第12話 初めての異世界
結局──俺はあの後も自爆しまくり、恥ずかしさに耐えかねたルナに『もういいから忘れてください!』と怒られて終わった。
問題がないかと言えば大ありだけどとりあえずはよしとしよう。
「何だか……まだふわふわした感じです。 こちらの世界は本当にすごいんですね。」
家に帰るなりルナは陶然として呟いた。
あの後、俺たちはルナを連れて殿村の軽で大型のショッピングモールに出掛けた。 電車やバスの使い方を教えたいのはあったけど荷物があるのを考えるとやっぱり車でしょ。
ちなみに俺は車は持っていない。 さほど必要でもないしね。
異世界人のルナからするとこの世界はやはり新鮮で衝撃的だったようだ。
車に驚いたのから始まり、ショッピングモールの賑やかさに圧倒され、デジタルサイネージの広告に目を丸くし、自動販売機からジュースが出てくるだけではしゃいだりしてた。 その姿を見てるとお姫様ってより普通の女の子にしか見えなかった。 途中で寄ったペットショップでは子犬や子猫に目を輝かせて抱っこさせてもらったりしてたけど……うん、正直可愛かったね。
食器やタオルなんかの生活用品を選ばせて実際に買い物をさせたりレストランに連れてって注文の仕方を教えたりある程度の勉強はさせて──後は最後に映画に連れていった。
映像を記録して映し出せる技術があってそれを利用した演劇みたいな娯楽って教えたんだけどこれが一番びっくりしたみたいだね。 まあ向こうの世界じゃあの音量と臨場感は味わえないし。
昼前に出掛けてもう18時を回ってるんだから何だかんだ長時間の外出になったもんだ。
さすがにくたくたで──なんてことはない。 『六神通』こそまともに使えないが《越境者》の強化された身体能力はそのままだから体力には自信がある。
だけどルナと殿村はそうもいかないだろう。
「とりあえず疲れただろうし風呂沸かしてくるよ。 殿村はルナの荷物の整理を手伝ってやってくれ。」
「オッケー。 とりあえずクローゼット借りるわよ。」
「ああ、ベッドの下に衣装ケースがあるから適当にスペース空けて使ってくれ。」
紙袋を抱えて俺の部屋に二人が消える。 一応ルナの荷物を入れる棚も買ったんだけど届くのは数日後だからそれまでは俺のクローゼットや棚を使ってもらうしかない。
ところでなぜか殿村も自分の荷物を持っていったんだけど──深く考えないことにしよう。
「さて……」
風呂場に向かい浴槽を洗いながら俺はひとりごちる。
ルナを元の世界に戻してやるにはどうすればいいか──予想よりも難しそうで正直参った。
「空間をねじ曲げるだけじゃダメ。 二つの世界の空間を同時にねじ曲げてかつ安定的に繋げる……やっぱり難易度高いよなぁ。」
買い物をしながら合間に──具体的には二人が下着を選んでる時とかトイレに行ってる時に──《天眼通》で色々と試してみた。
実際に見える法則──例えば物体の動きや光なんかのエネルギーに関しては弱体化している《天眼通》でも[認識]しやすくその先の[解析]、[理解]までは簡単に進めた。 ただし初手の[認識]が浅いため[理解]も浅いものであって[掌握]まで進めてもできることはたかが知れている。
そう精々はこのくらい──シャワーヘッドを固定したまま流れる水の動きを操って泡を流しながら俺はため息を吐く。
今、流れる水に対する[干渉]を試しながら[掌握]までたどり着くことができた。──あっさり[掌握]までたどり着くことができたわけだけど逆に今の《天眼通》の力のほどを知ってしまった感じだ。
時間をかければさらに深く[認識]して[掌握]することができるはずだけど[認識]しやすい事象でこれだ。
──他の世界との道を創れるほどに深く空間法則を[認識]して[掌握]するなんて……どれくらいかかることやら……──
やるしかないんだけど先行きは暗い。
こうなると案は2つ──とにかくやってみるか。
