第18話 とんでもないお願い
『うそうそ! ってかジョーダンだよ、ジョーダン!
アタシがそんなひどいこと言うわけないじゃん!
アタシはマスターのかわいいア・タ・シなんだから!』
慌てまくって弁解するジェム。 思ったよりも単純でよかった、本当に。 ヤンデレこじらせた仮想人格とか洒落にならん。
ルナを亡き者にする案を平然とぶっ込んできたジェムだけどあっさり態度を豹変させた。
『俺の知ってるジェムはそんなこと言う奴じゃなかったのになぁ……そうか。 きっとこのジェムは偽物で何より頼りになる最高の
などと呟いてみたらまあ見事な変わり身を見せてくれた。
どうしたもんかと悩んだけどこの手でコントロールはできそうだしおかしくなってるのはとりあえず目をつむろう。
『そうか。 ジェムはやっぱり前のままで俺の頼れる相棒なんだな?』
『もちろん! アタシさえいればマスターに他のやつの助けなんていらないんだから!
マスターが他のだれかにたよろーとしたらそいつをコロしてアタシがマスターの力になるからね!』
……ダメだ。 やっぱこいつ壊れてる。 まあ実害がないなら諦めて……やばそうな時は上手くコントロールするようにするか。
『あー……うん、まあそれは置いといて。
で、
『んー……いちおーね、《狭間》とつなげることができればいけるんじゃないかと思うよ。』
自信満々ではないもののジェムには成算があるようだ。
元々ジェムは情報処理能力の塊だけあって『六神通』の扱いが俺よりも上手い。 <真理眼>の[干渉]、[掌握]だけはできないけどそれ以外はいつも任せっぱなしにしていたくらいだ。
完全体ではないとは言え、今の俺よりは遥かに色んなものが見えるんだろう。
『とりあえず《狭間》につないでー、《狭間》からエウレシアをさがすのね? そしたら今度は《狭間》からエウレシアに穴をあけるの。
そうすれば少しだけど魔力も使えるからそれで《狭間》でまよわないくらいの《道》はつなげるはずだよ。』
なるほど。 話を聞くと簡単そうに聞こえる。 確かに十分できるだろう。
ただし問題もある。
『エウレシアを見つけられるかどうか──だよな。』
『マスターがいった世界だからざひょーはわかるんだよね! だけどいまのマスターの力じゃエウレシアにちょくせついくのはやってみないとなんともだよね』
《道》を開いた時にエウレシアの座標は自然と認識していた。 だけどそれを上手く探索できるかどうかは……やってみないとか。
『だからね、ジェムちゃんはもっとかんたんでかのーせーの高いやりかたをてーげんします!』
『……どんな方法だ?』
『いまもんだいなのはマスターの力がこの世界じゃすこししかつかえないってことでしょ? だったらさ、《穴》をあけたら近くにある《根源》とのパスのひろい世界にてきとーにとびこんじゃえばいいんだよ!』
……なるほど、それだ!
