第17話 《宿命通》の権能

 ルナを部屋に戻し、俺は布団に入り考える。

──王族に力は貸さないって決めてたのにな……──

 王族あいつらが理解できないってことは身に沁みてる。 だけど……あそこまでの覚悟を見せられてね……さすがに冷たくはできない。

 まあいいや。 何かあってもどうとでもできるし。 ルナの覚悟は見せてもらったし正直モチベーションはかなり上がった。

 肚をくくると俺は《宿命通》での作業を再開する。 1徹くらいなら負担にもならないから眠らずに続け、朝方には500人程度まできた。 5%──正直まだ足りないけど形くらいはできるはずだ。

 《宿命通》の権能の1つを発動すると心の中に呼び掛けがくる。

『久し振り……マスター……』

 どうやら成功したようだ。 一安心しながら俺はそれに返事を返す。

『久し振りだな、ジェム。 調子はどうだ?』

『マスター……一緒……不調……』

 やはりと言うかまあ当たり前の話だ。 異世界でなら500人どころか10万人の人格の欠片を素材にしていたのだから。

 こいつの名前はジェム。──《宿命通》の権能で造った仮想人格だ。 過去世の記憶には当然、人格も付随してる。 前世の記憶を持って生まれた人間が前世の人格そのままに振る舞うケースは実際にある。 多重人格者が別々の記憶や知識を持ってたなんて話も聞いたことあるんじゃないかな?

 記憶と人格は強く結び付いている。 俺はその過去世の人格にアクセスしてほんの僅かな欠片を集めてこいつを造ったんだ。 無数の人格の情報処理能力──智の欠片を集め仮想人格を造り出す権能<集智心しゅうちしん>……いきなり名前がギャグに走ってるけど他にないくらいぴったりだったんだ。

 能力名はふざけてるけど俺の代わりに様々な対応をしてくれる非常に便利な能力だ。

 ちなみにジェムという名前は二重を意味するラテン語、geminusから取っている。

『ジェム。 まずはお前をもっと完成に近付けたい。 最低10000人分の欠片を集めたいけどどれくらいかかる?』

『今の私……一人……無理……マスター……手伝う……』

 受け答えもぎこちないがとりあえず現状のジェムだけでは<集智心>を使えないということか。

 俺がやるのをサポートくらいはできると。

『マスターと同じ……今の10倍……少しずつ上……50時間……』

 俺と同じようにできるのに5000人程度。 そこからは自分でやりながら効率も上がっていって50時間程度で目標達成か。 思ったよりは早い。

 正直ジェムは俺よりも処理能力が上だ。 そりゃ欠片とは言え情報処理能力の塊なんだから。 完成に近付くに連れスピードは上がるし<真理眼>での認識も任せられるだろう。

『前と同じ……無理……限界……』

 今の《宿命通》の限界か……10万人レベルの統合はできないと。

 確かに以前と比べると完成にはほど遠いけど十分力になってくれるはずだ。

『分かった。 また異世界に行くことになったからそのために力を貸してくれ。 そしたらちゃんと前と同じくらいにしてやるからな。』

『またマスターと……うれしい……がんばる』

 ジェムが喜んでやる気になってるのが分かる。

 ジェムの人格は別に俺がこういう人格にしようとかしたわけじゃない。 というかできない。 集めた人格の欠片に影響されて自然にできたんだけどイメージ的には……なついてくる妹キャラみたいな感じかな? 仮想人格だけど可愛らしいやつだと思う。

『それじゃ頼むぞ。』

『マスター……任せて……』

 ジェムに呼び掛け俺は<集智心>を発動する。 さっきまでと違いさほど集中しなくても過去世へのアクセスが進んでいく。 ジェムのサポートはやはり大きいな。 これなら仕事をしながらでも進められるだろう。

『いい感じだぞ、ジェム。 この調子でサポートを続けてくれ。 一人でできるようになったら任せるからな。』

『うん……がんばる……』

 これでエウレシアに戻るのも近付いたな。

 集中しっぱなしで精神的に少し疲れた。 軽く伸びをすると殿村とルナが起きてくる気配がする。 時計を見るともう6:30だ……そろそろ朝食の準備をするかな。

 俺はジェムのサポートを受けて<集智心>で過去世へのアクセスを続けながら、キッチンに向かい三人分の朝食の準備を始めた。


 それから2日、俺はジェムのアップデートに励んでいた。

 ある程度アクセスが貯まったらアップデートするのを繰り返してジェムの能力を上げていきようやく目標の10000人分のアクセスができた。

──これで<真理眼>の方も任せられるか。──

 期待を込めて俺はジェムをアップデートする。

『ジェムちゃん! 完全体(仮)! 爆! 誕!』

 ……………………………………は?

