ランチと旗雲 4
俺以外の皆が、注文をする為にカウンターの方へ行ったのを見送った後、彩葵に言われた通り飲食スペースの奥で、人数分の空いたテーブルを見付けて席に着いて待っていた。
こうゆう賑わっている場所に、一人でいるのはあまり得意ではないが、普段からよく利用している事もあって、最近では携帯を弄っていれば無駄な挙動不審を抑制出来るという発見に至っている。本当スマホゲームって時間を忘れるよね。
程なくして、トレーを持たない彩葵を先頭に、料理を持った面々がこの陣取った長テーブルに辿り着き、二年生組と一年生組に対面する様に分かれて各々が着席する。
「待たせたな結翔。そんじゃあ、お待ちかねの昼御飯をいただきますか!」
弾んだ声で湊介が律儀に手を合わせてそう言ったのを合図に、学食組が料理に手を付ける。天晶家二人も弁当をひろげて、それに続く様にして食べ始める。
上機嫌の湊介を見るに限定メニューは売り切れる前に頼めたようだ。
ふと、その料理が気になったので手元に視線を落としてみる。
……何だその主食の主役。
秋刀魚が丸ごと海苔巻きの中に入ってんだけど!季節感も完全にシカトしてるし、なぜこれが採用になったのか経緯を教えてほしいくらいだ。
左隣の奴がこんな料理を注文していたので、まさかと思いつつ右隣も確認しておく。
「んで栗花落の頼んだ物は——」
「……焼き鯖定食」
「渋ッ!もっと色々あっただろ!」
ザ・定食だから文句はないけれど、高校生が昼に進んで食べるようなチョイスではないと思う。
女子高生らしく、映えを狙ったドレス・ド・オムライスとかホットサンドとか、テンションが上がりそうなものが豊富にあったはずだ。まぁ、世間の流行りを積極的に取り入れる我が校の食堂には、一般の学食らしさはないけれど。
一応、彼女も思う所があったようで、俺の指摘を聞いて頼んだ本人も、不思議そうな顔をしながら首を傾げている。
「……いつのまにか天晶妹の、何故か親しみのある力説に乗せられて気付いたら注文してた」
親しみのある力説って何だよ。
アマゾンを冒険中に、偶々目に止まったゲームの評価が高くて、流れでそのレビューを読んで思わずポチッちゃう感じか?
確かにこの定食を見るに、バランスの取れた食事であるのは分かる。それに、彩葵が進めたのなら間違いないのだろう。妹は健康にはうるさい方だから、そっち方面を軸に置いてレコメンドしたのなら納得も出来る。
「そうだそうだ、魚で思い出したけど水族館でイースターファンタジーのイベントやるの知ってる?」
「おいおい、焼き鯖で水族館を結び付けるなよー可哀想だろ……でもまぁ、それならオレもテレビで見たわ、限定グッズとかあるんだってな」
「……!?限定グッズ」
やっぱり食い付いて来たか栗花落。好きなゲームの限定グッズがあると聞けば、反応せずにはいられないよな。
「近々、彩葵と行こうと思ってたんだ。良ければ一緒に行くか?」
「……どうしよう、人混みは嫌だけど天晶が一緒なら……」
「あッ!お兄——」
「なになに?どっかいくの?」
彩葵が何か言いかけた所で、花が咲くように明るく、抑揚のある声が耳元に響く。
俺の肩に手を置き後ろから顔を出したのは、我が図書部部長の櫻井唯先輩だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます