ランチと旗雲 6


 俺と栗花落が軽く畏敬の念を抱いている間も、部長と戯れている舞先輩。

 彼女の事は取り敢えず置いておくとして、周りを見ればこのやり取りに参加していない面々が、ポカンとした顔をしていた。

 いつの間にか、普段部室で繰り広げられている図書部のノリになってしまっていたようだ。

 尊敬すべき上級生との初めての邂逅で、おもちゃ箱をひっくり返した様な自由奔放さを見てしまえば無理もない。


 そんな状況を察してかは分からないけれど、部長が舞先輩にステイを掛けて話を戻してくれる。


「急に乱入しちゃってごめんね。ケイ君と媛凪ちゃんを見つけたからつい勢いで来ちゃった」


 ウィンク一回にエヘヘと付け加えて部長が言う。

 それは全方位に放たれたものだったが、被弾した湊介にはクリティカルを与えた様で、隣で可愛いと感嘆の声をあげている。


「は、はぁ……えと、新入生組は知らないと思うから紹介するよ。こちらは図書部維新科部長の櫻井唯先輩と、副部長の中野舞先輩」

「ッ!ユイマイコンビ……」

「そしてそっちに座っている方から、俺の妹と祥兄の妹さんの芳燐ちゃんです。あと、おまけの真鍋です」

「おぉ、結翔君と祥真君の妹ちゃん」

「冨樫君の……妹」

「おまけって……でも、この面子ならおまけっていうのがしっくりくる俺がいる」

「は、初めまして!」


 取り敢えず、紹介を終えた所で場の空気も戻って来た様だ。栗花落だけは、最初からずっとマイペースにご飯を食べ続けているけど、挨拶を終えて他の皆も、徐々に箸を動かし始めている。


「それで、さっきの話だけどどっか遊びにいくの?やっぱりエスタード島?」

「そろそろドラク○から離れて下さい!」

「ルー○?」

「クッ、餌を与えてしまった……。島は島でも江之島ですよ。水族館で《イースターファンタジー》のイベントがあるので栗花落を誘ってたんです」

「あー、なるなる。媛凪ちゃんも好きだもんね」

「……ん、あれは神ゲー」

「だよな。イベントの内容も充実してるみたいだしファンなら行かないとな!」

「おぉー、媛凪ちゃんがこんなに眼を輝かせているなんて!なんか面白そうだから私も行きたいッ!!というか連れて行くのだッ!」


 部長が俺に詰め寄り、サイドダウンの髪を使って鞭の様に攻撃してくる。と言っても痛くはないし、逆にくすぐったい。それに何かいい匂いもする。アロマの風を送られている感じだ。と、癒されている場合ではない、くすぐったさが優ってきているので、そろそろ止めよう。


「分かりましたから落ち着いて下さい。じゃあ、どうせならここにいるみんなで行きます?湊介は勝手に付いてくるだろうし、芳燐ちゃんも一緒にどうかな?えと、舞先輩は——」

「勿論。唯がいる所に私ありですから行きます」

「お、お邪魔でなければ私も行きたいです」

「てか俺の扱いだけ雑じゃあない?まぁ、付いて行くんだけどね……」


 誘っといて何だけど、結構大人数になりそうだ。だからと言って、湊介を決して雑に扱っている訳ではなく、この人数で男一人だと少し居心地が悪いし、寧ろ来いと言いたい。でもその場合、俺の事をよく知っている湊介はそれを察し、面白がってこの誘いを断るはずなので、敢えてこんな言い方をしたのだ。

 それにもう一人女の子が増える予定でもあるのだから、男子比率は上げておきたい。という事で、


「あと、レイラも誘っておきますね」


 図書部が揃っているのに彼女だけ誘わないとなると、後で何を言われるか分からないからな。


 こうして、雪だるま方式に増えたメンバーによる《イースターファンタジー》のイベント参加が決まったのだった。




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