第6話 二人の闖入者
「痛っ!」
ベッドに頭をぶつけて俺は思わず声をあげる。 いきなりだったから受け身を取ることもできなかった。
俺が開いた《道》を見るとすでにふさがってしまいあちらの世界との繋がりは消えてしまっている。
それはそうだ──俺にはこの世界で《道》を維持することなどできないのだから。
「んっ……ここは……?」
腕の中からの声に目をやると俺の胸の中に王女様が──って近い近い! こんな美少女と密着って──刺激強すぎだよ。
「ごっ、ごめんなさいっ!」
王女様──あー、皮肉はもういいか。──ルナは頬を赤らめながら慌てて俺から離れる。
んー……もったいなかったかなぁ……いい匂いで柔らかくてあったかくて……っていやいや、そうじゃないしそれどころじゃない。
しばし俺の部屋をキョロキョロと眺めていたルナは当惑した表情を浮かべながら──
「あの……ここって……見たことがないどころか話にも聞いたことがないような……その……まさかとは思うんですけど……ひょっとして……」
い、言いづらい……けど俺の責任じゃないんだよな。
突っ込んできたのはルナで倒れ込んだのもルナでつまりは全てルナの責任で──よそう、女の子を悪者にするとか最低だ。
「まあ……端的に言うと俺が元いた世界で君にとっては異世界になる……かな?」
「まあ! 何ということでしょう!」
ぱあっと花のような笑顔を咲かせ、目を輝かせながら喜ぶルナ。
……は? 絶望するかと思ったら何を……あぁ、そういうことか。 ルナは知る由もないことだったな。
「貴方はご自身で世界を渡れる力をお持ちだったのですね。 私たちのせいで犠牲にしてしまうことがなくて本当によかったです!」
「うん……まあそれはね。」
本気で罪悪感を感じていてくれてたのだろう。 正直ちょっと悪いと思う。
俺の戸惑いに気付かずさらにハイテンションにルナは語る。
「おまけにこうして異界を渡ったということは私も晴れて《越境者》──貴方の手を煩わせることもなく魔王を討ち倒せるということ。 しかも元よりエウレシアの住人である私であれば魔王を倒しても世界の《狭間》に弾き出されることもない──これで問題は解決です!」
神に感謝を捧げるように両手を合わせて大喜びのルナ──頭の回転速いね……うん……まあそう思うのは無理もない。 この喜びようを見ると水を差すのは気が引けるよなぁ……
ルナはこちらに向き直ると深々と頭を下げ──
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。 でもこれで、何とか私たちの世界も救えそうです。 後は私があちらの世界に戻れば何とかいたします。
貴方の手を煩わせないと言ったのに申し訳ありませんが最後に一つだけ──私があちらの世界に戻るのに力をお貸しいただけませんか?」
んー……まじで言いづらい。
気まずそうな俺の様子にルナは小首をかしげる。
うん──可愛い可愛い。 この娘を絶望の淵に叩き落とす宣告を俺はしないといけないわけか。
満面の笑みを浮かべるルナに俺は気が重くなるが胆を決める。
「あのさ──2つ問題があってさ……」
「……何でしょうか?」
さすがに俺の様子に何かを感じたか不安そうに顔を曇らせる。
「まず第一に……君は《越境者》になってない。」
「……はい?」
「世界と世界の《狭間》は安定した世界には存在しない法則に支配されている。 その世界の理からはずれた法則に触れることで《認識》が変化してある種の力に目覚め、同時に《狭間》に満ちるエネルギーで肉体的にも変容して世界を渡ったものは《越境者》となる。──だけどね、俺が作った《道》はその《狭間》に触れることのない安定したものでね。 君は《越境者》にはなっていないんだ。」
さっきまでの満面の笑みが凍りつく。 そりゃね、せっかくの希望が打ち砕かれたんだからそうなるよね。
でもまあさらに言いにくいのはこの次で……
「で、二つ目なんだけどさ……俺には今すぐ君を元の世界に戻すようなことはできないんだ。」
「ど、どどど──どういうことですか!?」
ルナは狼狽しきって床に座ったままの俺に詰め寄──だから近いって! ドレスの開いた胸元が……いや、だから違う。 紳士たるものここは目を逸らすべきで……
俺は超人的な自制心で豊かな──透き通るように美しいその白い肌の──柔らかそうな弾力を思わせるその谷間から目を離したくない──ってだから違う!
あー……溜まってるのかな、俺。
何とか目を逸らしながら俺は軽く咳払いをし、
「俺の持つ力は簡単に言えば神に通じて力を借りるものでね……神の存在の薄いこの世界だと上手く働かないんだ。」
無数にある世界の中には神が強く存在する世界と神の存在が薄い世界がある。
神といっても例えば例の『天秤の女神』は俺のいう神に当たらない。 分かりやすいように神と言っただけでそれはあらゆる世界に繋がり存在する《根源》のことだ。
《根源》との繋がり──パスが広く開かれている世界では神や魔物が生み出されパスが狭く閉じられた世界では精々が物語の中くらいにしか存在しない。──俺のいるこの世界は《根源》とのパスが狭すぎるんだ。
神や魔王がいる世界ならいくらでも力を揮えるけどこの世界ではひどく制限がかかることになる。 だからこそ、この世界に半身を突っ込んだ状態でルナが倒れ込んでくるのに対応できなかったんだ。
「すると……私は元の世界に帰ることも?」
恐る恐るといった感じで、手を震わせながらこちらの顔を覗き込んでくる──泣きそうになるなよなぁ……俺、こういうの得意じゃないんだから。
「正直言って……できるかどうかも、できたとしてどの程度かかるかもやってみないと……かな」
俺の返答にルナの顔が歪み始め大粒の涙が溢れて──待て待て待て! 女の子に泣かれて俺は一体どうしたらっ……!
と、俺も泣きたい気分になった瞬間──
──バァンッ!
轟音と共にドアが開けられ
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