第30話 帰還と会議と誤解

 クレアちゃんの準備は割と早くに済んだ。 まあ今の状況で私物がそう多いはずもない。 元々最低限の物しかなかったから荷物もちょっとした鞄一つにまとまった。──これ、向こうに行ったら何か買ってあげないと可哀想だな。 エウレシアに滞在する間のそういう面倒はあの髭オヤジ(国王)に見させよう。

「クロセ殿。 お元気になられたようで何よりです。」

 クレアちゃんと一緒にきたノーストンが俺の様子に安堵の表情を見せる。 どうやら大分心配をかけたみたいだね。

「ご迷惑をおかけしました、ノーストンさん。」

 一応の礼儀として頭を下げるとノーストンは苦笑する。

「本当にクロセ殿は大した御方だ。 あれだけのことをしていただいてこの程度のこと、何のお返しにもならないというのに。」

 まあそれはそれ、これはこれ。 迷惑をかけたのは事実だ。

「もう行かれるのですかな?」

「大分時間を無駄にしたからね。 早く行かないと面倒なことになる。」

「クロセ殿がいて面倒なことになるなど想像もつきませんな。」

 冗談でもないように言いながら笑うノーストン。

 まあね、俺が戦うなら面倒なことになんかならないよ。 復活即ワンパンで……ちょっと待て。

 俺はこの時、初めて違和感を感じた。──エウレシアの《根源》とのパスの広さを考えると……俺が<神風>で見た魔王は弱すぎやしないか?

 前回の戦いの情報を見た限り《越境者》もあまり強い方ではなかったけどそれとほぼ互角くらいだった。

 おかしい……明らかに不自然だ。 何かがある。 それも俺の見立てを狂わせるくらいの何か──見通しが完全に崩れかねない何かだ。

 全力を出せない理由があるのか……条件次第で遥かに強くなる?

 いくら考えても今さら知りようがない。 こうなると魔族に関して<神風>で調べないと決めたのが悔やまれる。

 召喚された時に詳しく調べていれば……いや、関わる気がなかったんだから仕方ない。

「どうかされましたか、クロセ殿?」

 ノーストンの呼び掛けに俺の意識が戻される。

「いや……ちょっと考え事をね。」

 気付くのが遅かったのは確かだけど気付けたのは幸いだった。 エウレシアに行く前に心構えはできたんだから。

 <神風>では調べないことに決めた──だったら他の方法で調べるまでだ。 それとラフィスたちの強化をどの程度まで図るかも考え直さないといけないか。

 考えないといけないことが色々と増えた。 やらないといけないこともだ。 最優先でやらないといけないことは──時間稼ぎかな。 向こうに着いたら確認に行くか。

 可能性があるなら最大限の備えを──これは鉄則だ。

「それじゃ俺は行くよ。 クレアちゃんのことは──」

「もう十分に別れは済ませました。 クレアが決めたことですしクロセ殿のお側なら安心です。 娘をどうか──よろしくお願いいたします。」

 深々と頭を下げるノーストンの心境はそれこそ娘を嫁に出す心境だろうな。

「まあ時々は連れてくるよ。 それじゃクレアちゃんもいいかな?」

「はい! お父様、行ってまいります。」

「──体には気を付けてな。」

「お父様もお元気で──」

 ノーストンがクレアちゃんを抱きしめ短いが心のこもった言葉を囁く。 クレアちゃんも別れを噛み締めるように抱き合い、そっと離れる。

「それじゃ行くよ。 ジェム──エウレシア、リシェール王国王城、玉座の間、座標確認頼む。」

 <千里眼>が使えない俺はジェムに移動先の捜索を頼む。

『りょーかい! ────§∽ΠκИЖ──фЮЗЖπω──Θ‰∫────』

 《念話》でジェムが伝えてくる情報を受け取り解読を試みる。 《念話》では言語思考しか伝達ができない。 そのためジェムが捉えた座標のイメージを膨大な言語情報に変換し圧縮したものを受け取り俺の方で解読、イメージに変換する作業が必要になる

