第27話 後始末
「ユーダイ様! あのような約束をするなんて……見損ないました!」
ミディアが飛び去ると駆け寄ってきたルナが開口一番に文句を言ってくる。
「あんたがそんなエロいことにノリノリなんてねぇ。 アタシも混ざっちゃいたいなぁ。」
殿村……お前は本当にぶれないな。
「あー……とりあえずそれはないよ。 あんな条件達成できるわけないんだから。」
俺の言葉にどういうことかとみんなの顔に疑問が浮かぶ。 勘違いで軽蔑されるのも嫌だし説明しておくか。
「あいつは魔王でトップクラスではあるけど最強じゃない。
ただ倒すだけならやり方次第でできるかも知れないけど屈服させて配下にするなんて圧倒的な力の差がないとできないだろ?」
「……つまり最初から連れてく気はなかったってこと?」
「まあそういうこと。 だけどエサをぶら下げておけば達成しようとしてがんばるだろうし、そうやって魔王同士の戦いを煽ってやれば他の魔王も人間に構う余裕は当分なくなるって寸法だ。」
「何と……我々のためにそこまで……」
ノーストンが感じ入ったように言うと俺の前にひざまずく。
「クロセ殿。 ここまでしていただいたこと、誠に感謝の念に堪えず、また何も報いることができないこと、遺憾に思うばかりです。」
「そういうのはいいよ。 ミディアを倒したわけでもないし別に大したことはしてないんだから。」
「あれほどのことを大したことがないとは……凄まじいお方ですな。」
俺にとっては単なる事実なんだけどノーストンは圧倒されたように言葉を漏らす。
「あの……私からもお礼を言わせてください。 本当にありがとうございました。」
クレアちゃんも俺の前でペコリと頭を下げる。
「ああ、君は無駄死にしないで済んで本当によかったね。」
「はい。 悪魔の供物になるところにクロセ様が現れて命を救われました。 これからよろしくお願いいたします。」
うん、ギリギリのタイミングだったし本当に危なか……ん? 今、何か変な言葉を聞いたような……
「えーと……クレアちゃん?」
「はい、何でしょうか?」
「……これからよろしくお願いしますって聞こえた気がするんだけど?」
「はい。 令嬢として育てられましたが最近は自分でもできることを色々と覚えてまいりました。 精一杯お仕えしてまいりますので、不束者ではありますがよろしくお願いいたします。」
んー……意味がさっぱりわからん。
「それはつまり……俺についてくるってこと?」
クレアちゃんは俺の問いが意外だったかのように不思議そうな顔をする。
「私は悪魔を呼んで願いを叶えてもらうための供物でした。 そこにクロセ様が現れて願いを叶えていただいた上に命まで救われたのですから。 私の全てはクロセ様の──ご主人様のモノです。」
おーい……ルナが二人になったよ。 何? 全て捧げるのが最近の王侯貴族令嬢の流行りですか? 全部盛り女子?
「わ、私が二人になったってどういう意味ですか!?」
あ、呟きが聞こえてたみたい。
「モテモテじゃない。 この娘はどうするのかしら? ルナちゃんみたいに拒む理由もないものねぇ。」
お前は本当に楽しそうだよな、殿村。 そんなに俺にさせたいのか?
「いや……別に──」
危ない危ない。 思わずいらないとか言うとこだった。 さすがにその言い方はないよな。
「──そんなこと気にしなくていいから普通にここで暮らしなよ。」
「……私はいらないということでしょうか?」
悲しげな顔でうつ向くクレアちゃん。 避けた地雷を目の前に差し出されたよ……
「いや……まあそうは言わないけどさ……」
「でしたらぜひ!」
「でもね、今から行く世界はミディアより強いのがゴロゴロいるような世界で危険なんだよ。」
「問題ありません。 一度は捨てた命です。 今さら惜しくはありません。 むしろご主人様のために捨てられるなら本望です」
重いよ。 ルナが増えたと思ったら重いのも増えた。 そうなった時のこっちの寝覚めの悪さも考えてほしいんだけど。──まあ実際には俺がいて危険なんかないけどさ。
「だけどね、ほら、お父さんだって魔王の脅威が消えてこれから色々大変だろう? それを支えて──」
「クロセ殿──」
俺の言葉にノーストンが割り込んでくる。──嫌な予感しかしないんだけど。
「私のことならお気になさらずに──ご迷惑でなければ魔王の脅威を取り除いていただいたお礼に娘をもらってやってはくれませんか?」
やっぱきたー。 ご迷惑じゃなければって断ろうとしてるの分かるよね? 礼ならむしろ止めてほしいです。
「私は娘を殺そうとした身──今さら娘を束縛しようなどと思いませんしその権利もありません。
娘は亡くなった妻によく似て親の贔屓目を抜きにしても美しい娘だと思います。 お連れの女性方も大変美しいですがどうか愛妾の末席として娘をお受け取りください。」
嫌な勘違いしないで……この二人はそういうんじゃないんだから。
本気でめんどくさくなってきたよ。 どうするかなぁ……
『マスター…………』
頭を悩ませてるとジェムが膨れた様子で突然話しかけてくる。
一応ジェムはこっちから問いかけたり何か知らせることがない限りは話してこないよう設定してるんだけど……何かあったのか?
