第41話王の決断
ファルリンが倒れ伏し、腹部から血液が地面に広がる。じわっと広がる血液とファルリンの蒼白い顔にジャハーンダールは目の奥がちりちりと熱くなるのを感じた。ファルリンの血で描かれた
ジャハーンダールは、全身に熱く血が巡るのを感じた。ジャハーンダールの目が黄金色に変わる。曲刀を抜き放ち、アパオシャを一閃する。
アパオシャは、ぎりぎりでそれを避けるが、避けた先を予測していたジャハーンダールが、アパオシャの鳩尾を蹴り上げる。
もろに鳩尾に入ったアパオシャは、後方へ転がるように吹き飛ぶ。
ジャハーンダールは通常の人間以上の力を発揮しているようだ。アパオシャにジャハーンダールが追い打ちをかけようとしたところで、マハスティが場違いな事を言い出した。
「この女の……留めをさしませんと!」
さきほどまで、ジャハーンダールの影に隠れていたマハスティが上ずった声で叫んだ。
「死にかけは助からないから殺すって。戦いの最中はそうするって……今、殺さないと!」
マハスティは場違いにも、歓喜に溢れた笑い声をあげた。ファルリンが落とした曲刀を両手でやっと持ち上げて、ファルリンの胸の上に持ち上げる。
そのまま一気に落とせば、マハスティの体重でも充分に殺せるはずだ。
マハスティには、一刻も早くファルリンを始末したい理由があった。ファルリンは自らが
ファルリンが
はやく、殺さないといけない。
マハスティが意を決して刀をファルリンの心臓めがけて曲刀をつきたてようとしたとき、ジャハーンダールが無言でマハスティの腕を押さえた。
「何故ですの!この女は虫の息、殺して当然じゃありませんか」
「やめろ」
ジャハーンダールは血だまりの中からファルリンを抱き上げた。息を潜めて襲撃に巻き込まれた神官達の手当てをしていたカタユーンの側にファルリンを大事そうに横たわらせた。
「この魔法具を使え。ファルリンを頼んだ」
ジャハーンダールは身につけていた指輪とピアスをカタユーンに与える。ジャハーンダールの身を守るために常に身につけている魔法具だ。
カタユーンは恭しく魔法具を受け取り、すぐに神聖魔法を使いファルリンの手当を始めた。
マハスティはジャハーンダールのしたことに力なく地面にへたり込む。
「ようやく本気になったってところかなぁ?」
アパオシャががれきの中から愉快そうに笑いながら立ち上がる。
「……というより、先祖返りかぁ。ティシュトリアはどこに行ったのかなぁ」
アパオシャは目をこらしてジャハーンダールを見て言った。彼には、ジャハーンダールの覚醒した異常な力が「先祖返り」と判ったようだ。
「ねぇ、知らない?アナーヒター?」
「知らないわよ。……知ってても教えるわけ無いでしょ」
アナーヒターは、相変わらず辛そうだ。なんとか立っているという状態である。
「本物のティシュトリアは後で探すとして……まずは、子孫のお前からかな」
アパオシャが再び斬りかかってくる。先ほど見せたときのような、人知を超えた速さでは無い。人よりも少しだけ性能が良いという程度まで能力が落ちている。 ジャハーンダールがアパオシャを避けて、今度は切り返す。アパオシャが避けた先に、ヘダーヤトが魔法で攻撃をする。
アパオシャがよろめいた瞬間に、ヘダーヤトが
「空の声、空の嘆きを聞け!
アパオシャめがけて、無数の北極星に似た煌めきをもった魔法で作り上げた球体が流星のごとく落ちていく。
アパオシャが地面に倒れ伏す。ジャハーンダールは、追い打ちをかけるために近づいた。ジャハーンダールの瞳が、黄金に輝き髪の毛の一部が白く色が変色しはじめた。
「これで終幕としよう」
無数の星を集めたような輝きがジャハーンダールの剣に宿る。アパオシャに突き刺すと地の底から聞こえるような不気味な咆吼と共にアパオシャが霧散した。
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