世界はそれこそ数十万を越えるくらいの数がある。
《狭間》を覗いて近くにある世界を適当に数えても100やそこらはあるはずだしその中にはパスが広い世界が10程度はあるだろう。
むしろここよりパスの狭い世界が10あるかどうかのはずだ。
この世界ほどパスが狭い世界と言うのはかなり少数派になるんだから。 エウレシアに直接行こうとするから難しいだけのことだったな。
『さすがジェム! やっぱり頼りになるな!』
『へっへーん! マスターにほめられちゃった♪』
ジェムは俺に誉められて無邪気に喜ぶ。 おかしくなったけどこういうとこは可愛くていいよなぁ。
どうやら問題はこれで解決したようだ。 後は《穴》を開けて《狭間》に繋げられるようになればエウレシアに戻れる。
『よし。 じゃあジェムは<真理眼>で《穴》を開けるための[理解]を頼むな。 それができたら他の世界経由でエウレシアだ。』
『オッケー! それじゃ全力でいくよ! しばらくしゅーちゅーするからまっててね!』
俺の役に立てるのが嬉しいのか張り切るジェム。
これで後はジェムが<真理眼>で《穴》を開けるための[理解]まで行ってくれればそれをフィードバックしてもらって[干渉]、[掌握]と進めるのも難しくはないだろう。
エウレシアに行く目処が立って、少し肩の荷も下りた気分だ。
早く帰ってルナに教えてやろう。
思ったよりもかなり早く戻れそうだしきっと喜ぶだろう。
一段落したところで俺は昼休憩を早めに切り上げ仕事に戻ることにした。
「あ、ありがとうございます!」
殿村と帰宅して(言いながら非常に違和感があるのだけど……)夕飯を終えてからルナにエウレシアに戻る目処が付いたこと、おそらく半月程度で戻れるだろうという予想を伝えるとルナは深々と頭を下げて礼を言う。
最悪、数ヶ月かかるって話をしてたし、もしそれだけかかっていたらエウレシアがどうなってるかも知れたものじゃないからな。 ルナとしては一安心だろう。
「そっかぁ……ルナちゃんとも半月でお別れか。 寂しいなぁ。」
「そうですね……私もミツキ様とお別れするのは少し寂しいです。 でもまだしばらくは一緒に過ごせますから。」
殿村とルナはお互いに本気で寂しそうにしている。
初日は殿村に対して不安しかなかったがこいつはスイッチが入ってなければ付き合いやすい奴だしなかなか気遣いのできる奴でもある。
<集智心>に集中して<天津風>を使う余裕はなかったけど、寝る前には寝室で二人が話をしてるのが何となく聞こえていた。 殿村がこの世界のことを色々教えたりルナのことを聞いたり、文字通りのガールズトークを楽しんでいたようだ。
たった三日だけど二人は思ったよりも親交を深めていた。
まあ……ルナが変に耳年増になったというかいらん知識を吹き込まれてしまったのは間違いのないところだろうけど、ルナにとってはそういう面も含めて色々教えてくれたり面倒を見てくれるお姉さん的な感じなのかな。 殿村にとってもルナは可愛い妹みたいなもんだろう。
「まあ仲良くなれたのに残念だろうけどな。 とりあえず二人がやることはないしゆっくり悔いのないよう過ごしててくれ。」
「それはあれかしら? 悔いのないよう3人でしちゃうってこと!? もう! 今日はルナちゃんを念入りに洗ってあげないと!」
だからしないっての……これがなければ本当にいい女なのにな。 呆れてため息をついているとスイッチの入った殿村にルナが顔を赤らめてうつむきおずおずと口を開く。
「あの……」
「あぁ、ルナも言ってやれ。 そんなことしないって。」
「私はその……それもいいかなと……」
──ブフゥォォォォッ!!
「ゲホッ! グホッ! エホッ!」
「だ、大丈夫ですか!? ユーダイ様!?」
口にしたビールを思わず吹き出し咳き込む俺に、ルナが慌てて近寄り背中をさすってくれる。
「あ、あぁ、ありが──じゃなくて! ……今なんつった?」
「そ、その……3人でその……そういうことをするというのも……」
相当恥ずかしいのだろう。 もじもじと指を絡めながらルナの声は段々と小さく……なんて描写してる場合じゃない!
「おまっ……いきなり何を──」
「えっと……私の全てを捧げるとユーダイ様にはお約束してますし……それは遅かれ早かれ決まっていることですから……でしたら初めての際は経験豊富なミツキ様にお手本を見せていただけたり……ご指導いただけたら安心かな、と……」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて俺とルナを眺める殿村を横目で見るルナ。
……とんでもないことぶっ込んできたな。 てか間違いなく殿村が吹き込んだだろ?
えっと……つまり……何?──今夜は確変フィーバー状態ってこと!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます