第8話 いいおんな

 そう言えば……あっちじゃ自己紹介する必要もなかったから一方的にぶったぎってたし、こっちにきてからは時間も大して経ってなかった上にそれどころじゃなかったのもあって名前すら教えてなかった。 友人の紹介の方が先になるっておかしいだろ。


「そう言えばまだ自己紹介してなかったっけな。 俺は黒瀬雄大──好きに呼んでくれていいよ。」

「クロセ・ユーダイ様……分かりました。 よろしくお願いします、ユーダイ様。」

 んっ……久しぶりだけど様付けで呼ばれるって……何かこうぐっとくるものがあるな。

「あたしのカラダのこともよろしくお願いしますわ、ゆ・う・だ・い・さ・ま(はぁと)」

 お前に言われてもぐっとはこないからやめろ、絡みつくな、耳に息を吹きかけるな、胸を押し……いや、言っても聞かないしとりあえず放っておくか。 うん、柔らかい感触に罪はないしな。

「ところで──」

 俺に絡み付いていた殿村の腕が俺の首をがっちりロックする。

「ますますその娘のことが気になるんだけど? 日本語は話せるみたいだけどどう見ても外国の、こんなドレスを着たとても一般人には見えない娘がどうして名前も知らないままにあんたの部屋にいるわけ?」

 しまった!──自己紹介してなかったせいで一気に誤魔化し方の幅が狭まった。 まじでどうしよう……

「あ、あのさ、ドレスはほら、今ハロウィンの時期だしコスプレで──」

「よくよく見たらコスプレ衣装で使われるにしちゃずいぶん上等な生地っぽいわよ? そんなお姫様凌辱プレイでビリビリにできないドレスで誰がお姫様コスプレをするって言うの!?」

 そんな目的でコスプレしてるやつは……いないとは限らないけど──

 まあ本物のお姫様だしな。 間違いなく一般労働者の月給の2~3ヵ月分はするだろう高級品でコスプレっていうのは無理があるか。 イベントでナンパして自己紹介もしないでノリのままってのはダメ、と。

 そもそもこんな朝っぱらからイベントでナンパして連れ込みなんてできるわけもないし──俺がナンパしたなんて設定に無理がありすぎる。

 んー……いっそ正直にぶちまけてみるか?

「あのさ──例えば俺が異世界に魔王を倒すために召喚されてお姫様と一緒にこっちの世界に戻ってきた──って言ったらどう思う?」

「ラノベのベタな設定ね。 ナイスジョーク! HaHaHa!」

 うん、まあまともに取り合うわけないわな。 まともに受け取られても対応に困るわけだが。

 さて──どうしたもんかなぁ……

 などと考えてると殿村は俺の首をロックしてた腕を離しルナへと詰め寄る。

「で、で? あなたがそのお姫様? あいつが魔王を倒す間にあいつと恋仲になっちゃったのね!? それで毎晩毎晩やりまくりであいつから離れられなくなるくらい仕込まれてついてきちゃったんでしょ!? 初めての娘をそんなにしちゃうなんて──雄大の女殺し!」

 だから親指を……って待て。

「おい、殿村──」

「くぅぅぅっ! 悔しいから根掘り葉掘り聞いちゃうわよ!

 ねぇねぇ、あいつどうだった!?」

「ど……どうって……私とユーダイ様はそのような……」

「ベッドの中では優しかった? 激しかった? どんな風にされちゃったのかしら!?」

「で……ですからその……」

「指と舌で全身じっくりトロットロにされちゃうのかしら!? それとも俺様系で強引に!? お姫様だとむしろそっちの方がころっといっちゃいそうよね!?」

「あぁっ……あのその……」

「まさか縛られちゃったりとか!? 目隠しをして自由を奪われたお姫様に羞恥プレイ……うーん、この鬼畜野郎っ!」

「おい、ちょっと待──」

「あ、それとこれ大事よね!? アレはどうだった!? 固さは!? 太さは!? 長さは!? 形は!? 持久力は!? 回復力は!?」

「あの……アレというのは……その……まさか……」

「んまっ! そんな卑猥なこと言わせて辱しめようなんて……あなたも鬼畜ねっ! そういうのもお姉さん大好きよ!? アレって言ったらオ──」

「やめぃ!」

 後ろから頭にチョップをかまして殿村を止める。──何を口走ろうとしてるんだ、こいつは?

「いったぁ……いきなりなにすんのよ? そういうのも好きだけどもっとムードを大事に──」

「やかましいわ。 純情な娘相手にちったぁ考えろ!」

 ルナを見ろ──この手の話によほど免疫がなかったんだろう。 顔真っ赤にして頭から湯気立てながら目を回して、思考回路はショート寸前状態じゃないか。

「あら? ずいぶん純情なのね? そんなんじゃダメよ!? 今からお姉さんが雄大を使って色々教えてあげるわね!」

 俺を使って何する気……いや分かりきってるか。

「もういいから。 大体な、名前も知らない相手とそんな関係なわけないだろ?

 それよりお前──何で俺の話を信じてるみたいに話してんの?」

「え? 信じてるわよ?」

 ………………は?

「いやぁ、現実離れした話だから思わずナイスジョークなんて言っちゃったけど嘘だって証拠はないじゃない? コスプレの話と違ってね。

 だから信じるわよ──親友のあんたが言うならね。」

 こいつ……俺の顔まで赤くなるようなこと言うなよな。 さすがに照れる。

「お前さ……いい女だな。」

「へへぇ……惚れるなよぉ。」

「惚れねぇよ。」

「惚れなくていいから抱いて!」

「だからしねぇよ!」

 まったく──こいつがいい女だなんて初めて思ったよ。

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