親のポーズをとる学園長の言葉に相槌

を打つ。


実際、あの洞窟から学園に帰ってくるのは大変だった……。


地底湖から回収した魔剣の適合者がまさかまさかのトロンであったことには二人して驚いたが、そこからがだいぶ難儀した……。


とりあえずトロンに魔剣の形状を元の形に戻してもらい、異空間に収納してもらった後が特に大変で

腕が湾曲した鋏状の義手で落ちてきた半ば崖と言って差し支えない坂道を登るのは危険と判断し、トロンを背中に担いで滑りやすい道を聖剣ツルハシを登山用のピッケル代わりに踏破してどうにかこうにか洞窟の入口まで戻ってきた。


ある程度の事は割り切って考えていたものの聖剣ツルハシで滑り落ちてきた斜面に切り込みを入れながら、時には切り崩しながら登るのは流石に厳しかった。

さらに咄嗟に手を地面に付いて支えることの難しい手を持つトロンをトロンを背負ってとなるとかつて今生の母に叩き込まれた傭兵団仕込みの鍛錬よりも神経を使う分、倍以上は疲れ電池の切れたような身体に鞭打って報告を続ける。




本来であれば日帰り、夕暮れまでには帰って来ることのできる予定であった。

事実、他の依頼に出た同期の面々は達成の成否こそあれど日のあるうちに学園に帰ってきており俺とトロンのバディがぶっちぎりで遅刻の最下位で帰還となっていた。




「それで、トロンさんが適合した魔剣はどのような能力を持っているのでしょうか? 」


「それについては持ち帰ることを優先したので試していません。

なのでまだなんとも……」


疲労で横になりたい身体の欲求を腰の横の筋から下半身を釣るようにして立つ、前世での身につけてしまった身体操作テクニックで姿勢を正しながら話す内容の最後の方は言葉を濁す。


実際は試していないものの帰ってくる道すがらトロンから聞いたところ調合の能力向上や変形しての細かく動かす事のできるマニピュレーター代わりにできるらしい。



「なので、明日にでも試してみたいので場所を頂けるとありがたいのですが」


「それはもちろんですよ」


学園長は快く了承してくれ、そればかりか「これは報酬です」といって硬貨の詰まった袋を机の上においてくれる。

受け取ってみるとずっしりと重い感触が手に伝わり、学長の気前の良さに思わず頭が下がる。


「学園長、ありがとうございます!」


「いえいえ、気にすることはありませんよ。ソレよりも明日の授業等は免除するので今日はゆっくり休んでくださいね」


疲労と睡魔に敗退して舟を漕ぐところから転覆、沈没しているトロンを半ば無理やり引っ張って直立させて一礼して学園長の言葉に甘える形で退室する。


「……流石にそろそろ自分の足で歩いてくれないかな」


「無、理。眠い」


そう言いながら意識がなくなったトロンの体を引きずって廊下を歩くと義手込みで大分重たく軽い異音と跡を残しながら廊下を歩く寮の部屋へと戻ってきた。



「ほらほら、着いたよ。ちゃんとベッドで寝なさい」


「あり、……。がと……」


夢の世界なトロンをベッドに放り投げると俺自身も着の身着のまま倒れ込み、睡魔に意識を預けるのだった。

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ソードディグアウター ミゴ=テケリ @karochi1105

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