決闘にて溝は深くへ 殴りたい兄編

「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 !!!!」」


 裂帛の気合をあげ、お互いに聖剣を打ち合わせる……。

 端から見れば互角、あるいはやや俺が押されながらも食らいついているように見えるだろう。


 実際は思った以上の踏み込みに反応仕切れず辛うじてシャベルからツルハシに形状を変化させ、その湾曲した金属塊の部分の丸みでなんとかギリギリいなした格好だ。


 反らされた一撃は炎熱を纏いながら練兵場の地面に切れ込みを作り、ビートのサクラからは歓声が飛ぶ。


「ほう、一撃で腕一本貰うつもりだったが中々どうしてやるじゃないか」


「いやいや、私じゃコレが精一杯です、っよ!!」


 平然と恐ろしい事をのたまうビートに悪態を付きながらも即座にツルハシモードからシャベルモードに戻し、めり込んだ刀身を引き抜いているビートの腹に平たい部分で横薙ぎの一発を見舞う。


「ぐっ?!この、卑怯者……がぁっ!!」


 隙だらけの所への一撃で一瞬怯むものの、その衝撃でめり込んだ刀身が抜けるのをそのままに横薙ぎの一閃が襲ってくる。


 勿論此方も距離を離したので届くはずもないが聖剣の特性の熱気が体を掠める。


「このっ!逃げるな、臆病者!」


「いや、そりゃ避けますよ!当たったら只じゃ済まないんだからっ、」

(危っな!大きさ的に2パターンしかないって思ってたけど予想外にビートの動きが良い上に攻撃範囲が広い……)


 メイから事前にビートの聖剣と戦い方のことはキチンと聞いていた。

 大ぶりの両手剣を腕力に任せて振り回し、防御の上から叩き潰す戦闘スタイルに加えて決闘自体プロレスと同じで厳格なルールではないもののお互いの武器を打ち合わせることが良しとされ、回避するのは臆病風とされる風潮から避けられる毎に慣れていないはず。


 おまけに身の丈ほどの大きさを誇る大剣はそのたくましさ故に上から振りかぶって振り下ろすか横に薙ぎ払うの大雑把な二通りの攻撃しかないため避けに徹すれば少なくとも直ぐに負けることはないだろうと予測していた。

 それ自体は正解だったが剣激に付随して放たれる熱気が思った以上に攻撃の範囲を広く感じさせてくる。


「シイィィィィィィィ……!」


「おっっと!そうはさせませんよ!!」


 唸るような呼吸音を立てて、尚も踏み込んで振るわれる大剣に鶴嘴を投げつける。


「うおっ!?」


 重心が偏ったそれは投剣? にはまるで向かないとはいえ、人を怯ませるには充分な投擲にビートが慌てて迎撃する。


「っく姑息な真似をする。だが早まったな、聖剣を投げてしまえばもう逸らせることも……」



「戻ってこい」


 回転しながら迫る鶴嘴を弾いたビートが煽ろうとして瞬間、俺の手元に聖剣ツルハシが再び姿を現す。


「んな?、!」


 ビートが驚いた声を上げたその隙に大きくバックステップし余裕を持って間合いの外へと逃れる。


 かつて職場で培った動きで地を蹴り距離を取るとビートいきなり大剣を地面に突き刺し父の方を向き声をあげる。


「父上!!先程からリドルは逃げるばかりで

 戦意が見受けられません! これは反則にあたります!!! 」


「は?」


 中々攻撃が当たらない事に業を煮やしたのかビートは審判役の父上に申し立てを叫び、いきなりの事に自分は勿論父のほうもポカンとした表情を浮かべる。


「ビートよリドルのどこが反則なのだ?防戦一方がなのはお前が強い証拠、それの何がおかしい?」


「リドルは逃げまわってばかりで攻めてきておりません!

 僅かに行った攻撃も私が動きを止めた時だけ……。それに聖剣を使って弾くのはまだいいにしても決闘において身を翻し。あまつさえ聖剣を投げては顕現で回収するなど卑怯な事をしているに違い有りません!反則以外の何物でもありません!!」


 受け流しパリィは良くて回避はダメなのか?!柔道とかじゃあるまいしよくわからん流行りだ。それに聖剣はいつでも念じれば顕現できるんだから投擲には持ってこいだと思うんだが……。


 そう感じながら辺りを見渡しの位置を確認して、この間隙を縫ってさりげなくそっちの方向へ数歩近づいておく。


「……。続行だ」


「父上!」


 父はため息をつくと無情にもビートの異議申し立てを却下する。


「最初にいっただろうここにあるものリドルは何ら反則行為は行っていない、速く続けろ。それとも降参するか?」


「な?!!っっっ!……」


 父のその言葉に一気顔が紅潮し、なにか文句でも言おうと口を開きかけて寸での所で押さえる。


 代わりにギリギリと歯軋りをしながら苛立ち混じりに地面に突き刺した聖剣を力任せに引き抜いて勢いそのまま肩に担ぐ。


「いえ、降参しませんよ、降参しませんとも…………。もう四の五の考えるのはヤメだ」


 苛立ちが頂点に達し、逆に表情が消えて幽鬼のようにゆらりと大剣を下段に構え両足を開く 。



 所謂日昇立ちのポーズのまま無言で突撃してくる。


「!!!」


 嫌な予感を感じ早めには退きながら斜め左に跳ぶと突きからの横薙ぎというある意味有名だが現実にはそうそうお目にかかれないであろう荒業が前髪を掠めて数本宙を舞う。


 一応、聖剣は自分の身体や成長にあわせて勝手にフィッティングしてくれるから絶対に無い、とは思っていなかったものの槍や薙刀と違ってそこまで柄が長くない上に見た目からして騒動な重量のあるもので刺突がくるとはやや想定の範囲外だった。