『マスターマスターひさしぶりー! 前とくらべると全然だけどやっとまともに動けるよ! ありがと!』

 ん? …………テンション高くね? ジェムってこんなキャラだったっけ?

『えーと……とりあえずよかったな。 ところで前はそんな元気いっぱいじゃなかったと思うんだけど……』

『だってひさしぶりにマスターにあえてうれしいんだもん。 こっちにきてマスターは全然アタシを呼んでくれないし!』

 まあ『六神通』は使いづらかったし必要もなかったから。 てかうん、まるっきり別人だ、これ。 前のジェムはもっと大人しかったぞ? 《宿命通》が不完全な影響か?

『でね、でね、マスター! エウレシアに行く話なんだけど!』

 ジェムは俺と記憶を共有できる。 やるべきことはきっちり把握してくれてるようだ。 とりあえず問題はなさそうだし性格に関しては置いておくか。

『《道》は作れそうか?』

『しょーじきムリ! この世界じゃ別の世界と直接つなぐのはふかのーだよ!』

 ジェムに断言され俺は思わず言葉を失う。 可能性は当然考えていたけど時間はかかってもできると思ったのに……

『やっぱね、《道》をつくるのは魔力もつかってむりやりだから魔力がないこの世界じゃむりだね!』

 参ったな。 てことはルナはずっとこっちの世界に?

 いや、それはまずいだろ。 マンガや小説じゃよく宇宙とか異世界からきてこっちに住んでる奴がいるけど現実にはそんな気軽なもんじゃないからね?

 まあそういう時は宇宙科学や魔法なんかの不思議パワーで解決してるけどそんなもの……いや、魔法も不思議パワーもあるけど使えないから。

 てか……俺がそこまで面倒見る義理はないんだけど文字通りに行くあてもない女の子を見捨てるなんてできないよな。

 どうするか……ブローカーを探して戸籍を手に入れて、そのまま俺の嫁にしちゃうか。 あまり大っぴらに言えたもんじゃないけどそういう世界につてがありそうな人間も周りにいないわけじゃない。

 ルナは好きでもない相手との結婚なんて不本意だろうけどどうしようもないし、俺としてはまああんだけ可愛いんだから王族とか関係なくなれば文句なんて──

『マスターマスター!』

 割と真剣に考えているとジェムがそれを遮るように呼びかけてくる。

『どうした?』

『あのね、《道》は作れないけど他にかいけつさくはあるよ!』

『……本当か!?』

 さすがジェム。 いや、マジでよかった。 一瞬の間に考えた新婚生活も悪くはなかったけど。

『うん! まずね、この世界に《穴》をあけて世界の《狭間》につなげることはできそうなの! たぶん半月くらいかな!』

『それで?』

『そしたらそこにあのおんなをほーりこんでおっしまい! どー!?』

 …………どう!?って……率直に言おうか。 大丈夫か、こいつ!?

『そーすればマスターはやりたくもないまおー退治に関わらなくていいしあの女のことも気にしなくていいんだから! かんぺきでしょ!?』

『……あのな……俺が知ってるジェムはそんなこと言わなかったと思うんだけど?』

『だってだってだって! あのどろぼー猫、まおーたおしたらマスターのものになるとかいってるんだもん! マスターもあいつをもどせなかったらケッコンとかかんがえてるし!

 マスターはアタシのなのに! マスターはアタシのなのに! マスターはア、タ、シ、の、なのに!!』

 大事なことだから三回言いましたって?

 てかさ……うん、壊れすぎだ、ジェム。 なんで不完全に作ったらヤンデレ化してんだよ!?

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