海に映る暁闇2



 栗花落との挨拶?が一区切りついた頃、彩葵と芳憐ちゃんの笑い声が聞こえる。見ていて微笑ましくなるほどに本当に仲が良い。……しかし、その中にちゃっかり湊介も混ざって、楽しそうに会話に入っているのが解せん。

 そしてその三人から、バイク一台分くらいの距離を空けて、レイラが駅とは反対方向である海側の空に浮かぶ、俺が今日つけているキーホルダーの兎獣人キャラみたいな雲を眺めていた。

 白で揃えた上下に、風でフワリと靡くスカート。容姿と合わせて、まるでファション雑誌の撮影をしていたかの様に決まっている。

 俺の誘いに来てくれた彼女にも挨拶をしておかないとな。


「おはようレイラ。今日はいい天気になったな」


 ヒラヒラと手を振りながら、彼女の方へ歩き出すと、俺に気付いたレイラはニコリとして手を振り返してくれる。


「ごきげんようケート。えぇ、本当に晴天の霹靂で良かったわ」

「……うん。俺はいま正に、その使い方に衝撃を受けてるよ」

「どう言う事かしら?」


 目の前で首を傾げている彼女は、こうやって偶に変な慣用句が飛び出してくる事がある。最初の頃は間違いを教えていたのだが、俺の教え方が悪いのか余計に言葉がおかしくなってしまうので諦きらめた。


「いや、別に何でもない。それより今日はいつものキャリーバックは持ってないんだな」

「えぇ。あれを持ってこなくても、言わずと知れた観光地なのだからカフェがそこかしこにあるわ。それにあんな重いもの、四六時中持ち歩いていたくないもの。ケートはそんなに私が重い物を持って苦しんでいる様を楽しみたかったのかしら?」


 学校で見る装いではなく、ティーセットを持たない私服が新鮮でちょっと聞いてみただけなのに、こんな返しをされるとは思わなかった。


「はぁ……そんな訳ないだろ?もし持ってきているのだとしても俺が代わりに持つし、いつも言ってるけど、昔みたいに俺を頼ってくれてもいいんだからな」


 しっかりと言い聞かせるようにレイラの眼を見てそう答えると、彼女は少しビクッとした反応を示して、徐々に下を向いてしまった。

 あれ?怒ってる様に聞こえたのか?

 そう思って戸惑う俺に彼女の小さい声が聞こえてくる。


「う、ぅん、ありがとぅ……」


 セーフ!てっきり泣かせてしまったかとヒヤヒヤした。だって若干目が潤んでいたから。


「さっそく楽しそうだなー、結翔」


 横から声を掛けて来たのは、さっきまで彩葵達と楽しそうに話をしていた奴だ。自分こそ楽しんでるじゃねーかと言いたかったが、取り敢えずレイラの事が気になるので軽くあしらう事にしよう。


「あれ?どちら様ですか?今日誘ったメンバーの中に、チャラい男の方はいなかったと思うのですが?」

「おやおやー、これはすいません。せっかくのハーレム状態を邪魔してしまいまして。しかしながら、もし宜しければご一緒させて貰えませんか?いやなに、この状況での居心地が良くて、貴方がそれを楽しまれているのでしたら、別に無理にとは言いませんがね?」


 クソッ!こいつ分かっていやがる。他人行儀な言い方を真似て、ニヤニヤしながら俺の心情を察して煽って来るとはいい度胸だ。ならばこちらの答えはこれしかないだろ!


「ごめんなさい。調子乗りました。男一人で居づらいので一緒に来て下さい」

「プハッ、素直だなおまえ。そうゆう所好きだぜ!」


 やだ、イケメン。そう言えば、湊介って女子から告白されてる事が割とあるんだよな。こうゆう大らかさがモテる秘訣なのだろうか。

 いや、違うな。こいつの大らかさは、ただ面白そうな事に首を突っ込みたいだけだわ。


「真鍋君も来ていたのね」


 先程まで下を向いていたレイラが湊介に気付いたみたいだ。この二人は一年の時もクラスが違うのだが、俺絡みで顔見知りである。


「おはよう、柊さん。結翔と最近遊びに出掛ける事が無かったから悪いけど便乗させて貰ったよ」

「さすが爆発の友ね」


 友達爆ぜちゃったよ。まぁ、湊介の場合はリア充の部類に入るからそれでもいいかもしれないけれど、レイラがそんな事を思っている訳がないから、多分『莫逆の友』って言いたかったのだろう。


「ん、お兄ちゃんそちらの方は?」


 肩口からヒョコッと出てきたマイシスター。その後ろには芳憐ちゃんもいる。さっきまで湊介を含め、三人で話をしていたから流れ的に付いてきたのだろう。


「あ、そうだった。彩葵と芳憐ちゃんはレイラに会うの初めてだよな」


 後で俺から紹介しようと思っていたけれど、丁度いいので一年生組に、同学年で同じ図書部員だと紹介し、二人の事もレイラに軽く話す。

 その終盤ぐらいで、ズズズッと背中が重くなり、何かに取り憑かれた感覚に陥った。


「……天゛晶゛〜」

「結翔君、栗花落さんがそろそろ限界のようですよ?」


 ええ、舞先輩その様です。俺の後ろでTシャツの裾を引っ張るのは、悪魔や幽霊などではなくて、待ち疲れた栗花落だった。

 もっと可愛い感じで裾を引っ張るのであれば別に言う事はないのだが、こいつは全体重をかけて、脅迫とも取れる圧力で訴えにきてやがる。

 てか、いい加減やめて!伸びるから!それ以上やったらセクシーな肩出しスタイルになっちゃうし、そんな需要こんな所にはないからやめれ!


「分かった分かった!えー、それでは今回誘ったメンバーは全員集まっている様なのでそろそろ水族館へ行きましょう!」


 結構大所帯になった俺達一行は、栗花落の催促を受けて、イベント会場へ向かい始めた。



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