 少し面倒だったけどエウレシアの座標を捉えると俺はその場所へと《道》を作る。 場所は俺が召喚された玉座の間だ。

 色んな想いを込めて頭を下げるノーストンに送られ、俺たち5人は《道》を通りエウレシアへと足を踏み入れた。


 玉座の間は俺が召喚された時とあまり変わらなかった。 召喚の儀式に使われていた台座がなくなっているのと人が一人もいない状況以外は特に変わらない。

「本当に……戻ってこれたのですね。」

 ルナにとっては見慣れた空間を見渡し、感慨深そうに呟く。

 離れていたのはほんの1ヶ月弱──だけど行ってた場所を考えれば二度と戻れなくてもおかしくなかった。 実際、俺がいなければ戻れなかっただろう。

 こうして戻ってみれば感慨深くなるのも当然だ。

「すごいわね……こんなお城、初めて見たわ。」

 殿村も周りを見て呆気に取られている。

 何しろ本物の王城だ。 そう見られるものじゃない。

 俺は殿村とクレアちゃんにこの世界の言葉を刷り込むと周りを改めて見回し、

「しかし誰もいないな。」

 まあ王様も玉座にふんぞり返るのが仕事というわけでもない。 外国からの要人の来訪や何らかの儀式がなければ使われないのが道理だ。

 特に今は魔王復活が近い上に召喚した《越境者》が勝手に帰った状態だ。 対応に追われているんだろう。

「扉の外には衛兵がいるはずです。 お父様がどうしてるのかを──」

「ジェム──」

「なんかひろい部屋でおーぜいあつまってはなしてるよ。 場所もわかるよ。」

 ジェムに確認してもらうと俺は扉に向かって歩き始める。 こんな風に何でも分かるのが当たり前だったら話をちんたら聞くのが嫌になる気持ちも分かるでしょ?

 呆気に取られていた3人も小走りで俺に追い付いてきた。

 本来は何人かで開けるような大きな扉だけど俺は軽々と開けて玉座の間の外に出る。 一段狭くなった前室に出ると扉の両脇に立っていた衛兵がポカンとしてこちらを見てる。

「お務めごくろうさん。」

「な──曲者! 貴様どこから──!?」

 両側から衛兵が槍を突き付けてくる。 職務に忠実なのは結構なことだね。 彼らの責任じゃないしわざわざ埃を払う程度のことをするほど神経質でもないから適任に任せることにする。

 俺が促すとルナが歩み出て衛兵の二人が驚きに目を見張る。

「ル、ルナ王女!?」

「臥せっておられるはずの王女がなぜ!? それにこの者たちは──?」

『ジェム、どういうことだ?』

『わけもわからなくいなくなったなんていえないからびょーきってことにしてかくしてたみたいだよ。』

 そりゃそうか。 お姫様があんな消え方してそれを喧伝するわけもない。 あの場に立ち会った人間にはキツく口止めしてるんだな。

「ご苦労様です。 今はゆっくりお話をしてる場合ではありません。 私はお父様に会いに行きます。 あなた方は引き続きここの警備をなさってください。」

「はっ! かしこまりました!」

 ルナの前にひざまずく二人。 それを見てルナは俺を振り返り、

「さぁ、急いでまいりましょう。」

 さすが王女様の威光──話が早くていいね。

 俺はルナの先に立ち髭オヤジ(国王)たちが集まる部屋へと向かう。


「お邪魔するよっと。」

 無造作に扉を開けて中に入るとその場にいた全員の視線が俺に集まる。

 会議場には多数の王候貴族と護衛の人間が雁首揃えていた。

 近隣5ヵ国から集まり魔王の対処をどうするか話し合ってる最中だ。

 護衛は当然、各国で最強の人間だけど……興味を惹かれるのは一人だけかな。──そいつも含めて等しく雑魚なんだけど。

「き、き、き、貴様は──あの時の!!」

 ちょうど俺の正面に座ってた見覚えのある顔が激昂して立ち上がる。

 周りの連中が何事かとざわめく中、そいつは近衛が止める間もなく俺へと駆け寄ってきて、

「貴様! わしの可愛いルナをさらった極悪人めが!! ルナをどうした!? 返せ!! わしの可愛い──」

「お静まりください、陛下!」

 俺に詰め寄る髭オヤジ──面倒くさいから正式名称にしておこう──を慌てて静止するのは赤毛のおっとりお姉さん系S女。──てかさらったって……ルナがこけて勝手にきちゃったのに被害妄想も甚だしい。

「よっ。 ちょっとぶりだね。」

 フレンドリーに軽く挨拶をしてもラフィスはバリバリに警戒してこちらを睨み付ける。 そして御使い級であるラフィスの様子に周りの人間の警戒も強まる。

 警戒してないのは二人──俺が興味を持った円卓に座る・・・・・一人の御使い級とその後ろに立つもう一人の御使い級だ。

 円卓に座るのは歴戦の勇士の貫禄を漂わせる40がらみの男だ。 筋骨隆々とした体躯を豪華な鎧に包んでるけど粗暴なイメージはない。 円卓に座ってるということはそういうことなんだろうけど……率直に言ってラフィスより大分上だね、このおっさん。

 そしてその後ろにはルナと同じくらいの年の御使い級の女剣士──茶色の髪を短く整えた凛とした美少女だ。 こっちはラフィスより下だけど……うん、悪くない。 いや、外見の話じゃないよ?

