第16話 三回目の魔王討伐
頭を下げたまま俺の返事を待つルナに俺は思わずため息を吐く。
民のため、恩に報いるために身を投げ出す、か。 立派だとは思う……心根は為政者の鑑だろう。 だけど足りてない。 いや、それは確かめてからか。
「あのさ……ちょっと考えが足りなくない?」
俺の言葉にルナは顔を上げ、どういう意味か問うような視線を向けてくる。
「まず現状で、ルナは生活するだけのことでも俺に頼るしかない。 俺がそういうことを要求したら断れない立場だよね? そもそも報酬として成り立っていない。」
「……それは──」
いずれ要求される可能性のあることを先に自分から持ち出すことで報酬としてしまう──そこまで考えてたなら大したたまだとは思う。 力を貸してやろうなんて気には絶対ならないけどね
だけどルナの様子からはそんな感じはしない。 俺がそんな要求をしてくるなんて考えてなかったように見える。 信頼してたのかヘタレと思ってたのかは分からないけど。
「それと、俺が条件を飲んでルナを好きにしたとしようか。 それでエウレシアに戻ったとして、俺は約束を反故にしてそのまま帰ることもできる。 そうしたらルナは報酬の払い損になる。」
「もしそうなっても恨みなどありません。 先ほども申しましたがユーダイ様に受けた恩、これから受ける恩を考えればこれだけでも報いれるのか怪しいほど。 そこに厚かましくお願いを重ねているのに恨みに思うほど恥知らずではありません。」
今度は口ごもることなくきっぱりと答えるルナ。
「それに──まだ1日程度のお付きあいですがユーダイ様は約束されて……その……そうしたことをしたなら約束を破ったりされない方だと感じました。」
それなりに覚悟はしてるわけだ。 そして俺を信頼もしてると……
「じゃあ最後に言わせてもらうよ? 全てを捧げるっていうのはどの程度の覚悟で言ってる? 結構重い言葉だけど。」
いつまでそういうことをさせるつもりなのか──ルナが自分の価値をどの程度に見積もっているのか、俺の言いたいことを読み取ったかルナは居住まいをただしきっぱりと言った。
「私はユーダイ様に全てを捧げると言いました。 ユーダイ様の奴隷でも妻でも、お好きなように扱ってください。 魔王を倒した後、ユーダイ様が望むのでしたらこちらの世界に連れてこられても、お好きな時にエウレシアに戻していただいても構いません。」
固い決意を宿してまっすぐに俺を見るルナに俺もさすがに黙るしかない。
民衆のためにそこまでするか。 統治者として理想なんだろうな。──理解に苦しむけど理解できなかったあいつほどじゃない。
「じゃあさ……今からこの布団で……ルナを好きにしていいわけ?」
俺が聞くとルナは顔を真っ赤にしてうつむき、
「は……はい。 もちろんユーダイ様の好きなようにしていただいて……構いません……」
恥ずかしさをこらえるようにしながら俺ににじり寄る。
「あ……でも一つだけお願いがあるのですが……」
「……何?」
「その……ミツキ様からユーダイ様がどのような行為を好まれるのかお聞きしたのですが……そこまで変態的なことをいきなりと言うのは……」
とーのーむーらー! あのアマ何を吹き込んだ!? エロゲの傾向か!? んなもんリアルにするか!
「私も初めてなので……その……できれば最初は恋人のように優しくしていただけたらと……もちろんその……ユーダイ様が好まれる激しいプレイもがんばりますので……」
いやさ、全くないとは言わない。 ソフトSMくらいならまあ…… でもね、凌辱系のエロゲ好きでもさすがにリアルには好まんよ。
ため息を吐きながら俺はパジャマの上着を脱ぐ。 おい、ルナ。 覚悟を決めたように目をつむるな。 いたすわけじゃないんだから。
俺が上着をルナにかけてやるとルナは意外そうな目を俺に向ける。 何? もうされること確定な気分でいた?
「悪いけど──その頼みは聞けない。」
「……私ではそこまでの魅力がありませんか?」
「いや……魅力的だよ、うん。 そういうことをしたいかどうかで言えばしたいと思う。」
思わず頬を赤らめるルナに俺は続ける。
「ただ、俺は王族のために魔王討伐は二度としないと決めてる。 だから魔王を倒してほしいって願いは聞けないし報酬も受け取れない。」
「………………」
顔を伏せ沈黙するルナ。 まあ……ショックだよね。 身を投げ出す覚悟をしてきたのにそれを拒まれたんだから。
「だけど……ルナの覚悟に免じて力は貸してあげてもいい。」
俺の言葉にルナが顔を上げ、どういうことかと怪訝な顔を向けてくる。
「魔王とは戦わない。 だけどまぁ……ラフィスとか他の連中を鍛え上げたりね。 他にも御使い級じゃないけど強い奴を探したり魔王と戦う準備を手伝うくらいなら……してあげるよ。」
「……よろしいんですか?」
甘いかなと思わないでもない。 だけどね、決めたこととは言えここまでの覚悟を見せられて無下にはできないよ。
「ギリギリ譲歩できるのはこれくらい……かな。 言っておくけど魔王と戦う奴らがどうなっても手助けはしない。 ルナの国が滅ぼされてもね。 俺にできる最大限の助力はその程度と思ってほしい。」
神妙な顔で、ルナは俺をまっすぐに見つめ返す。 するとまた頭を下げ──
「それでも十分です。 本当に……ありがとうございます。」
「ただし報酬はちゃんともらう。 魔王を倒してからの成功報酬でね。」
「はい! もちろんです!」
俺の釘刺しにルナは晴れ晴れしい笑顔で頷く。
こうして、直接ではないものの俺が三回目の魔王討伐に関わることが決まった。
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