 それに加えてさっきまで饒舌に煽ってきた兄が無言で斬りかかってくるのがより一層の恐怖を助長させる。


「ちょっッ!ちょっとちょっと兄上?さすがにそれは死んじゃいますって!?」


 怒りに身を任せた荒波のような猛攻を捌きながら思わずそう叫ぶと、うって変わったような声でぶつぶつと小声で恨み節のようなものが聞こえてくる。




「五月蝿い……!ちょこまかと……。無駄に動いて……いい加減に…………いい加減にっ……いい加減にシロォッ!」


 呪詛のような呟きから完全にブチギレた雄叫びを発しながら振り回される大剣を転げまわりながら逃げる、そんな昔のカートゥーンマンガのようなやり取りをしながらも徐々に目的の位置へ誘導していると一際大振りに踏み込んでくる。


「アアアアっ!糞、本っ当にいい加減にしろ!!」



(もう少し……。後もう少し……ここだ!)


 発狂し暴れ狂う兄を充分に引き付け、鶴嘴をスコップ状にしてゴルフクラブの要領で振りかぶる。


「チャァシュウゥゥゥ…… メェンっ!と」


「ぬぉ?!」


 掛け声と共にスコップで地面を擦ればすぐしたにあつめておいた礫をビート目掛けてはじきとばす。


 大剣を構え、その重さを重心移動でスピードに変えて突っ込んできていたビートは停まりきれずに自分から石礫の弾幕に飛び込む形になりたたらを踏んで慌てて大剣の腹を盾が代わりにする。



「くっ!何故だっ!なんで練兵場にここまでの小石があるんだっ!」


 それはもちろん、事前に準備していたからである。

 決闘を申し込まれたあと両親にルールの確認

 を行ったところ、武器を隠しておくことは反則だが地形を利用することは普通に大丈夫だそうで其ならばと自分にだけわかるようにコッソリと仕込んでおいた。

 窪み、落とし穴、砂利などなど簡単にではあるものの足留めと牽制程度はできるくらいの陣地を夜中と明け方にコッソリ抜け出し作り上げた。

 そのかいあって間合いの外から一方的につぶてを浴びせかけられる。


 ここぞとばかりに挑発すればビートは更に眼を見開いて激昂し始めるが、それこそ此方の狙い。


「隙有り!」


 ジワジワと気付かれないように少しずつ距離を詰め、滑りやすいように撒いておいた砂粒を三頭身武者の如く足裏で擦り飛ばす。


「」


 絶え間無く飛来し続ける土砂と石礫に意識を集中し、足下からの注意が疎かになったところへの目潰しにビートはもんどりうって倒れ聖剣すら手から取り落としてのたうち回る。



「ぐぅっ、どこまでも汚い手を……」


 視界を奪ったビートへ最後に礫のシャワーを一浴びさせると大急ぎで後ろに回り込む。


 そして首と肩甲骨の真ん中目掛けて拳を振り下ろす!


「何処だっ?何処…!…、!??かはっ?!」


 首と背中への衝撃によりむち打ち状態となってビートは練兵場の地面に倒れ伏す。

 元凄腕傭兵の母直伝の昏倒術で頭がずれて 意識を朦朧とさせる。



 アニメなどで良くある首筋に手刀を見舞って気絶させるシーンと似た効果があるこれは下手をすると頚椎をやってしまって後遺症が残るそうだが、今回は最悪の事態に備えて父が医者及び治癒魔法の使える人員をすぐそこに待機させてくれている上に積年の恨み辛みを晴らすにはこの位はしてもいいだろう。




「こ、……の……ちゃ……戦……」


 途切れ途切れになりながらもビートは罵倒をやめなかったが意味のある言葉にならず遂に意識を手放す。






「ソコまで、勝者リドル!!」




「よっっっ…………アレ……?」


 父上の勝利宣言に思わずガッツポーズをしようとして足の力が抜け俺も倒れかける。


「「「「「「「坊っちゃま!!」」」」」」


 メイをはじめとした周りのギャラリーが駆け寄ってくるのが視界の端に映るのを最後俺も意識が遠退いていく。








(ありがとう)







 薄れていく意識の中で多大な達成感と共に感謝の声が聞こえたような気がし視界が暗転する。




 次に目が覚めたときはこの世界に来て最初に目にした天井だった。




 それからというものビートは少なくとも表立っては喧嘩をうることは少なくなり、それどころか腫れ物に触るように俺を避けるようになった。




 そのままやがて月日は流れ、学園への旅立ちの日を迎えるのだった。

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