第11話 大混乱

 ソファに座ってコーヒーを飲みながら、俺は殿村とルナが部屋から出てくるのを待つ。

──覗きはやめました。

 監視のために<天津風>で音だけでも聞いておこうと思ったんだけどね……マジ泣きされていたたまれなくなった。

 いやさ、いくらなんでも純情すぎじゃない? どれだけ純粋培養されたらああなるのやら……貴族とか他国の王族との交流だ社交界のお付き合いだで男性と触れ合うことくらい普通にありそうなもんだけど。 あの髭オヤジ(国王)はよほどルナのことを大事にしてたんだね。

 あの様子じゃお嫁に行けないとか責任取ってお嫁さんにとか言われかねないんだけど……いや、さすがにそれはないか。

 でも何かお願いされたら断りづらいよなぁ。──『お姫様の半裸を見たら魔王退治するハメになりました』──どんなラノベだよ? なろう系か? カクヨムか? 本当にありそうだから暇なときに検索してみよう。

 まあ、とりあえずそれは全力で回避するとしてどう対応したもんか。 女性と付き合……親しく接した経験が極めて少ない俺にはとてつもない難問だ。 いや、職場の同僚と最低限のそれはあるけどプライベートではちょっとね。 殿村との付き合い? 殿村は……まあ殿村だから。

 とりあえず選択肢としては……


1 全力で謝る

2 一瞬だったから見えなかったとごまかす

3 殿村に責任を押し付ける

4 「いいもの見せてもらってありがとう!」


 ……うん、4が出てくるあたりダメだ、俺。

 1は見たこと肯定しちゃってるし2は問い詰められたらキョドりそう。 3は実際あいつのせいだから何も問題はないんだけど……いや、あいつを絡ませるのが大問題だ。 被害の拡大が目に見える。

 《宿命通しゅくみょうつう》が使えれば簡単な話なのにな。

 そんな感じで俺が頭を悩ませてると俺の部屋のドアが勢いよく開き殿村が飛び出してくる。

「おっまたせー! ルナちゃんの着替え完了よ! 刮目して見なさい!」

 テンション高く飛び出してくる殿村──こいつの神経の太さが羨ましい。

 ため息をつきながら見ているとルナがおずおずと出てくる。 豪奢なドレスから着替えたルナに、俺は思わず見とれてしまった。

 要所にリボンとレースをあしらった淡いブルーのワンピース。 変に甘すぎずシンプルに、だけど可愛らしく清楚な感じを際立たせるデザインだ。

 何だろ……ドレスを着ていた時と違い身近な等身大の女の子って感じがしてすごく……って、えっ!? これを殿村が選んだの!? あの殿村が!?

「ふっふーん……どうよ!? あたしのチョイスとルナちゃんの美少女っぷりは!? さっきからずいぶん見とれちゃってるみたいだけど! ムラムラしちゃった!?」

 そこはせめてドキドキと言え。 お前はどこまで斜めしもに走る気だ、殿村?

 そしてふんぞり返るな。 下から見るとなかなかすごい光景だぞ、まったく……(脳内保存)

「まあ……よく似合ってると思うよ。」

 俺の言葉にルナが顔を赤くしながらうつむく。

「あの……ありがとうございます。 でもその……あまりまじまじと見られると恥ずかしいです……」

 いかんいかん。 いくらなんでも見とれすぎだろ、俺。

 でも何か……これって半裸を見ちゃったことをうやむやにできそうじゃない? もっと誉めて恥ずかしがらせたら……たとえばこんな可愛い娘は初めて見たとか、可愛すぎて目が離せなかったとか……恥ずかしくて言えるか!

 考えてたら俺まで顔が赤くなってきた。

「なになに!? 初々しいカップルみたいな反応しちゃって! これはあれね!? 今夜初体験の流れよね!?」

「ちょっ!? おま、何言ってんだ!」

「だって二人でいい雰囲気出しちゃってさ! 今夜絶対これでしょ、これ!?」

 そのハンドサインはやめろ。 下品だから詳しくは言わんけど!

「ミツキ様!? わ、私はそのようなことは──」

「なに言ってるの、ルナちゃん!? ルナちゃんだって裸を見られてお嫁に行けないって言ってたじゃない!?」

 やっぱり言ってたのか。 てか何とかうやむやにしようと思ってたのにその話を出すな!

「それは……気が動転してしまっただけで……」

「雄大もまんざらじゃないんだから責任取ってお嫁さんにって言えば即これよ、これ!」

「やめんか、バカたれっ!」

 そのハンドサインをお姫様に見せるんじゃない! 意味を理解してないからまだいいけど。

「何よ!? あんなに見とれてたくせに雄大はルナちゃんにそんな気にならないって言うの!?」

 いや、なるよ? 王族でなくて別の世界の人間じゃなけりゃね。

「そういうことじゃなくてな、文字通りに住む世界が違うのに……ってあーもう。 ルナ!」

「は、はい!?」

 面倒くさくなった俺が肚を決めて声をかけるとルナがびしっと居住まいを正す。

「事故と言うか殿村のせいだけど見ちゃったのは事実だから……本当にごめん!」

 結局、素直に謝ることにした。 殿村のせいにはしたけど。 実際そうだしね。

 ルナは呆気にとられた顔をしていたけどみるみる顔が赤くなり、

「……やはり見えてたんですね……ミツキ様はきっと見えてないとおっしゃってましたのに……」

 待て待て待て! そんなフォロー入れてたなら先に言え、殿村! 完っ全にやぶ蛇じゃないか! 本気で状況をかき混ぜる天才だよ、お前は!

「いや……何て言うか……見たけど肝心なところは見てないと言うか……ほら! すぐに隠してたしドレスの胸元と同じくらいにしか見えてないから!」

「わ、私のドレス姿もそのように見ていたのですか!?」

 いかん、自爆した。

 だって胸元開いてるんだもん。 殿村ほどじゃないけど大きいしそりゃ見ちゃうよ。 てかまずそこを隠すべきじゃね? 何でドレスは平気だったって……周りが同じような服装で意識してなかったんだな。

 これ……どうすればいいの?

 助けて《宿命通ドラ○もん

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