ランチと旗雲 3


「そう言えばお兄ちゃんってお昼、いつもここで食べてるの?」

「あぁ、湊介に付き合って割と学食に来て食べてるよ」

「ほうほう、それなら私もお昼は食堂に来ようかなぁ……ところで、さっきからずっとお兄ちゃんの後ろにくっ付いている人は?」


 彩葵を盾に隠れる芳燐ちゃんと、合わせ鏡の様に俺の背に引っ込んでいる栗花落を見て、俺に説明を求める妹の声色が、なんだかチクチク感じるのは気の所為だろうか。

 ふるふるして小動物みたいで可愛いから、敢えて密着している事に言及しなかったのを気取られたのなら、此処が潮時である。


「こいつは同じクラスの栗花落。ほら、お前もいつまでも隠れてないで出て来いよ。オル○デミーラの最終形態なんていないから怖くないぞ」

「……割と第三形態も怖い」


 確かに、ちょっと人型だもんね。分かる分かる、軽いホラーだよね。しかも攻撃力割と高いし、バイオでハザードの部類だと思うよ。


「彩葵です!いつも兄がお世話になってます」

「……天晶妹、宜しく」


 良く出来た妹よろしく、彩葵がキッチリとお辞儀をする。返す栗花落は俺の後ろから頭だけを出して小さく頷く。これには木の穴から顔を出すリスを連想してしまう。

 皆さぁーん!ここに可愛いリスがいますよ!庇護欲を豪速球で刺激してきます!なのでお家に持ち帰っていいですかッ?

 クッ、ダメか……報連相しても全てが此方に都合良くはならないか、無念。

 しかしまぁ、リリースしないとメニューを選びに行けないからしょうがない。


「ところで彩葵ちゃんも芳燐ちゃんも新入生だし、栗花落さんと同じで食堂来た事ないんじゃない?」

「それもそうだな、なら俺が席を取っておくから湊介に案内してもらえば?」


 一年近くここに通い、更には食堂のお姉さん達といつの間にか仲良くなって、オマケをよく貰っているくらいなのだから適役だろう。


 俺がそう提案すると、ギュッと制服をつかまれて何故か栗花落の密着度が増した。話した事のなかった湊介を警戒してるのか?


「じゃあ俺が案内するから行こ——「私達が案内します!メニュー選びとかこうゆうのは女の子同士の方がいいんですよ!」

「そ、そうだねあーちゃん、さぁさぁこちらですよ栗花落先輩!」

「ッ!?あぅっ……あまあきぃ~~」

「はいはい、私も天晶ですからねー。ささっ、はやく行きましょう!お兄ちゃん、奥の方は席空いてたからちゃんと取っておいてね!」


 俺と栗花落の間を手刀でピシッと切り剥がした二人に、彼女はそのまま連れ去られて行ってしまった。

 そして、彼女達をエスコートしようと、中途半端にあげられた湊介の手が、行き場を無くして置き去り感が増している。


「なぁ結翔、俺はいらない子かな?」

「女の子同士仲が良いのはいいじゃないか。それに湊介には俺がいる」

「慰めはいらねぇぜコンチクショーッ!!」 


 捨てゼリフを吐いて行ってしまった。

 慰めでもなくお前は俺が辛い時、何度も声を掛けてくれていたんだ。そんな友達を見放す訳がないだろ。



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