ランチと旗雲 裏


「ふンッふふふンッ♪」

「あーちゃん、ご機嫌だねー」

「えへへぇ〜分かっちゃう?」

「うんうん!分かるよぅー、だってこれからお昼御飯だもんね!」

「芳燐ちゃんの中の私がいつの間にか食いしん坊キャラに!?」


 腕を組みながら、うんうんと頷いてポニーテールを揺らしている芳燐ちゃんだけど、的外れもいいとこだよ。

 と言うか、私はそんなに大食いでもないし、四六時中お菓子とか食べ物を口の中に入れたりもしてないと思うけど、その認識って一体どこから来てるのか、ちょっとその辺りが引っ掛かる所なんだけど?


 見当違いな芳燐ちゃんの事はともかくとして、機嫌が良いのは勿論、お昼御飯が理由ではない。

 それは昨日、お兄ちゃんと一緒に水族館に行く約束を取り付けたからだ。もはやこれはデート。本当その日が楽しみだよ!


 そんな感じで四限目が終わり、浮かれながら食堂へ続く廊下を歩いている私と芳燐ちゃん。

 普段なら、私達は教室でお弁当を食べているのだけれど、今日は祥兄の部活の都合で、芳燐ちゃんのお弁当が用意されていなかったらしく、それならば入学してからまだ利用した事がない食堂に行ってみよう、と言う事になったんだよね。


「そう言えばここの食堂ってメニューが豊富らしいんだよぅ。そんなにいっぱいあるなら私迷うな〜、あーちゃんだったら何が食べたい?」

「う〜ん、そうだね〜あッ!あれあれっ、プッタネスカ!」

「パスタかぁ、いいね!」

「それからメインディッシュは小羊背肉のリンゴソースかけで、デザートはプリン!そして、全部食べ終わった頃、私の身体は健康体に!」

「んぅ?健康体?」

「そうだよ〜、プチトマトみたいな妖精の効果でね!」

「ち、ちょっと待って!……何か嫌な予感がするんだけどまさかそのコースって……」

「うん、J○J○だね!」

「だから伏字になってないよぅ!?」

「あぁ、ごめんね!そうだよねアニメ化したら表現しずらいよね?」

「そう言う事じゃないよぅ!?これは他愛もない女子高生の日常会話なのだけれども、もしかするといろんな方面からお叱りが来るかも知れないんだよぅ!」

「そっかー、そのときは…………天晶彩葵はクールに去るぜ」

「もぅッ!だからその『おせっかい焼きの人』みたいな事も言っちゃダメだってッ!そして言い逃げしないで帰ってきて!!」


 うんうん、今日もワタワタしている芳燐ちゃんは可愛い。


 するっと廊下の曲がり角に消えて行こうとした私の腕を掴み、頬を膨らましている彼女に、いつも忍ばせているお菓子を食後のデザートという形で差し出し機嫌を取り、いよいよ食堂の前にたどり着いた。


「食堂って何だか入りづらいよね」

「そうだね。初めてっていうのもあるけど、やっぱり上級生が大半を占める場所ってなんか緊張しちゃうよ」


 そう答えて辺りを見渡してみると、ネクタイやリボンの色からして、やはり新入生の割合は少ないように思う。

 それにしてもここって毎日こんなに混んでるのかな?特にあの人集りが……ん?あの中心で踊っている人って確か前にお兄ちゃんが所属してる部室で見た人だ。


 男女問わず多くの生徒に囲まれている様子から、この学校での知名度が高い人なのだと推察出来る。

 そんな人とお兄ちゃんが繋がっているなんて、日向よりも日陰を好むお兄ちゃんなのに部活の繋がりがあるとしてもそこはかとなく怪しい。


 もやもやと考えながらメニューを見ようとした時だった。

 ピーンと来た!この気配はお兄ちゃんだ!


 私達が通ってきた食堂に続く廊下を見ると、少し癖っ毛で男の人にしては可愛い系の顔立ちをしたお兄ちゃんが、こちらに歩いてくるのが分かったので私は大きく手を振って声を掛けた。


 合流するとどうやら三人でここまで来たようで、一人は私も知っている真鍋湊介君。そしてもう一人は女の子だ。この人も図書部に行った時、確かいたような気がする。

 紹介を受け挨拶を交わす。彼女の名前は栗花落さんと言うらしい。幼く見えるけど私の一年先輩だった。


 それにしても……むむぅ……栗花落先輩、ずっとお兄ちゃんにくっ付いてるな。


 引き剥がす手は無いものかと考えていると、お兄ちゃんが食堂の案内を提案する。しめたとばかりに私はこれに乗じて、彼女を連れ去る事に成功した。


 そして先程の密着ぶりから、お兄ちゃんとの距離感を危惧した私は対策を講じる事にする。栗花落先輩には悪いけど女子力低めの焼き鯖定食を食らってもらおう。

 でも意外なのはノリノリで芳燐ちゃんも勧めている事だ。そんなに魚好きだっけ?


 しかし、この選択が裏目となった。


 なんと焼き鯖を勧めたばかりに話題が水族館にっ!調理した生き物を前にその話題の振り方はどうなの?真鍋君もちょっと引いてるよ。と言うかこの流れは拙い。

 お兄ちゃんの事だから安直にこの人達を誘いかねない。せっかく二人きりのデートなんだから邪魔はさせない。


……って、誘うの早ぁ!最初から誘う前提があったような流れだよ!!

 しかもそうこうしてるうちに部長さん達も合流しちゃって、水族館に行くメンバーがまた増えた!

 ゔぅ……せっかく席を食堂の奥にして会わない様にし向けたのに……


 あ゛ぁあ゛ぁぁーー、私とお兄ちゃんのデート回がぁあぁぁ〜。

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