 そしてこの場にはさらに御使い級が一人、ローブに身を包み顔を隠したやつがいる。 うん、まあ俺にはどんなやつかモロバレなんだけどさ。 80越えたばあさんでこの場ではただ一人の魔術職の御使い級だ。 しかし肉体年齢がかなり若い……30代の戦士職と変わらないくらいに動けそうだ。

 他にも聖人級も多くいる──中にはかなり見込みのあるやつもいるな。

「あなた……今さら何をしにきたのですか? 魔王と戦わないと言って……それにルナ様は──」

「私ならここにおります。」

 ルナが姿を現すとあの場に居合わせた人間が驚きを顔に表す。 特に髭オヤジは滝のように涙を流しながらルナに詰め寄り、

「ルナよ! 無事であったか! よかった……本当によかった!!」

「お父様、ご心配をおかけいたしました。」

「うむ、うむ! 元気であったか? 何もなかったか? まさか──この無礼者に何かされては!?」

 おい、ひどい言いようだな。 あれだけ面倒みてやってたのに……

 ルナはそんな髭オヤジにも慣れた様子で苦笑しながら、

「安心してください、お父様。 ユーダイ様はとてもお優しい方でなに不自由ないくらいによくしていただけました。 お礼を要求されることもないくらいのお方で申し訳ないくらいでした。」

「そうかそうか! そうであったか! ユーダイ殿と申すか! 娘が世話になって本当に感謝するぞ! ありがとう! 本当にありがとう!」

 俺の手を握ってすごい勢いで振りながら頭を下げる髭オヤジ──すごい手のひら返しだな。

 ルナに対する溺愛ぶりを恥も外聞もなく晒す髭オヤジに王妃が近付き、

「貴方、他国の方々もいらっしゃるのですからそれくらいになさってください。」

 髭オヤジをたしなめながら俺に向き直ると深々と頭を下げる。

「セドア=アーチェ・ゼクト・リシェールと申します。 ユーダイ殿。 娘が大層お世話になったようで感謝いたします。」

「あの時は名乗らなかったけど改めて、俺は黒瀬雄大。 大したことをしたわけじゃないからどうでもいいよ。」

 王族に敬意を払う気なんてないからぞんざいに返事を返すとラフィスがいきり立つ。

「あなた、王妃に対して──」

「はいはい、落ち着けって。」

 俺がまた一瞬でラフィスの背後に回って肩を軽く叩くと周りから驚きの声が上がる。 俺に警戒してなかった二人も何が起こったのか分からなかったからか警戒の色が見えるな。

「あ、あなたはなぜそう趣味の悪い──」

 ラフィスは動揺しつつも慌てて飛びすさるような醜態は晒さずに振り向く。

 俺はそんなラフィスにひらひらと手を振り、

「まあ気にするな。 それよりどんな話をしてたんだ?」

 どんな話をしていたかは俺には知ることはできない。 ジェムがあれ・・を使えば分かるんだけどさ。

「召喚した《越境者》であるユーダイ殿から協力を得ることができず、ユーダイ殿は自力で帰還されてしまったこと。 それを踏まえて各国がどのように兵を出すかの話し合いをしているところです。

 何分越境者の協力なしで魔王に対処するのは初めてのこと。 多大な兵力が必要となりますが此度の会議に参加してあない非協力的な国もあり、守りも残さねばならず紛糾しておりました。 それに魔王との戦いにおける損害や自国の防衛も考えるとどの程度の戦力を用意するかは難しく……」

 セドア王妃がラフィスを下がらせて説明してくる。

 まあそうなる。 魔王は脅威だけど倒した後のことも当然考えないといけないからね。 中にはこの機に他国に侵略をかけるような国もないわけではないし。

 でもそんなのはまず世界があってこそなんだけど……バカしかいないのか?

