海に映る暁闇3
「芳憐ちゃん、祥兄はやっぱり来れそうにない?」
「はい。部活の練習試合が夕方くらいまであるらしいので、残念ですが……」
水族館に続く小道を歩きながら、昨日連絡が来て答えは分かっているけど、朝になって予定が変わっていたりしないかと、期待を込めて一応確認してみたのだが、結果は変わらなかった。
久しぶりに祥兄とも遊びに行きたかったけれど、部活があるのでは仕方がない。
「祥真君は来れないんですね」
「普通の練習なら、午前中だけで終わるから行けるかもしれないって言ってたんですけど、どうやら今日は練習試合が入ったみたいで無理そうです」
「あっ、いや、そ、そうですか……」
どことなくため息混じりな感じで、後ろから聞こえてきた舞先輩の言葉に返答してしまったけれど、今の反応からして独り言だったかもしれない。
それを俺が急に答えたものだから彼女もびっくりしたのだろう。俺もそういう経験をした事があるので分かる。
「祥真君がキャプテンになってから、今のところ試合では負け無しなんだって、凄いよねー」
「それは兄が凄いのではなく、きっと部員の皆さんのお陰だと思いますよ?」
実際、祥兄は運動神経抜群でサッカーも上手い。けれどサッカーはチーム戦。芳憐ちゃんも言ってるように個人の力だけで、負け無しの結果が出せるものではない。しかしながら、その戦力をまとめ上げているのは、キャプテンである祥兄という事だ。やはり俺の憧れの人は伊達ではない。
「ハイハーイッ!祥兄も凄いですが、うちのお兄ちゃんも中学ではエースだったので凄いんですよ!」
勢いよく手を挙げて話に割り込み、兄に代わってドヤ顔を決める妹様。身内贔屓すぎて、本人としては顔を手で覆いたくなるのですが?
「俺はそんな結翔の相棒で、みさき君の立ち位置でした」
「いや、お前とツインシュートを決めた覚えはない」
もっと例えがあっただろうに、よりによってゴールデンコンビを持ち出すとか、嘘が明白でいて迷惑な勘違いである。
そんな話をしている内に、水族館が視界の半分を占めるくらいまでの距離となった。入場口では、イースターファンタジーに出てくるキャラクター達の、等身大スタンドポップが来場者を出迎えている。
「……ルルアバニー、可愛い」
栗花落が先程までの様子とは打って変わり、イングランドのロックバンドと同じ名前の奴の能力でも発動したかの様に、いつの間にか俺たちの元を離れて写真を撮りまくっている。結果だけが残るその能力が使えるなら、俺達三人ある意味、黄金世代だぜ!
「お兄ちゃん一緒に写真撮ろ!」
栗花落に触発されてなのか、スマホを片手に持った彩葵が、テンション高めに持ち掛けてくる。
「そうだな。どうせならみんなで撮ろうか」
「ん゛ーッ!私は二人で撮りたいんだよ!」
口を結びポカポカと俺の胸を叩いてくる彩葵。何これ?怒りを微塵も感じさせないほど可愛いんですけど?
「あれがケートの好きなゲームのキャラクター?」
先に歩いていた俺達に追いついて、同じ目線の先を見て質問する彼女。
「そうそう。そう言えばレイラってゲームとかやるの?」
「いいえ。部室で栗花落さんが遊んでいる所を見て、初めて実物を知ったくらいよ」
「それなのに、よくこのイベントに来たな」
「だって貴方に誘われ……ただ単純に魚が見たかっただけよ」
途中、喉の内で咳払いを入れてレイラが言う。そうかそうか、俺の為に来てくれたのか。風当たりがキツいと感じる時も多々あるけれど、どうやら一緒に居るのも不快というレベルまでは、嫌われてはいないらしい。
「あの、レイラさん!!兄と一緒に写真撮って下さい!」
焦った様に声を上げて、彩葵がズズィッと俺とレイラの間に入って来る。おぅおぅ、大丈夫、スタンドポップは走って逃げて行かないよ?
「ッ!?わ、分かりました。ではケート行きましょう」
「いえ、違くて、私と兄で撮ってほしいのですけど?」
「えッ!?あわあのッ、い、今のはイングリッシュジョーク……ですぅ」
俺の腕を引っ張っていた手を勢い良く離し、言葉を残しながら後退って行く。そんな勘違いなんてよくあるから戻ってこーい。
「ゔぅー、虎穴があれば入りたぃ……」
いやいや……その穴は絶対危ないから帰っておいで。
「ケイくーん!皆んなで写真撮ろっ!」
彼女を危険地帯に行かせる前に、タイミングよく部長から号令が掛かる。いつだって纏めるのはこの人だ。乱すのもこの人だけど。
先にいた栗花落に皆んなが合流して、その後はワイワイと皆んなで写真を撮った。勿論、我が妹様とも。
そして、一通り思い出を切り抜いた所で、スマホにダウンロード済みのチケットを使っていよいよ入館する。
またも妹は奔走する モアイ神 @moai-dieu
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