第10話 魅惑の花園
結局、殿村は二時間とかからずに戻ってきた。 ルナの着替えと自分の荷物を持って。──ここに住むって本気かよ、おい。
「あのな、殿村。 お前までここに住むとかさすがに狭くて無理だろ?」
「ああ、その話? さすがに冗談よ、冗談。」
あまりにあっさりした返事に肩透かしを食らう。──こいつは本当に何なんだ。
まあ安心したけど……だったらその荷物は一体──
──ピンポーン
俺が殿村に荷物のことを訊こうとしたタイミングでインターホンが鳴る。 何か届く予定はなかったけどセールスか何かか?
「はいはーい。」
俺が確認しようとする前に殿村が玄関に向かう。 なぜに俺の家の来客の対応をお前がするんだ?
何やら話をして戻ってきた殿村の手にあった物は──
「おい、殿村。 それは何なんだ?」
「これ? 布団レンタルで急いで手配してもらったの。 ここってあんたのベッド用の布団しかないでしょ?」
うん、確かに布団はどうしようか考えてたからありがたい。 だけど──
「それが2セットあるのはどういうことだ?」
「決まってるじゃない。 ベッドはルナちゃんに使わせてあげるんでしょ? だからあんたとあたしの分を用意したのよ。」
「……………………なぜお前の分がいるんだ?」
ここに住むのは冗談だって言ったよな? ……どういうこと?
「ここに住むのは冗談だけどしばらくは泊まるからよ。」
「いや、だからな……」
「あんた一人で女の子のお世話ができると思う? 同性がいた方が色々と便利よ?」
まあそれは確かに言えるんだけど……
「おまけにルナちゃんはお姫様──着替えとかお風呂も一人でできるか怪しいんじゃない? あんたにそれの手伝いができるの? しちゃうの!? 一緒にお風呂でイチャイチャ泡プレイとか最高なんだけど!」
……想像するとかなりくるな……いやいや、だからそういうのはなしで──変なしがらみ作りたくないんだから。
「まあそれはそうなんだけど……お前に任せるのもかなり不安なんだが──」
「大丈夫よ! あんたがその気になるまでは我慢してあげるから! する時は一緒よ!」
満面の笑顔で言われてもなぁ……信用していいのか、こいつ?
「それじゃあんたの部屋借りるわよ? まずはルナちゃんの着替えね。 そのままじゃ出かけられないし。」
「出かけるって……それどころじゃないんだけど。」
ルナを早く帰すためにも《天眼通》で方法を探るつもりなんだけどね。
《根源》との繋がりの狭いこの世界ではいわゆる魔力も希薄だ。 そのせいで魔法を使うのはひどく難しい。 《天眼通》で掌握した完全な魔力操作による法則介入──魔法により実現した《道》をこの世界で繋ぐためには別のアプローチが必要になる。──魔法に頼らない空間法則への直接介入だ。
第一段階の[認識]にもそれなりの時間を必要とするのは目に見えているんだから出かけてる暇なんかない。
だけど殿村は気に入らなかったのか怒ったような呆れたような顔で俺に文句を言う。
「あのね、しばらく一緒に暮らすなら食器とか生活用品も色々と必要でしょ? それに仕事に行ってる間ルナちゃんをずっと閉じ込めておく気? 少しは外出できるようにこの世界のことを教えてあげないと。
あんたがルナちゃんの面倒を見るって決めたんだからちゃんとエスコートしてあげなさいよ。 こんな可愛いお姫様とデートって思えば楽しいもんでしょ?」
おぅ……こいつがこんなまともなことを言うなんて……まあ下手したら何ヵ月もかかるかも知れないし確かに殿村の言う通りだな。
「あの……デートというのはどのようなことなのでしょうか?」
「好き合った男女が楽しくお出かけして最後にはエロエロなことをするのよ!」
「待てこら!」
感心して損した……殿村は本当に殿村だな、まったく。 またルナが真っ赤になってるじゃないか……ひょっとしてこの反応を楽しんでるのか?
まあいい。 ここは殿村の言葉に従おう。
「了解。 着替えたら一緒に出かけるとするか。」
「あ、あの!」
「ん? 着替えの手伝いなら殿村が──」
「いえ、そうではなくてその……デートに出かけるということはその……ユーダイ様は私にイヤらしいことをなさると……」
「違うそうじゃないこいつの言うことを真に受けないで!」
何でこの娘は頭のおかしい殿村の言うことを真に受けるのか……俺はそういうのしないって散々言ってるよ?
「とにかく、しばらく暮らすこの世界のお勉強ってとこだから。 買い物の仕方とかも覚えてもらわないといけないしね。」
「そうなのですね……分かりました。 よろしくお願いいたします。」
「それじゃ行きましょ、ルナちゃん。 ウフフフフッ♪」
不気味な笑い声を上げながらよだれを拭う殿村…………本当に大丈夫なんだろうな?