『あいつ……やりやがったよ!』
は? 何のことだ? あいつって……ミディアか?
『だから……あの淫魔、この世界でさいきょーのまおーを配下にしちゃったの!』
「──はぁぁぁっ!?」
「ちょ!? いきなり何よ?」
あまりの驚きに思わず声が出ちゃった。 てかちょっと待て──おかしいだろ、それ!
「悪い。 ちょっと待ってくれ。」
『どういうことだ? だってあいつの強さは──』
『エウレシアのこーしゃく(侯爵)のじょーいクラス。 あいてはこーしゃく(公爵)で下のほーだよ!』
『それで何をどうやったらこんな短時間でそんなことができるんだ!? 20分も経ってないぞ!?』
『あいつ、マスターのめーれーにこたえようとしてるのとマスターのそばにいきたくてパワーアップしてるの! あとごほーび!! マスターがあんなお約束するから!』
マジか、おい!
『どれくらいパワーアップしてる?』
『こーしゃく(公爵)のちゅーいクラスでも上のほーだよ! あんなの他のまおーじゃもたないよ!』
何だそのパワーアップ? 想定外過ぎる!
『どれくらいで俺の命令を実行しそうだ?』
『いどーがあるけど……あいつ人間がいれば夢の世界をわたっていどーできるようになってる! 人里からはなれてるまおーもいるけど……たぶんいっしゅーかん!』
早すぎる! エウレシアの魔王を討伐して逃げることもできないか……そもそも復活してないし。
「ちょっと……本当にどうしたの?」
殿村が心配そうに声をかけてくる。 ルナとクレアちゃんも心配そうに俺を見ている。
軽蔑されるなぁ……仕方ないか。
「ミディアが謎のパワーアップをして一週間ぐらいで命令を果たしそうだってさ。」
俺の言葉にルナが固まる。 殿村は嬉しそうに笑いながら、
「あらあら? さっき約束してたわよね? どんな約束だったっけ?」
ぐっ──ずっと避けてたのを避けられなくなったと思って楽しんでやがる。
いや、明確に拒む理由なんかないんだけどさ。 風俗くらい行くし。
殿村やルナに関してはまあ言った通りでクレアちゃんに関しては何かね──初めての娘だし勘違いもしてるしそれなりの覚悟がないと汚しちゃいけないなって。
ミディアは……ミディアは……あれ?──ミディアとそういうことするの拒む理由……なくね?
見た目はまあ抜群……完全に目覚めちゃってどんなプレイもウェルカム状態……テクの方もサキュバスならお察し……恋人がいるわけでもないし……気持ちがないと無理とかそういうのも……ないよな。
相手に俺に対する気持ちがあるのに俺にはないっていうのは絶対に無理だけどあいつの気持ちはそういうのじゃないし──本気で楽しんじゃっていい気がしてきた。
強いて言えばルナや殿村の目が気になるくらいで……それが結構大きいんだけどなぁ。 知り合いの女の子に風俗に行ったとか知られるのが嫌なのと同じ感じ。
「あの……ユーダイ様は魔族とのそんな約束なんて……」
ルナが恐る恐るといった感じで聞いてくる。
悩むんだけど……約束は約束だしな。 うん、仕方ない。 別にムリヤリ理由づけしてるわけじゃありませんよ?