 状況を確認したところで円卓に座る御使い級が手を上げる。

「アイザック王。 その者が件の《越境者》ということでよろしいのかな?」

 野太い声での男の問いかけに髭オヤジ──そんな名前だったのか──が重々しく頷き。

「いかにも。 その力のほどは身をもって思い知らされたがこの者であれば魔王など敵ではないと確信しておる。」

 おいこら。 何か俺が戦うみたいな話にするな、髭オヤジ。

「しかし《越境者》殿は我々へ協力しないとのこと──なぜここにいて我々がどのような話をしていたかなどと気にするのか、聞かせてほしいものですな。」

 いきなりの登場、髭オヤジの暴走、ラフィスへのイタズラ(空間移動)でみんな混乱してたけどかろうじてこいつは状況を読み取ろうとしていたようだ。

「それは──そうだ、お主は一体なぜ──」

「それは私から説明をいたします。」

 ルナが説明のために前に進み出る。 まあ王族たちの相手なんかしたくないからとりあえず任せるか。

「皆様。 魔王への対処を話し合うためにご足労いただきありがとうございます。 リシェール王国第一王女、ルナ=メリウス・フラウ・リシェールです。

 《越境者》──ユーダイ様がご自分で元の世界に帰れるようなお力をお持ちなことはすでにお聞き及びのようですが私はその際に誤ってユーダイ様がいらした世界に行ってしまったのです。

 そちらの世界ではユーダイ様はご自身のお力を十分に使うことができなかったのですが、ユーダイ様はお優しいお方で大層な労力を費やされてこうして私をこの世界へと送り届けてくださいました。」

「ここにきた経緯は分かった。 しかし彼はなぜ我々への協力を拒んだのかね? 確か召喚した《越境者》には我々に害意を向けられない術式と我々に協力するよう無意識で働きかける術式が組み込まれていると聞いてますが。」

「ユーダイ様は私たちが召喚するより以前から《越境者》であり計り知れないお力をお持ちです。 並大抵の術で縛れるような矮小なお方ではありません。」

「しかし縛られないからといって普通、危機に直面している世界を無視するようなことをするものかね? 力を持っているならなおさらだ。 ここにいるということはなにがしかの協力を取り付けたのではないかと思いますが信用していいものとは思えません。」

「それは違います。 ユーダイ様はとてもお優しく信頼できる方です。

 私をこの世界に送るため一度他の世界に寄ったのですがその地の魔王を服従させただけでなく、他にも様々な助力をして多くの人を助けたにも関わらず何をしたわけでもないとお礼の言葉すら求めない器の大きな方です。

 ただ──ユーダイ様は王族に対して忌避感があるのです。」

「ではやはり我々に力を貸してくれるわけではないということですか?」

「いえ、ユーダイ様は忌避する王族である私からのお願いにお優しくも──」

「ルナ──頼むからちょっと待ってくれ。」

「──どうかされましたか?」

 俺が制止するとルナは小首を傾げて俺を振り返る。

 円卓の面々からの質問に答えながら説明するのを聞いてたけどさ──

「あのさ、やたらと優しいだとかなんだと持ち上げるのはやめてくれ。 聞いてて恥ずかしくなるから端的に事実だけ頼む。」

「ですが……私が話してるのは全て事実ではないですか?」

 事実だけどさ! 余計な装飾語でSUN値がゴリゴリ削られるんだよ! SUN値直葬だよ!

「いいから、端的に事実だけ、それで頼む。」

「かしこまりました。

 ユーダイ様には私の全てを捧げ──」

「待て待て待て!」

 俺は慌てて制止するがちょっと遅かった。 キョトンとしてこちらを見るルナの背後から髭オヤジがものすごい形相で俺を睨んでいる。 うん、愛しい娘が全てを捧げるなんて口走ればそりゃそうなるわ。

「貴様……ルナが全てを捧げると聞こえた気がしたが言い訳はあるか?」

「ちょっと待て。 落ち着こう、王様。 話は最後まで──」

「そうです、お父様。 ユーダイ様は約束を果たすまではと私に指一本触れてくださりません。」

「触れてくださらない・・・・・・……だと!?」

 おーい、その言い方まずいだろ!?

 前から思ってたよ。 ルナのやつ、やたらと殿村の話を真に受けたりしてたからそうかと思ってたけど確信したよ。 こいつ天然だ!