俺の心配をよそにルナの着替えを詰めたカバンを持って殿村とルナは俺の部屋へと消える。
さて──ここで一応説明しておこう。
俺の《天眼通》の<千里眼>と《天耳通》のあらゆる場所の音を聞く権能<
そして今、俺の部屋に美少女が着替えに行った──この意味は分かるよね?
ん? さっきからエロ系はなしな紳士ぶってたのは何だったのかって?
殿村みたいな明け透けなのと一緒にしないでもらいたい。 相手を不愉快にさせないために秘めておくのが紳士のたしなみというものですよ?
おまけに覗きや盗撮なら相手にバレて傷付けてしまうかも知れないからこれはいけない。 ダメ、犯罪。
でも俺の能力ならバレることはないのですよ。 バレなければ犯罪でない──そんな名言も世の中にはあるわけで。
美少女の着替えを見て俺は幸せ、それに気付かないルナも幸せ、誰も傷付かない優しい世界──これぞ完璧な世界、イッツ ア パーフェクトワールド。
単にヘタレのムッツリなんじゃないかって? まあ……それも否定はしないけど……
ところでヘタレとムッツリってヒトラーとムッソリーニにちょっと似てるよね? っていかんいかん。 俺もちょっと変なテンションになってるかも。
それはさておき……いざ、魅惑の花園へ──
『いいわぁ……よく似合ってるわよ、ルナちゃん! サイズもバッチリね!』
テンション高くルナを褒める殿村の前には下着姿のルナ──おー……実に感度良好524。 後ろから、下半身はクッションに隠れて上半身だけだけど半裸のルナがはっきり見える。
透き通るような白い肌がすごい綺麗で……これは前からもしっかり見ないと……
『あ、あの、ミツキ様? 本当にこちらの世界ではこのような下着が普通なのですか?』
『そうよ!? 可愛い女の子はみんなこういうのを着るの!』
……このような? ちょっと待て……そう言えば殿村チョイスがどんなものか確認してなかったけど……
『ですが……その、このように網目の粗い生地ではその……完全に見えてしまうのですが……他のもお股の部分がその……開いてしまっていたり──』
──ドンドンドンッ!
「殿村! お前ちょっと待てっ!」
俺は猛烈な勢いでドアを叩き殿村を制止する。
「なになに? どうしたのよ?」
「キャアアアアアッ!」
ガチャリとドアを開ける殿村──って開けるなバカ! はっきり見ちゃったじゃないか。 網のブラで透け透けの胸をしっかり……ルナが隠したから下は見えなかったけどピンク色の可愛いT……違う違う。
こういうことにならないように能力使って覗いてたのに……後で謝らないと。 とにかく俺は殿村の腕をつかんで引っ張り出すと部屋のドアを閉める。
「どうしたの? 美少女が自分の部屋で着替えってシチュエーションにムラムラきちゃった!? それをあたしにぶつけたくなったのね!? いいわよ、ルナちゃんにはしばらく耳をふさいでるよう言ってくるから思いきり──」
「違うわ、ドアホッ! お前、何とんでもない下着をルナに着せてんだ!?」
「だってせっかくだから目の保養したいじゃない!? あんたも喜ぶようにって特別過激なのを用意してきたのよ!? って……何であんたが知ってるの!? まさか覗き!? このドスケベ! あたしのならいつでも見せてあげるのに! むしろいつもあたしを覗きなさいよ!」
「違うわっ! そしてせんわっ! いまいち信用できないから音だけ聞いてたんだよ!」
微塵も違わないけどそこは欠片も匂わさない。 それぐらいの芸当は朝飯前ですよ? そして紳士たるものあんな娘に変なことを教えるのは許しません。
「とにかく、ちゃんとした普通の下着はないのか? お姫様にエロ下着なんか着させるな。」
「あるわよ? 白のレースでフリフリの可愛いやつ。 ルナちゃんの清純なイメージにぴったりで──そういうのを汚すのがたまらないなんていい趣味してるわね!」
勝手に人の趣味を捏造するな……まったく。
「あるならちゃんとそれを着させてやれ。 服の方は大丈夫なんだろうな?」
「エロいギャル系も清楚系もどっちもあるわよ!?」
「……清楚系のだ。 エロいのなんか着させるなよ?」
「オッケー! あんたはこういうのを汚すのがたまらないって言ってたって伝えておくわ!」
「ちょっ──! んなこと一言も──」
俺の抗議より先に殿村は部屋に入り鍵まで閉めやがった。 くそ……後で謝罪と弁解タイムだな。
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