「んー……約束だからね。 俺の約束に対する考え方、話したでしょ?」
「それでは……」
「まあ向こうで戦力にもなりそうだし……約束した以上は仕方ないかな。」
ため息をつきながら言うとルナが意気消沈してうつ向く。
「……私は……その………………ユーダイ様がミツキ様以外の女性とそういうことをされるのは……嫌です……」
ルナが小声で何か言ってるけどよく聞き取れなかった。
「何て言った?」
「……………………何でもありません。」
何か言いたそうだったけどそれだけ言うとルナは俺から離れて殿村の所に行く。
軽蔑されたかな? まあこれで勘違いから覚めるならそれもいいだろう。
「あの……ご主人様?」
不意に声をかけられ見るとクレアちゃんが俺を見上げていた。 ああ、この娘のこともあったな。ミディアの衝撃で忘れてた。
「聞いたでしょ?
「大丈夫です。 私はご主人様のモノ──ご主人様が何をされようと不快になどなりません。 もちろん私にそういうことをされるのもご主人様のご自由です。 ……むしろしていただけたら嬉しく思います。」
最後は恥ずかしそうに小声になってたけどけどはっきり聞こえてたよ? 何かさぁ……助けてもらったり優しくしてもらったからそんな気持ちになるのって勘違いでしかないからね?
……もういいや。 ミディアのことも含めて面倒くさくなってきた。
「分かった。 連れていってあげるよ。 帰りたくなったらいつでも帰してあげるから遠慮なく言って。」
「ありがとうございます。 私がご主人様のお側を離れることなんてありません。 生涯お側に置いてください。」
真っ直ぐな目で俺を見てとてつもなく重いことを言うクレアちゃん。 ルナとミディアを足して2で割らない娘だよ、この娘……エウレシアの件が済んだらどうするかなぁ。
俺が悩んでると殿村がこっちに歩いてくる。──ルナの姿は見えない。
「その娘も連れてくことにしたのね。 そんなにハーレムを充実させちゃって……この性欲魔神!」
「人聞きの悪いことを言うな。 大体、ハーレムなんてのはもっと規模の大きいもんだろ?」
「4人もいれば十分ハーレムじゃない。 それで足りないなんて性欲魔神どころの話じゃないわねぇ。」
4人って……さらっと自分を混ぜるなよ。 今のところそういう対象になり得るのはミディアだけだしな。
「あの……こちらのお方はご主人様の恋人なのですか?」
まだ自己紹介もしていなかった殿村にクレアちゃんがとんでもないことを聞く。
「違う違う。 あたしは殿村深月。 こいつの──」
「俺の友人だよ。 それと──」
ルナの時のようにいらんことを言う前に軽く紹介して、俺はルナも紹介しようと周りを見渡す。
ん? ルナの姿が見えないな。 殿村と一緒じゃないのはともかく広場や神殿の周辺にもいない。
「殿村。 ルナはどこに行ったんだ?」
「そうねぇ……ま、少しそっとしておいてあげなさい。 女の子には色々あるのよ。」
女の子には──と言われると俺としてはそういうものかと納得するしかない。
まあジェムがルナの周囲も監視してるし危険があれば……監視してるよな? ジェムのやつ、ルナを敵視して葬り去ろうとした前科があるからな……
『マスターひどーい! アタシはそんなわるいこじゃないもん! マスターのかわいくてたよれるあいぼーなんだからちゃんとしてるよ!』
俺の思考にジェムが反応して抗議してくる。 ちゃんとやってるんだな。 えらいえらい。
『で、ルナはどうしてるんだ?』
『……一人でいるけどきけんはないよ。 なんかあったらちゃんとおしえるからほっといていいよ……』
……どうも元気がなくて歯切れが悪いな。 まあミディアとの約束の件で不機嫌になってるんだろうけど。
とりあえず問題ないならいいか。 殿村もそっとしておけと言うしクレアちゃんへの紹介は後ですればいい。
「ノーストンさん。」
俺はクレアちゃんをじっと見つめるノーストンに声をかける。
「クレアちゃんは連れていくことにしたから。 本当にいいんだね?」
「もちろんです。 娘をよろしくお願いします。」
深々と頭を下げるノーストン。 彼はこれから色々と大変だろう。 王家が滅んだと言え元の自分の領地に対する責任は果たそうとするだろうしね。
ミディアが棲み着いたアノス山に隣接していただけにノーストンの領地の被害は大きい。 だけど夜魔族にとって人間は餌でしかも簡単には増えないだけに死亡、負傷といった意味での領民の被害は少ない。 若い男が多数拐われているけど領民たちはそのまま生活をしている。 攻め込んだ軍隊がほぼ壊滅して統治機構として成り立たなくなったのが被害の最たるものだ。
