ランチと旗雲 5


「部長?珍しいですねここで会うなんて」


 彼女も弁当を持参して学校に来ている生徒だ。俺みたいに友達の付き合いでくる奴らもいるが、常日頃から一緒に行動を共にしている、コンビの片割れである舞先輩も弁当を持って来ている人なので、普段から食堂は利用していない。

 ごく偶に、部長達が食堂前にある自販機に、飲み物を買いに来る時に出くわす事はあるけれど、手元を見ればその様子も無い。

 だから、今日は珍しく学食を食べに来たのだと思ったのだが、何やら部長は胸を張ってドヤ顔を浮かべている。


「今回の限定メニューは、私と舞ちゃんで考えたのが採用されたんだよ!だから一緒に宣伝がてらパフォーマンスしてたのだッ!!」


 あのカオスな料理はこのコンビの案だったのか……。

 限定メニューは生徒から応募した料理の中から選ばれ、しかもそれが秋の文化祭の時に生徒らの投票で一位を取れば、常時メニューに加わるというものである。その為の布石として部長はここに来ていたらしい。

 成る程、学校の有名人である二人がパフォーマンスをしていたから、食堂が混んでいたんだな。


「櫻井先輩、これめっちゃ美味いっす!野菜もいっぱい入ってて、何よりキムチとタルタルソースのハーモニーが抜群ですよ!」

「ありがとう!注文してくれたんだ!見た目もインパクトあるでしょ?これって旅行行った時に食べてからのお気に入りで、韓国のキンパって奴を元にして、私と舞ちゃんでオリジナルの味付けを考えたんだよね。そういえば旅行で行ったあの島、何て名前だったかな?エスタード島?」

「いやいや!?石版でも探しに行ってたんですか、部長!」

「チェジュ島ですよ、唯」


 右手でクイッと眼鏡を上げながら、正しい地名を答えてくれたのは舞先輩だった。部長がいるのだからこの人もいると思ってたけど、急に現れましたね……。一体何処にいたんですか?

 それにしても、これって実際にある料理が元となっていたのか。訳わからんとかいちゃもんつけてすんません。


「それで、部長はどんなパフォーマンスをしてたんですか?」

「ブレイクダンス」

『スゴッ!?』

「ふぅー、キレッキレのグルッグルでしたから、私も指が痛いです」


 一同が声を合わせて驚く。


 図書部だからインドア派だと思われがちだが、この二人はアクティブでいて更に運動神経も伴っている。いっそ、運動部の方で活躍したらいいんじゃないかと思う時もあるけれど、好奇心旺盛な人達だからきっと、自由にやりたいが為に維新科を立ち上げたのだ。


 そんな中、彩葵だけは反応していない様だったので気になったのだが、舞先輩が組んだ手の掌を前方へ向けて、ストレッチをし始めたので意識がそっちに移ってしまった。

 グルッグルって事は腕を軸にして回ったりもしてたのだろうか?


「舞先輩も一緒に踊ってたんですね」

「いえ、私は横でクッキーを食べつつ静かにお茶を頂いていました」

「単純なブレイク違い!?」

「指は唯のダンスをカメラに納めようと連写をし過ぎて痛めたのです」


 何してるんだよ、この先輩。部長の事好きすぎるでしょ!?


「でもその後、舞ちゃんも踊ってたよね!ブレイドダンス!」

「ドラ○エのパーティーかなんかですかッ!?」

「幸いにも食堂なので刃物はそこら辺にありましたからね」

「本格的なのやっちゃってたよこの人ッ!?何故、誰も止めない!」

「舞ちゃんの剣舞に生徒達は釘付けになり——そして伝説がはじまった……!」

「ロトォォォーーッ!?」

「……剣舞を会得しているなんて、舞先輩はやっぱりチート枠」


 ごくり、と喉を鳴らす栗花落と顔を見合わせて頷き合う。本当にこの人って何かと不思議いっぱいの人だよな……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る