闊達の図書部 幕


 自分自身にもウザさが出始めてきたので、落ち着く為にここで一旦深呼吸をしよう。

 これが結構、効果がある。リンゴマークのスマートウォッチが時々勧めてくるのは伊達ではない。

 すると、いまだ床に倒れたままの状態でいる俺の視界の片隅に、透き通った白い手が映った。


「大丈夫?ケート?」


 この声と俺の呼び方的にレイラが手を差し伸べてくれている様だ。

 あんな扱いをされた後なので、その優しさが際立って感じられる。


「あぁ、ありがとうレイラ」


 心配した声掛けにそう返し、その手を借りて立ち上がろうと迂闊にも顔を上げ始めたーー

 そこで、ある事に気付く。


 今の彼女の体勢は、俺の頭の上で膝を曲げてしゃがみ込んでいるのである。

 つまり見えてしまった。


 具体的にはそう、タイツ越しに見えるパンツがだ。


 もし、ここで眼の動きを止めてしまえば、彼女にこの事がバレるのは必至。

 でもこれは不可抗力なので、レイラなら謝れば許してくれるだろう。けれど女の子としては、事故であろうと男に下着を見られたという不快な気持ちは残るかもしれない。というか何より、俺が単純に気不味い。

 だからここはバレない様に乗り切るのが一番なのだ。


 このまま頭を上げる速度を変えず、不自然な動きもしない!


 そして、動揺を殺してレイラの碧眼を見る!


 こちらに向ける柔らかい笑顔が心に刺さるが、この様子だと俺がパンツを見てしまったのはバレてはいない筈だ。


 やったぜ!ミッションコンプリート!


 しかし喜んだのも束の間、本作戦は続いていた。


「……脳内メモリーに新しいの、増えた?」

「お前は後ろにも眼があるのか!?」


 裏ボスがいたなんて聞いてないんですけど?


 依然として、画面を見ながら主人公を操作しているはずなのに、今の俺の状況がどうして分かるんだよ……。


「どうかしたの?」

「な、何でもない!」


 そんな二人のやり取りを、不思議そうに尋ねてくる今日はハーフアップの髪型のレイラ。その髪色はブルネットと言うらしい。

 顔も小さくてスタイルが良く、正にモデル体型とはこの事だろう。

 その容姿から、一年生の秋頃この高校に転校して来た時なんて、かなり話題になっていたほどだ。

 そして、俺が彼女の名前を耳にして思い出したのは、小さい頃よく妹と一緒に遊んでいた幼馴染の一人だったという事。


「レイラは昔と変わらずこうゆう時、手を差し伸べてくれるな」

「べ、別にいつもケートの近くにいる訳ではないわ!今回も偶々、眼の前にあなたがテンプレの様に転がっていただけで……け、決してまたそばにいたいから図書部に入ったのではないのよ!」


 顔を赤くして早口で捲し立てる彼女から察するに、どうやら昔の話を持ち出したせいでレイラ的に恥ずかしかったのか、怒らせてしまった様だ。

 きっと、幼い頃のおねしょを言いふらされたみたいな感じなんだろうな、だったらほんとすまん。

 それは俺も悪いと思っているんだ。

 でも、これだけは言わせてほしい。


 いつも好きで床に転がっている訳じゃないやい!


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