風呂掃除を終えて給湯をセットすると俺は風呂場から出る。 リビングには荷物の整理を終えて殿村とルナがソファに座っていた。
「すぐに沸くから沸いたら入ると……なぁ、殿村。」
「何? どうかした?」
当たり前のような顔で返事をする殿村に、俺はまず何から言おうか考える。
殿村とルナの前には風呂に入る準備がされていた。
バスタオルとその下には着替えだろう。 それがすぐに入れるように二人分。
うん……まあとりあえずは……
「風呂の準備してるのはいいんだけど……すでに二人分用意してあるのはどういうこと?」
「だってルナちゃんのお風呂のお手伝いがいるでしょ? ルナちゃんに聞いたらやっぱりいつも手伝ってもらってたみたいだし。」
まあ……お姫様だし普通のことなのかも知れないけど。
だけど──俺が思いきり疑いの目を向けると殿村が心外そうに頬を膨らませる。
「大丈夫よ! 変なことはしないから! 全身ピカピカに磨き上げるだけよ!?」
ほほぉ……それを信用しろと? うん……まぁ無理だ。
俺は無言でルナの前のバスタオルの下に置かれた着替えを手に取る。
「あ、あの! ユーダイ様!?」
慌てたルナに構わず俺はそれを広げ──
「で──これを選んだのはお前だな?」
「そうよ! ルナちゃんにぴったりでしょ!? 我ながら最高だと思うわ!」
ほほぉ……こんなのを選ぶような奴のことを信用しろと?
「うん、まあ白はルナには似合いそうだけどな……」
真っ赤になってもじもじとしているルナの前で、俺はスケスケの
下着までスケスケではないものの布面積が少なくてやたらと扇情的で……うん、ルナがこれ着てるの見たいよ? そりゃムチャクチャ見たいけど! だけど半裸見られて泣く娘にこれを着せるとかないだろ!?
「ルナ……ここでこれを着るってことは俺にこれを着た姿を見られるってことだけど分かってる?」
「それはその……私も死にそうなくらい恥ずかしいです……」
「だったらさあ……」
「ですが! ユーダイ様が私のために少なくない金銭を使ってらっしゃるとミツキ様に聞きました。 何かお礼をしなくてはと思いミツキ様に相談したのですが……」
「……その結果がこれ?」
「その……ユーダイ様はとてつもなくイヤらしい方なので絶対に喜ぶと……」
俺への風評被害がひどいっ! 否定はしないけど紳士的にちゃんと隠してますよ!?
「他にもユーダイ様が喜びそうなことを教えていただいたのですが……私にはとても……」
「……ちなみにどんなこと?」
「そ、そのようなモノ……口にできません!」
「………………今『モノ』って言った?」
「……………………──────っ!!!」
ぽかんとしたルナだけど自分が何を言ったか気付くと一瞬で顔を真っ赤にしてソファのクッションの下に逃げるように頭を潜り込ませる。 やべ……スルーするべきだったのに思わず口が滑っちゃった。
てかさ──何てこと教えてんだ殿村!
「殿村……とりあえず選択肢は二つなんだが──」
「アタシを追い出すなら部屋の前で全裸になって『お許しください、ご主人様!』って騒ぎまくるわよ?」
読まれてた──てかその脅迫マジでやめろ。 風評被害どころか警察沙汰になるだろうが。
普通ならそこまでできないだろうけど……こいつならやりかねない。 何しろ殿村なんだから。
「………………とりあえず、ルナに変なことするな、変なこと教えるな、変な服を着させるな。 これが守れないなら脅迫しようが追い出すからな。」
「仕方ないわね。 分かったわよ、約束する。 ルナちゃんにそういうことをするのはあんたと二人でね!」
いらん一言を付け加えるな。 まったく……いまいち信用しきれないけど俺が風呂とか手伝うわけにもいかないし任せるしかないだろう。
俺は諦めの境地で深くため息をつき、風呂場に向かいながらはしゃぐ殿村と不安そうにチラチラこちらを見るルナを見送った。
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