ランチと旗雲 2


「あっ!お兄ちゃん!」


 初めて食堂に来た栗花落の為、列に並ぶ前にメニューを見に行こうとしたら、丁度向かおうとしている方から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 行き交う生徒達の中、元気一杯に大きく手を振ってアピールしている二人の姿が見える。


「彩葵達も食堂に来てたのか」

「うん!いつもは芳燐ちゃんと教室でお弁当を食べてるんだけど、今日は祥兄の朝練の都合でお弁当がないらしいから、一緒に学食で食べる事にしたんだよ」


 朝が早過ぎて、お弁当が用意出来なかったってところか……だとすると、サッカー部は気合入ってるな。全国大会に出たりするような部ではなかったと思うけど、今年は期待の新人でも入ったのか?


「おっ!彩葵ちゃんだ久しぶりー」

「お久しぶりです、真鍋君。去年の夏以来ですね、お元気でしたか?」

「元気元気!彩葵ちゃんも元気そうで良かった!ん?そちらの子は彩葵ちゃんのお友達?」

「そうです!祥兄……っと、サッカー部の富樫先輩の妹さんって言えば分かりやすいかもですね」

「と、富樫芳憐です」

「おぉー、あのサッカー部のキャプテンでイケメンな富樫先輩の妹さんか!通りで可愛いと思ったわー」

「そんなことないですッ!あーちゃんと比べれば、へっぽこ女子です!」


 見た目通りの軽い絡みを見せる湊介に、警戒心を抱いているようで、彩葵の背後から半身だけ出して答える彼女。昔から人見知りをするタイプの子なのでそれは無理もない。

 しかし、へっぽこって……今時の女子高校生が使う言葉なのか?でも祥兄も一昔前っぽい言葉をよく言ってるしな、さすが兄妹といった所か。


「確かに彩葵ちゃんも可愛いけど、芳燐ちゃんも可愛いって!テレビに出てても違和感ないぐらいに!なっ?結翔!」


 何故俺に話を振る?

 君の持つそのコミュ力で何とかしなさいよ。

 と思ったけど……成程、こうやって会話を回す事によって話を広げていこうとしているのか。勉強になります!

 ま、どうせ披露するところはないし、あったとしも棒に振る自信しかないけれど。


 突然の同意を求められて、そんな風に自分の中で逃避していると、湊介と一緒に上目遣いでチラリと芳憐ちゃんが俺の方を見ているのに気付いた。てか、湊介はこっち見んなッ!男の上目遣いとかやめろッ!


 しかし、これは答えないといけない雰囲気になってるな。幼馴染に言うのもなんだか気恥ずかしいが、事実は肯定すべきだろう。


「あぁ、俺も……可愛いと思うよ」

「ほ、本当!?(やたッ!)」


 思ったより恥ずかしかった。声とか震えてなかったか?幼馴染とは言え、女の子に面と向かって言うには、紳士力がまだまだ足りないようだ。

 この事は真摯に受け止めて、今度はスマートに対応出来るようにしょう。


 ふと視線をずらすと、芳燐ちゃんの横で彩葵が頬をプクリと膨らませていた。

 もしかして返答の言葉を間違えていたのか、はたまたスマートさが足りなかったのか……

 不安になりながら我が妹の様子を窺っていると、何か思い付いたような顔をして、ニヤニヤとこちらに擦り寄って来て言う。


「お兄ちゃん、それは間接的に私も可愛いと言ってるのと同じでは?」


 何に対して不機嫌だったのかは分からないが、いまの質問を思い付いた事で、それが解消されたのであれば重畳だ。また機嫌が悪くならない内に、ここは素直に答えて早めにやり過ごすとしよう。

 彩葵も昼御飯はまだ取っていない様だし、頬ばかり膨れても、お腹はふくらまないからな。


「ふむ、少々強引な解釈であると思うが否定はしない」

「はぁわわっ、自然な流れで兄の妹口説き炸裂や~」

「何故、彦摩呂風?今から昼御飯だから?だったら食事した時にそれ使おうよ」


 とりあえず、気持ちは昼御飯に向いているっぽいから良いとして、そろそろ痺れを切らした栗花落に後ろから肘鉄を食らいそうだから、早く昼食にしよう!



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