「ルナよ……まさかお前はこの男に……」

「はい、お父様。 私の全てはユーダイ様に捧げると決めております。」

 体を小刻みに震わせながら額にくっきりと血管を浮き上がらせる髭オヤジ──血管切れそうだなぁ……とか現実逃避してる場合じゃないか。

 さすがに気の毒すぎてこの状況で殴りかかられても軽くひねる気にはならない。 面倒くさいなぁ……別に痛くもないし好きに殴らせてやるか。

「貴方──」

 覚悟を決めたところでセドア王妃が髭オヤジを止める。

「よいのではありませんか? ルナも年頃です。 王女という立場を考えれば政略結婚として望まぬ相手との結婚もおかしくないのです。 実際、貴方が嫁がせたくないような相手からの求婚もきているではないですか。」

「それは……! 確かにその通りだが……」

「魔王討伐に功を上げた《越境者》ともなれば降嫁させるに不足などありませんし求婚者たちも黙るしかありません。 それにルナが心に決めたことです。 その方がルナにとっては幸せではないですか?」

「むぐっ! ぐぐっ! ルナの幸せ……ぐぅっ!」

 何やら激しく煩悶する髭オヤジ。 ルナ可愛さとルナの幸せとで板挟みになってるみたいだけど……勝手に盛り上がらないでもらいたいんだけどな。

 しばし苦悩してた髭オヤジだったけど不意に俺に向き直り血涙を流さんばかりの形相で俺の手を取ると、

「娘を、ルナを、よろしく……頼むっ! 婿殿!」

 おいおい! そこまでいきなり突き抜けるなよ!

「いや、俺とルナはそういうのじゃなくて──」

「何だと!? 貴様! ルナに不満があると申すかっ!? わしの可愛いルナに──」

「だからそうじゃなくてな──」

「ルナちゃんに不満ないんだぁ? やっぱりあんたもまんざらじゃないんじゃないの! もう、このツンデレ野郎!」

「な!? 殿村!」

 さすがに真面目に黙って聞いているとばかり思っていたらいきなり殿村が背後から声をかけてきた。

 突然の乱入に激昂してた髭オヤジも毒気を抜かれたように呆気に取られている。

「お主は……何者だ? まさか貴様、ルナの他にも──!」

「あたしは殿村深月。 こいつの友人よ。 それより王様、こいつならちゃんとルナちゃんを大事に想ってるから大丈夫だって。」

「おい、お前何を勝手な──」

「こいつはね、ルナちゃんが自分を好きなのは勘違いだって思ってるの。 他に誰も頼りにできない状況で優しくされたり助けられたりでね。 そんな娘に手を出して後で後悔させるわけにはいかないって、そういうこと。」

 いや、大筋で間違ってないけどその説明はやめろ。 一つ大きな誤解を招く。 その言い方じゃ俺がルナを好きみたいに聞こえるだろ!?

「何と……!? そうであったのか……」

 おい、真に受けちゃったよ、髭オヤジ。

 髭オヤジは俺に対して一度深々と頭を下げるとまっすぐに俺を見る。──やめて、そんな悟ったような穏やかな目で見ないで。

「そのように考えていたとは知らず失礼した。 お主は本当にルナのことを大事にしてくれてるのだな。 お主の誠実さに感服したぞ!」

 なぁ、この国の王様はバカなの? 内政でも外交でも権謀術数渦巻く世界で生きてるんじゃないの? 愛娘のルナはともかく何で殿村の言葉までこんな簡単に信じ込むんだよ!?

「どうやらお主は信頼に足る男のようだな。 気に入った! 改めてルナのことをよろしく頼むぞ、婿殿。」

「いや、だからさ──」

「分かっておる分かっておる。 いずれルナの気持ちが勘違いでないと分かる時もこよう。 時間はたっぷりあるのだから焦らず行けばよい。」

 人の肩をバシバシ叩きながらうむうむと満足げに頷く髭オヤジ──ダメだ……これもう何言っても聞かない状態だろ。

「その……お父様が申し訳ありません……」

 横にきたルナが申し訳なさそうに小声で謝ってくる。 ルナもこうなるとは思ってなかったんだろう……いや、思えよ! 騒ぎになることくらいは分かるだろ!? と言うか申し訳ないのは髭オヤジよりもルナの説明だからな!?

 今さら言っても仕方ないけど……王族の相手が嫌とか思わずに最初から俺が話をするべきだったな。

 おい、髭オヤジ……孫の顔がどうとかほがらかに笑ってるな。

 そしてルナ──申し訳ないとか言いながらそんな嬉しそうな笑顔を浮かべてるなよ──何も言えなくなるだろ。

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三回目の魔王討伐 黒須 @xian9301

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