唯舞コンビ

 大型連休が終わってしまった。

 結局、どこにも行かずダラダラと、家で動画鑑賞やゲームに明け暮れる日々だった。

 休み明けの身体はまだ自堕落な生活が抜け切っておらず、放課後になった今でも、欠伸の回数は伸び続けている。

 家に帰って布団に潜り込みたい欲求を抑えて、ようやく辿り着いた部室の椅子に座り、一息ついた所で、少し開いた窓からは運動部の掛け声が聞こえる。

 あれは祥兄のいるサッカー部だな。

 インターハイが近いので気合が入っている感じがする。

「青春だね~」

 オッサン臭く感慨に浸っていると、この部室特有のソファーに沈み込んで、読み終えた本を閉じた美少女が感想を溢し出した。


「なるほどぉ、この話があそこに繋がっているのか……ケイ君、次の本取ってー」

「それぐらい自分で取ってくださいよ、部長」


 今日こそは厳しく言ってやろうと強い口調に出てみた。

 しかし、部長はサイドダウンで結んだ薄っすらと赤みがかった髪を揺らし、潤んだ大きな眼でこちらを見つめ、本が届くのを待っている。

(可愛ッ!!)

 その高校生にしては小さな身体も相まって、こちらとしては彼女のお願いに、いつも通り従わざるおえない気持ちになってしまった。


 これが【図書部】部長の三年生、櫻井唯さくらい ゆい先輩の持つ力。ギ○ス!!……何て能力はないと思うけれど。

 チクショウ!それくらいしてやらっ!


 今日も思うがままに動かされた自分に対して、溜息を吐きつつ席を立ち本棚に向かう。

 天井まで伸びる棚には隙間なく本が並んでおり、そこからご要望の物に指を掛け引き抜く。

 そして、スリーブケースの中から赤本を取り出し振り返る。


「この距離ぐらい動かないとダメ人間になりますよ」


 大型連休中、ダラダラしていた自分を取り出した本の代わりとばかりに、棚に上げて言った。


「だってソファーって、座ったら動きたく無くなるじゃん。そういえばこれの最新刊出たんじゃなかったっけ?」

「あぁー、昨日買いに行きましたよ!今回のお話はなんとーー」


 最後まで言葉を言わせてもらえなかった。


 その前に扉が突然開き、ソファーに座る部長に向かって、掛けている眼鏡がズレるのもお構いなしに飛びつく、ゆるいボブカットの人物は中野舞なかの まい先輩。

 口を開かなければ、凛とした美人で委員長タイプの見た目だが、部長とコンビが組めるほど騒がしい人でもある。

 部長とセットで、唯舞コンビとして有名だ。

 その明るく面白い人柄に親しみやすい様から、この秋桜高等学校の男女に人気が高く、勉強に運動も上位に入る実力を持ち、果は教師にも好印象。

 もう二人で生徒会長と副会長をやればいいのに。


「唯ぃ~、かまってくださいよー」

「今、キリが悪いからもうちょっとだけ読ませて。てか舞ちゃんもここに居るなら本を読めばいいのに」

「だってそしたらお話が出来ないじゃないですか!唯には物語が必要かもしれませんが、私には唯が足りないのですよ!でもまぁ、そんな集中している横顔を眺めているだけでも十分いけますけどね。じゅるり」

「まぁまぁ舞先輩、一応は図書部なんですから、部員として一緒に部活動しましょうよ。はいどうぞ部長、次の巻ですよ」


 お目当の本を受け取りニコッとした笑みを向け、あんがとーと軽い礼をして部長は文字の中に潜ってしまった。

 美少女の表情にちょっと得した気分だ。

 だが、そんな俺をキッと睨み付ける舞先輩。


「もう!結翔君が渡すから唯が相手をしてくれないではないですか!」

「なら舞先輩は部長のお願いを断れるんですか?」


 俺の質問に言い返せないのか、口をムニュムニュさせてぐぬぬぬと唸っている。この人はこの人で、美人ながらも可愛い仕草が自然に出てくるというギャップを持っているからずるい。

 なんて事を考えていると舞先輩が口を開いた。


「後輩のくせに反抗的だなんて……」


 次にどんな言葉が続くのだろうかと、俺はゴクリと喉を鳴らす。


「……戦争を、しますか?」

「しませんよ!」

「並走、しますよ?」

「何ゆえ!?」


 ピストルを取り出して物騒な事を言い出したかと思えば、そのまま上に向けて構え出したのだ。

 よく見るとそれはスターターピストルだったのだが、それにしても急にスタートを切ろうとした上、そのまま並ばれても意味が分からない。だって勝ち負けがつかないじゃないか。とゆうか、何故そんな物を忍ばせていたのやら。

 なんか真剣に身構えて損をした。


「舞先輩は見た目、委員長っぽいのにどうしてそんなに言動が破茶滅茶なんですか……」

「なんでもは知らないけど唯のことなら知ってる」

「それはそれで怖い!」

「てか私知らない所で二次被害に遭ってるじゃん!」


 それは読書していたはずの部長も堪らずツッコミに加わるほどだった。

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