第4話 『六神通』
そう──俺にとって異世界に呼ばれるのは初めてのことではない。 過去に二度、俺はこことは別の異世界に呼ばれ魔王を討伐している。 どちらもあまり思い出したくないことだけど──その間に《越境者》の力は磨き上げているわけだ。
人間としての枠を越え人外の域に達するまでの力を得た人類最強、世界に13人しかいない《到達者》
《越境者》の場合、レベルはまちまちだけどこの世界の魔王を相手にしてまず単騎で互角、最低クラスでも二人いればまず負けることはない。──相手になるわけないのは道理だろう。
ちなみに何でそんなことが分かるかと言えば俺の持つ《越境者》の能力、『六神通』の権能のおかげだ。
仏教でいう六神通とその権能は違っているけど実のところとんでもないチート能力だったりする。 何しろ『六神通』には戦闘系の権能は一切なしの上に俺が使えるのは『六神通』の内
呆然とこちらを見る一同を眺めながら俺は無造作に立ち上がる。 おいおい、立ち上がっただけで及び腰になるなよ、そこの兵士たち。
ラフィスは怯えた様子の王女様を背後に庇いながら俺を毅然と睨んでいる。
「貴方……何者なんですの?」
「《越境者》だけど?」
「違う! 《越境者》であろうと我々に攻撃できるはずがありません! 召喚の際に貴方には──」
「あんたの言う拘束術式なら解除されてるよ。」
俺の言葉が理解できないというようにラフィスから表情が抜け落ちる。 それは宮廷魔術師の3人も同じだ。 こんなこと今さら言わなくたって分かってるだろうに。
「馬鹿な! あれはキーフ様から伝えられたもの──神の術式だ! 《越境者》であろうと気付くことすらできぬはずのもの! 仮に気付けたとして何らかの術や力を使う様子もお主には──」
「不快な感覚があったからちょっと意識向けたら吹き飛んだけど?」
放っておいても別に効きはしなかったけどうざいって思ったら簡単に消し飛んだんだよね。 まったく……攻撃するな、協力的に行動しろって、洗脳ではないけど無意識に結構強めに作用する術式でここの女神とやらの陰湿さがよく分かったよ。 まあ神なんてのはろくでもないのが多いのはよく知ってるけどね。
呆然とする王女様とラフィスを見返しながら俺ははっきりと突きつけてやる。
「普通なら拘束術式のことがなくてもいきなりこんなところに召喚されて何も知らず無力なままじゃ君らに従うしかないんだろうけど、俺にはそんな必要はないわけ。 で、魔王を倒す理由もないし君らに力を貸す理由もない。 そういうわけで──」
「お待ちな──いえ、お待ちください!」
王女様が不意に大声をあげる。
怯えた様子で手も震えているけど何とか押さえ込んでこちらに歩み寄ると俺の目の前で深々と頭を下げる。
「一方的に呼び出して都合のいいように利用しようなどと失礼をしてしまったことをお詫び申し上げます。 本当に申し訳ありません。」
この謝罪は心からのものなのかどうか……『他心通』があればとしみじみ思う。
「そしてまた改めてお願いいたします。 どうか私たちに力をお貸しください。 貴方が元の世界に戻るためにも魔王を倒すことは必要なのです。 もちろんお礼もさせて──」
「あのさ──」
何かこの娘の言葉を遮ってばっかりだなぁ……まぁね、正直まだ思い違いしてるんだよね。
俺は『六神通』の1つ──《
「世界の安定を司る『天秤の女神』キーフ・オールダーが封印されて魔王の封印が解けつつある今──不安定な世界であるからこそ異世界の存在という歪みが存在し得る。
魔王を倒し『天秤の女神』の封印が解ければ世界を安定させる女神の権能において歪みである《越境者》は元の世界に帰れる──と、まあこういうことだね?」
絶句──それ以外に表現しようのない表情を浮かべ王女様が固まる。 まあ分かるよ。 こんな力、チートにもほどがある。
『六神通』の一つ、《天耳通》──《根源》の声を聞き世界のあらゆる知識・情報を知り得る『神通力』── 表面的には仏教本来のあらゆる場所の声を聞き取る超人的な能力だったんだけどそれ以外の権能も含まれていた。
あらゆる情報と言っても個人に関する情報は制限というかおそらく《
そしてね──この権能のおかげでこいつらが知らないことも俺には分かっちゃうんだよ。
「勘違いしてる──と言うか、まあこの世界から消えた《越境者》がどうなったかなんて知りようもないだろうからさ。 まあそこは大目に見るよ。
でもね──魔王を倒してください。 そうしたら世界の狭間に放り出されて死にます……なんて話に誰が乗ると思う?」
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