幕間 教師達の楽肴②

お通しの皮チップスを摘んでいると店主が箱から一羽の絶叫鳥を取り出す。


「ピギィャアアアアアアアアっ!!ピギィャアアアアアアアアっ!!ピギィャアアアアアアアアっ!!」


「さて、何にいたしましょうか?やはり定番のアレですかな?」


新鮮さを自慢するように目の前で暴れまわる絶叫鳥の首を抑えながら聞いてくる。


「そうですなぁ、お願いしますよ大将」


「はいよ!」


威勢よく返事をすると絶叫鳥を板の上に押さえつけ、備え付けてある固定具に開いている方の手をやる。


半円の両端を固定できる特殊な留め具で絶叫鳥の胴体を板に止めしっかりと逃げ出さないようにし、短い羽の部分も広げた状態で先端が少し動く程度に拘束すると棚の下から棒状の器具を取り出す。


「タスケテ!タスケテェェェェェっ!ピギィャアアアアアアアアっ!!」


それは絶叫鳥専用に作られた特殊な魔道具の一つであった。

鉄のスティックの根本に熱を発生させ金属部分を加熱させるという構造も使い方もシンプルなものだが、コレを使われて客の腹の中に収まるの同胞を何羽も見てきた絶叫鳥達にとっては恐怖の象徴であり

固定された体で首を振り、羽をバタつかせながらオウムのような口調で泣き喚く。



「コラコラ暴れるなっての、」


「ピギィャアアアアアアアアっ!!イヤッ!イヤッ!ヤアアアアアアアアアアア!!!!」

店主は手慣れた動作で総排泄腔にスティックの先端を宛てがい数回試し打ちをするように加熱する。


「ピギィャアアアアアアアアっ!!ビイイイイイイイィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィ!」


ジュッ、ジュッ、と接触した場所から肉の焼かれる音とともに絶叫と内臓、肉汁のとろけた香りが立ち込め食欲をそそってくる。


「しかし、これは少々刺激が強いですね。食べるためとはいえ生きたまま腹の中をやくとは……」


「ええ、この料理法は旨いんですがお客様を選びましてねぇ。ですので解っている方にしか出さないようにしているんでさぁ。

こうしてなかからじんわりと熱を通してやると生存本能で血が巡ってジューシーになるだけじゃなく防衛本能からか滋養のある成分を分泌してくれるので身体にも良いんですよ」


会話しながらも店主は料理の手を止めず絶叫鳥の声に合わせてスティックをグリグリと上下左右に動かして体内を満遍なく焼いていく。

「ピギィャアアアアアアアアっ!!ビイイイイイイイィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィ!」

時に抜き差しして浅い部分と深い部分を、交互に

焼きムラを作らないように熱を通し、その度にダメージを受ける場所が変わって絶叫鳥の声色も変わる。



「アツイっ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィ!!!!!」


文字通り腹の内側から焼かれる料理法にやがて絶叫鳥が断末魔の声をあげる。

暫くして動かなくなると店主が魔道具を引き抜き、総排泄腔から腹開きに捌いていくとコクの有る匂いが店内に広まり、二人して自然と唾液が溢れてくる。


「絶叫鳥の輻射焼きになります。御賞味ください」

 

匂いに耐えきれず店主の言葉もそこそこに一口切り取れば即座に口にし、調理方法のグロテスクさに対してありえないほどの上品な味わいに二人は思わず無言で食べ進める。


「これはワインに合いそうですね」

「お、流石は学園長。わかっていらっしゃる。大将、ワインを2つ頼む」


芳醇な肉質に加熱で破裂した内臓がからみ合い、上質なフォアグラを高級なステーキにからませているかのような味わいに一息つくと濃厚な味わいに少し重たくなった口を潤すため追加でワインを注文する。


「はい、こちらには渋めのものがよく合いますよ」


運ばれてきた赤ワインを口にすると絶叫鳥のともすればクドいと感じられるミルキーな甘さの脂の味と内臓の重厚な苦味をアルコールの風味と葡萄の渋み、酸味が引き締める。

そうしてまた肉を食べるとワインが欲しくなり逆もまた同じ……。


「ふぅ、一気に食べてしまいましたね。では次はもう少しコッテリしたものをいただきたいのですが」


互いが互いを高め合って奏でるマリアージュにいつしか他の捌かれる絶叫鳥の悲鳴すらも心地よく、酔うのも忘れるほどあっという間に完食してしまったためジュノがもう一品注文するのだった。


 

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