放たれる奔走への嚆矢


「あーちゃん、部活何に入るか決めた?」

「んっとねー、学園生活支援部!」

「そんな通称なんとか団、この学校にはないよ!」


 えー、ないのかぁ~。高校に入ればあるものだと思ってたよ。お兄ちゃんの持ってる本には、生徒を手助けする部活って割と出てきたんだけどなー。


「そっかー、あっ!団と言えば私S○S団に入ってみたいなー」

「それ!?伏字になってないよう!初っ端からスレスレを行かないでくれないかな!もぉー、普通に教えてよ~」


「…………禁則事項です♪」

「だからダメだってば!!」


 このネタも分かるなんて、私はお兄ちゃんの影響で詳しくなったけど、芳憐ちゃんもアニメやラノベ結構読んでるっぽいよね。もしかして私に合わせてくれてるのかな?だとすると、さすが我が親友だね!

 それにしても、今日はやけにツッコんでくれるなー、まるで初登場でここぞとばかりにキャラをアピールするヒロインみたいだよ?そんな事しなくても十分可愛いのに。

 あっ、ちょっとからかいすぎたかも知れない、こちらを見て頬を膨らませていらっしゃるもの。


「冗談だよ冗談!中学の先輩の誘いもあるから陸上部に入部届けは提出したよー。芳憐ちゃんは?」

「んー、迷ってるんだけど家庭科部かな?」


 元に戻した頬に指を当てコテンと首を傾げ、ポニーテールをふわっと揺らして答えてくれたのは私、天晶彩葵あまあき あおいの幼馴染である富樫芳憐とがし かれんちゃん。親同士の仲が良くて昔からよく遊んでたんだ。

 家は離れていて学校はそれぞれ違うところだったけど、今年からこの秋桜高等学校で一緒になれたんだよ。

 そして入学式から数日が経った放課後の今、話題に上がっているのが部活動。

 この高校の校則では何かしらの部活に入らないとダメらしいんだよね。

 確かに人間関係を広める為とか心を鍛える為等には必要なのかもしれないけど、強制はいくない!

 だってお兄ちゃんと遊ぶ時間が減っちゃうもん!

 そうゆう時間も大切だと私は思います!


 ……そう言えばお兄ちゃんは何部何だろう?


「ところであーちゃんは図書部には入らないの?」

「図書部?なんで?」


 脳内で学校に抗議をしていたら、聞いたことのない部活名が出て来た。

 それって図書委員の事?本を読むのは好きだけど管理したりするのは苦手なんだよね。


「だって結兄ってそこに入ってるんだよね?お兄ちゃんからの情報だし間違いないと思うんだけど?……私もそっちにするか迷ったんだよね」


 ん?最後の方が小さくて聞き取れなかった。てか図書部に入ってるの!?何それ初耳なんだけど!?

 交友関係とかはこまめに聞き出してたけど、そう言えば部活の話は聞いてない!

 高校に入ってから帰りが遅くて、私の相手をしてくれなくなったと思ったらそんなよく分からない部活に入っているだなんて!


「私、図書部に行ってくる!!」

「えぇっ!?急にどうしたの!?あ、あーちゃんっ!!は、速い。もう行っちゃった……」


 芳憐ちゃんには悪いけど、今すぐ確かめに行かないと!

 帰宅する為に廊下へ出てきた生徒を上手く躱しながら、全速力でその部室に向かう。途中、場所を聞いていない事に気付いて、その辺りにいた人に場所を教えてもらった時間を入れても、ここに来るまでにそう時間は掛からなかった。やってて良かった陸上部。……競技は走り高跳びだけど。

 そして私は問題の部屋の前に辿り着いた。

 確かに室名札には図書部と書いてあるんだけど、その横に【維新科】ってかいてあるのは何だろう?

 とにかく、ここがお兄ちゃんの所属していると言う部で間違いない。

 乱れた息を整え、部室の戸を開く。


 するとその中ではーー


「ですから部長、これはすでに違う世界線なんですって、なぁ?栗花落」

「……確かに天晶の言う通り。しかし、これでは色んな解釈が出来てしまうから解せない」

「だから絶対あの最終話で終わっておくべきって言ってるじゃん!」

「結翔君、唯がこう言っているのです。従いなさい!」

「はいはい皆さん、お茶を入れましたのでこれを飲んで一旦落ち着いて下さい」


 女の私でも見惚れてしまうような美少女達にワイワイと囲まれるお兄ちゃんの姿がそこにあった。


「あばわわ……お兄ちゃんがーー、ハーレムを築こうとしている!?」


 そう言い残し、混乱した私はその場から逃げ出した。





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