当然のごとく治安は悪化している。 盗賊の類いが村々を襲い略奪にあうことも多くミディアよりもそっちの方が領民にとっては脅威なくらいだ。 俺が心配することではないけど人手は必要だろうな。
『ミディア、聞こえるか?』
『御主人様!? 御主人様ですか!?』
俺の呼び掛けにミディアが驚いたように返事をする。
結んだ《絆》を利用した
『これも御主人様のお力でしょうか? あぁ……こんなに離れているのに御主人様を感じられて……幸せです。』
ほぅっ……とたまらないようにため息をつくミディア。 念話なのに器用なやつだな。 ……ちょっと可愛く思えてきた。
『ミディア。 お前の城に拐った近隣の人間たち、生きてるのはどれくらいいる?』
『そうですね…………ワタシに歯向かった兵隊はみな精を吸い尽くして殺してしまいましたけど近隣から拐った人間ならほとんど生きてますわ。 ワタシや配下の娘たちの大事な餌ですもの。
弾みで吸い尽くしてしまったりはありましたけどほんの10数人程度で後は弱ってはいるけど生きてます。』
まあ想定通りの返事。 すぐに吸い尽くして拐うのを繰り返してたら人間なんかあっという間に絶滅する。 自分たちが困らないようちゃんと管理してるわけだ。
『そいつらをみんな解放しろ。』
『御主人様のご命令とあらばすぐにでも……あ、でもワタシの配下の娘たちの食事はどうすれば……』
『盗賊や山賊なら拐っても構わない。 犯罪者を餌にするんだ。 お前が俺のところにくる時にはそいつらは全部処分してこい。』
『かしこまりましたわ。 それではすぐに城に戻り仰せの通りに。 あぁ……御主人様にご命令をいただけて……おまけにこうしていつでも話せるだなんて……たまりません。』
おーい……念話で伝わるくらいに興奮するなよ。
『言っておくけど俺から繋がないと話はできないからな。』
『そんな!? 御主人様と離れて切なくてたまらなかったところにお声がけいただいて……望外の悦びと思ったのにこんな仕打ち……はぁっ……御主人様になぶられている気持ちになってしまいます……んっ……』
こらこらこら、勝手に盛り上がるな。
『言葉だけでこんなにさせられて……あっ……御主人様に実際にオモチャにされたらどんな風に……んっ……はぁっ!……』
妖しげに悶えるのが念話で伝わってくる。 何やってんのかなぁ……追及しないことにしておこう。
『一刻も早くご命令を果たして御主人様の元に参ります……その時はワタシに御主人様の情けを……お願いいたします。』
『分かってるよ。 約束だからな。 それより早くやってくれ。』
『かしこまりました。 なるべく早くに人間たちは戻しますね。 お待ちください。』
ミディアとの念話を切ると俺はノーストンに向き直る。
「ミディアたちに拐われた人間は大半が生きてるよ。 近々戻ることになった。」
「それは──」
「それとこの辺から盗賊連中がごっそり消えるはず。──これからどうするつもりか知らないけど覚えておいて損はないと思う。」
治安維持のために回す人手を減らせて生産力確保のための人員も十分確保できるとなれば
ノーストンは何が起きたのか理解できずに声もなく体を震わせ──突然地面に伏して土下座する。
「何から何まで……ありがとうございます!」
「いや、別に俺は何をしたわけでもないし。 悪魔召喚を実演したくらいだよ。」
「──それで多くの民が救われました! 本当に……言葉もありません!」
ノーストンは頭を地面に擦り付け上げようとしない。──そんな土下座とかどうでもいいから。
「優しいわね。 ただ魔王を倒すよりもよっぽど力になってあげちゃって。」
「別に大したことはしてない。 助けたつもりもないしな。」
手間にもならないことを思い付いたからちょっと口を出しただけの話だし。
魔王たちが全員ミディアの配下になって俺のところにきたら支配者のいなくなった魔族や魔獣たちがどうなるかも正直分からないしね。 悪化する可能性もあるわけだけどそこまで知ったことじゃない。
「とりあえず俺らはもう行くよ。 クレアちゃんとお別れを──」
『マスター!』
面倒を切り上げようと思ったところにジェムが慌てた様子で呼びかけてきた。
『あの女がたおれたよ! 早くいって!』
あの女──ルナか!
俺はジェムにルナの居場所を教えてもらい、空間に穴を開けて即座に移動した。
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