海に映る暁闇1



 遅れた時間を取り戻すように、サクサクと電車を乗り継ぎ江乃島駅に着くと、駅前のコンビニには既にみんなが揃っており、彩葵は直ぐに芳憐ちゃんの元へ走って行く。その日が晴れならば行くと言っていたレイラも来ているし、ちゃんと湊介も来ている。


「おはようございます!すいません俺達が最後みたいですね」

「サリュン、ケイ君。そんなに息を切らせて走って来なくても、まだ集合時間になってないし、だいじょぶだいじょぶ!」

「本当ですか?良かったぁ〜」


 とにかく間に合った様なので、飲み物でも飲んで一息つこうと鞄に手を掛けようとしたが、部長の後ろで舞先輩と話す栗花落が見えたので、挨拶をしようと彼女の肩を軽く叩く。


「おはようございます。舞先輩、栗花落」

「……あぁん?気安く触らないで天晶。私今日から潔癖症なので」

「めっちゃキレてる!?部長、栗花落がめっちゃ不機嫌で全然大丈夫じゃないんですけど!?」

「うんうん、全然おっけー」


 そう言いながら独特なオッケーサインを繰り出す部長。どっかで見た事あるポーズだな……って牛久の大仏様!?

 近くに鎌倉の大仏様があるのに、わざわざ遠くの大仏様でボケるの!?

 てか近いも遠いもないしバチが当たるわッ!そもそもこれって、部長の天然が出てるだけかもしれないし、取り敢えず分からないボケはスルーするとして、


「どっからどう見てもオッケーじゃないですよッ!関東の人に『え?お好み焼きとご飯一緒に食べるの?』って馬鹿にされて怒る関西人並にメンチ切られてるんですけど!?」


 いつもは自分からボディタッチしてくる癖に、今日は駄目らしく、隣では栗花落がまだ、おぉん?とか言って凄んでいる。いつもの無表情も相まってよく分からない怖さがある。


「それほど楽しみなんじゃない?だって媛凪ちゃん、集合場所一番乗りだったし」

「そうですよ、結翔君。今もイベントの内容を確認していた所ですから」


 今すぐ、イベント会場である水族館に行きたいけれど、待ち合わせがあるから嫌いな人混みでも我慢して待っていたのだろう。だから一番最後に来た俺に、溜めていた鬱憤を放出しているのか。


「そっか、それなら待たせてごめんな。後でお詫びに何か奢るから許してくれ」


 そんなに楽しみにしていたのなら、ジュースかお土産くらいなら買ってあげてもいい。


「……ん、じゃあ五十万円のAI搭載等身大モアイヌ」

「なにそれ欲しい!会話とか出来るなんて、《イースターファンタジー》好きには堪らない!」

「……ちがう、愛情AいっぱいIって書いてあった」

「新しいAI詐欺ッ!運営は何を思って、愛情という付加価値に対してそんな価格設定にしたんだ?間違って買ったら苦情いっぱいだろ!」


 愛情って、多分よくある『一つずつ手作業で作りました』とか言うやつだろ?そんなのよくあ——


「…… 素材はゲーム中と同じで石で出来ていて、表面の研磨作業は人が手で撫でて仕上げてるらしい」

「じゃあ納得の価格だわ!どれだけ時間掛かってるんだよッ!てか栗花落はこの誰かが撫でくりまわして作ったモアイヌいるの?」

「……だって可愛いから」

「栗花落の知能がどっか行った!?潔癖症になったんじゃなかったのか!ってそもそもお詫びの対価大っきくない!?一般高校生が買える物じゃないだろ!それに奢るとは言ったけど、何かであってなんでもじゃありません」

「……チッ、仕方がない。とりあえずその何かで許してあげる」

「あ、ありがとうございます?」


 遅刻していないのに、友達に理不尽に怒られるとか切なすぎる。

 でも栗花落の奴、朝は低血圧で弱いからと言って遅刻の常習犯だけど、今日は一番最初に来ていたんだな。それくらい楽しみにしていたのだとしたら、誘った甲斐があったってものだ。




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