第2話 お約束をぶち壊し

 ポカンと口を半開きにしてこちらを見る王女様。 うん、そんな顔をしても可愛いんだから美少女は得だね。 そんなことで俺は何とも思わないけどさ。

 俺は自分が寝ていた台に腰をかけると王女様に指を突き付けて言ってやる。

「ここは俺がいた世界とは別の世界。 君らは召喚系の儀式で俺をこの世界に呼び出した。 目的はこの王国、または世界そのものを危機に陥れてる何者かを倒すこと。 俺が元の世界に帰るためにはこの事態を解決する必要がある。

 以上、端的な分析結果だけど何か間違ってる?」

「ど、ど……どうしてそんな──」

 まあそういう小説はよく読んでるしね。 最近はもっとひねられてるのも多いけどさ。 実際のところはそれが理由じゃないんだけどね。

 王女様からするとあまりにも想定外過ぎたせいだろう。 動揺して救いを求めるようにおっさん(国王)を見るとおっさん(国王)はグラインと呼ばれた魔術師の爺さんに問いただすような目を向ける。

「どうやらその者がいた世界にも似たような事象があったのでしょう。 とは言え混乱することなく冷静に分析して見せるとは──頼もしい限りではないかと思われます。」

「うむ……確かにそうであるか。──見事である、異界の者よ。」

 偉そうに言ってくるおっさん(国王)。 まあテンプレだよなぁ……正直むかつくんだけど。

 そんな二人の会話に冷静さを取り戻したのか、王女様が軽く咳払いをする。

「お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ありません。

 貴方が仰られた通りこの世界──エウレシアは魔王復活の危機に瀕して──」

「ストップ。」

 語り始めた王女様の眼前に手のひらを突き付けて再度の制止。 口をパクパクさせてるのもまた可愛くて……いやいや、違う。 どうでもいい話だからはっきり言ってやろう。

「あのさ、長い話を聞く意味もないし無駄だから端的に言うよ。 答えはノーだね。 俺には君らの頼みを聞くつもりなんてこれっぽっちもないよ。」

 俺の返答に場の空気が張り詰める。 こいつら全員、断られることなんて想定してなかったのが分かる。 こいつらからすれば話を聞こうが聞くまいが断られることなんか本来あり得ないはずのことだし当然だろう。 つまりは知らなかったで済ませられるようなやつは一人もいないわけだね。

「なぜそのような……理由を聞かせていただけませんか?」

 度重なる想定外の事態だろうに、王女様は今度はめげずに問いかけてくる。

「まあいくつかあるけどまず第一に──そこの髭のおっさんが偉そうでムカつく。」

「──っ! 貴様っ! 陛下に向かってそのような──」

「第二に──」

 国王の脇に侍る4人が主君への侮辱に怒号を上げるが俺は無視して続ける。

「さっき君が俺のとこにくる時にさ、王妃様かな? 君に目配せしてたよね? 若くて綺麗な娘のお願いでやる気を出させようって目論見が透けて見えるようで気分がよくないね。」

 確かにこんな娘にお願いされたらがんばっちゃうだろうけどさ……正直、俺だって可愛いとは思うし。 だけど顔が少しひきつってるあたり図星だったでしょ? 王妃様が見破られた動揺をほぼ完璧に隠しつつ心外そうな表情を浮かべるのは王族としての人生経験の差かな。

「まあ他にもあるけどはっきり言って君らが気に入らない。──そういうわけ。」

 俺が言い切るとわなわなと震えながら目尻に涙を浮かべる王女様。 ショックを受けているようにも見えるけど演技かどうかはちょっと分からない。 他心通テレパシーでも持ってればすぐに分かるんだろうけど。

「貴様……陛下のみならず妃殿下にまでそのような……!」

 兵士たちが一斉に槍を構え近衛が剣を抜き放つ。

 どうやらこの王女様、臣下からの人気は高いようだ。 まあ美少女だし戦場に向かう兵士を鼓舞する役割も務めているんだろう。 熱狂的なファンも大勢いるんだろうな。

 近衛の男の一人もその類いなのか、他の連中に確認すら取らず問答無用で剣を構えこちらに駆け出す。 初速、体さばき、重心──いずれを見ても剣士として相当なレベルにあることが分かる。 瞬きする間にこちらまでおよそ20mの距離を詰めて俺を切り捨てるだろう。

 だけど近衛の男は俺まで10m──ほぼ中間地点で唐突に動きを止める。 不意にこの場を占めた冷気に凍りついたように──先に動いた男よりも先に、一瞬であれだけの距離を詰めて俺の首筋に剣を突き付ける赤毛の女剣士の気に当てられて。

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