第9話 怒濤の展開

──さて、とりあえず殿村も納得してくれたし問題は一つ解決したか。 後は──

「それでこのお姫様は? あたしにも紹介してよ。」

 あぁ、忘れてた。 でもその原因はお前の暴走だからな?

「この娘はルナ。 信じてくれるならぶっちゃけるけどまあ別の世界のお姫様で間違ってこっちにきちゃったんだ。」

「あの……ルナ=メリウス・フラウ・リシェールと申します。 よろしくお願いいたします、ミツキ様。」

 自分が転んだのが原因でこちらにくることになったのを思い出したのか恥ずかしそうにしながら自己紹介する。

「よろしくね。 ところでさ、なんでルナちゃんは日本語話せるの? 異世界だけど言葉は同じってご都合設定?」

「あの……私にもよく分からないのですが……最初はミツキ様がお話ししてる言葉は全く分からなかったのです。 ところが途中から急に……その……」

 その途中から聞かされた内容を思い出したのか顔を赤らめモジモジしている。 あぁ──タイミング悪く最悪なの聞かされたよな。

「それは詳しくは面倒だから省くけど俺の力だよ。 ルナがこの国の言葉を話せるようにした。 ルナは自分の国の言葉で喋ってるつもりのはずだけどね。」

 『六神通』の一つ──《天眼通てんげんつう》の権能も仏教本来のそれとかけ離れている。

 「一切衆生の全ての過去世を見る」はずの神通力は《天耳通てんにつう》と同様にあらゆる場所を見通す<千里眼>や召喚された時に見せた相手の力量を量ったりラフィスの神速の斬撃を見切った<心眼>の他、この世のあらゆる法則を見通し、[認識]、[解析]、[理解]、[干渉]、[掌握]の五段階を踏んで事象・法則の改変・創造ができる権能を持つ。

 <真理眼>──限界はあるから全能ではないものの万能と言っても過言でないチート能力だ。

 《天耳通》《他心通たしんつう》《宿命通しゅくみょうつう》と合わせるとほぼ全知になれる極悪な情報系スキルだがそれだけで済まないのはさすが《天権》──あらゆる世界において最高位の能力と言える。

 この世界ではできることは限られるとはいえルナ一人の言語を入れ換えるくらいは何とかできた。

 ルナと殿村は感心したように俺を見る。

「便利な能力を持ってるのね。 それってさ、あたしも外国語ペラペラにできたりするの?」

「いや、この世界じゃ限界があってできない。 俺が話せる言語ならいけるけどな。」

 それができたらそこそこ高給取りとはいえサラリーマンなんかしてないよ。 残念そうにしてるが世の中そんなに甘くないんだぞ、殿村。──この世界でなかったら俺にとって世の中激甘、ハイパーイージーモードなんだけど。

 それよりもしなくちゃいけないことがあるよな。

「ところで殿村、お前って今日は何か予定あるか?」

「もちろんあるわよ! このゲームの再現をあんたと──」

 だからエロゲを取り出すな。──本気でぶれないやつだな。

「つまり何もないんだな? だったら買い物頼みたいんだけど。」

「プレイ用の小道具なら準備万端よ!? それともゴム? もう──そんなのなしであたしの中で思いきりぶちまけていいのに……あ、分かった! ルナちゃんに使うのね!? お姫様を妊娠させないよう気を使いながら凌辱するなんてこの鬼畜紳士! 鬼畜なのか紳士なのかワケわからないわね!」

 ……わけわからんのはお前だ、殿村。

「だから──もういい。 買ってきてほしいのは女物の服とか下着だよ。」

「えっ? あんた……女装趣味があったの!?」

 ねぇよ、バカ。

「うそ……それは想定外だったわ。 女役のあんたを攻めるなんて……さすがにそんな小道具は用意してないわよ!? 今度準備しておくから待ってなさい!」

「だからお前はいい加減にそっちから離れろ! ルナの服と下着だよ。 しばらくここで暮らすのに着替えもないんじゃ困るだろ?」

「あ……あの! ここで暮らすって──」

「ああ。 こいつがくる前にも言ったけど君をすぐには帰せない──」

「やる気満々ね! この鬼畜!」

「……頼むからお前はしばらく黙ってろ。」

 ルナがまた怯えたような顔してるだろ。 真に受けてほしくないんだけどなぁ……

「とにかく──必ず帰してみせる。 それは約束する。 ただどれくらい時間がかかるかは正直分からない。 だからその間はここで暮らしてもらうことになる。」

「────────」

 絶句してキョロキョロと俺の部屋を見回すルナ──まあお姫様からしたらこんな狭い部屋で暮らすなんて苦痛かもな。 自分の世界のことも心配だろうし。

「まあお城の暮らしと比べたら不満もあるだろうけどさ、他にあてもないから我慢して──」

「あの、そうではありません! ご面倒をおかけするのに不満などとんでもありません。 ただ……その……ここで暮らすとなるとその──」

 うつ向いて恥ずかしそうにモジモジするルナ──

「ユーダイ様と……殿方と二人きりでということに……」

 言わないで。 俺だってこんな美少女と生活とかドキドキしちゃうんだから。

 色々ハプニングがあったりしないかとか……うん、まあ実のところハプニングどころかね──見ようと思えば見れちゃうわけだけど。

「まあ気持ちは分かるんだけど……でもね、他に選択肢があるとしたらさ──」

 俺はちらりと殿村を見る。 ルナもそちらを見て言わんとしたことを察したか首をブンブン横に振る。

 うん、こいつのとこだけはないわ。

「なになに? あたしん家? あたしだったらいいわよ!? ルナちゃんみたいな美少女なら大歓迎!! お姉さんが毎晩可愛がってあれやこれや教えてあげちゃうわよ!?」

「いえ……その……私はユーダイ様とが……その……」

 その台詞──相当恥ずかしいっていうかやめて。 またこいつが──

「もう! 雄大と暮らしたいとかルナちゃんもその気まんまんね! これからお姫様と毎晩お楽しみとか……うらやましいじゃない!」

 頼むから誰かこいつを止めてくれ……ルナがいるせいでかつてない暴走ぶりだぞ、こいつ。

「それじゃあたしもここに住むからよろしくね!」

「……はぁっ!?」

 ちょっと待て、こら、今なんて……はぁっ!?

「早速あたしの荷物とルナちゃんの着替え用意してくるから! これから毎日肉欲の日々だぞ、この野郎!」

「いや、おま、ちょ待て──」

「それじゃすぐ戻るから! 待ってなさいよ、このモテモテ野郎!」

「だからちょっ! 殿村さん!? 人の話を──おい!」

 俺の抗議も虚しく──殿村はすごい勢いで部屋を飛び出ていった。──え、ちょっ……マジで?

 ものすごい勢いで飛び出ていった殿村をなす術もなく見送り──俺とルナは顔を見合せ呆然とするしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る