第39話友の助け

 ファルリンがアパオシャと対峙するより、前。モラーズとピルーズはファルリンの故郷砂漠に住む者バティーヤの放牧地に来ていた。

 近衛騎士団が護衛しているホマー城から逃げてきた民間人を砂漠に住む者バティーヤに保護の協力を求めに来たのだ。

 二代前の王の時代に、砂漠に住む者バディーヤに対しヤシャール王国は侵略戦争を仕掛けた。勝利した当時の王は、砂漠に住む者バティーヤが所持していた肥沃な大地をすべて奪い取った。以来、両者の関係には深い溝がある。

 モラーズもピルーズもまったく砂漠に住む者バティーヤと関わったことがない。ファルリンが近衛騎士団に任命されてから、初めて砂漠に住む者バティーヤという民族が血と肉のついた具体的なイメージが沸いたのだ。


 放牧中の砂漠に住む者バティーヤの青年にピルーズが声をかける。ピルーズの近衛騎士の制服を見て、青年は顔をしかめる。


町に住む者ハダリが何の用だ」


 ピルーズは自分が町に住む者ハダリと呼ばれたことに驚いた。砂漠に住む者バティーヤが遊牧生活をしていない人々を指すときの言葉だ。ピルーズは今までそのように呼ばれたことは無かった。


「族長に会いたい」


 モラーズが替わって答える。砂漠に住む者バティーヤの青年はモラーズを見て、また顔をしかめる。


「不審者をそう簡単に案内できるか」


「俺は、王国近衛騎士モラーズだ。俺たちを助けて欲しい」


「支配階級は勝手に仲間内で助け合ってろ」


 とりつく島がない青年の様子に、モラーズはいいつのる。


「ホマー城とその城下町が魔獣で襲われ、避難している民間人四千人を助けて欲しい」


 民間人と聞いて青年は少し考えて、モラーズとピルーズに着いてくるように言った。青年は駱駝に乗り、駱駝の首を巡らせ北に向かう。


「この先で駱駝を放牧しているのが族長だ」




 砂漠に住む者バティーヤの族長として、モラーズとピルーズと会った男は、ファルリンと顔立ちが似ていた。すぐに親子だと判るほどだ。

 一通りの挨拶を済ませてモラーズは、懐からファルリンから託されたペンダントを見せた。


「ファルリンとは、切磋琢磨する仲間です。私がここに来ようと思ったのはファルリンが居たからです」


 モラーズは、ヤシャール王国の貴族男子の一般的な教育を受けている。その時、砂漠に住む者バティーヤは野蛮で取るに足らない民族だ、と習ったのだ。その時は偏った考えであると思わなかったし、王都スールマーズでの華やかな生活に比べて、砂漠に住む者バティーヤの遊牧生活は砂にまみれ、低俗だとずっと信じていた。

 近衛騎士になり、王の痣マレカ・シアールを持ったファルリンが近衛騎士に加わったとき、モラーズはとても気に入らなかった。栄光あるヤシャール王国の近衛騎士団に砂漠に住む者バティーヤのような不純物を入れることに嫌悪感を抱いた。

 だがファルリンと生活をし任務を熟すようになると見方は変わった。

 自分たちも砂漠に住む者バティーヤも何も変わらない。違いは、何も無いと。


「我々の作法に詳しいのは、ファルリンに習ったのだね?」


 モラーズとピルーズは、族長であるカームシャードの言葉に顔を見合わせた。


「ファルリンと癖が似ている。我々の文化を知ろうとしてくれたのだろう」


 モラーズとピルーズは、すべて見抜かれて恥ずかしそうに笑った。モラーズは深呼吸をしてから話を切り出した。


砂漠に住む者バティーヤの皆さんにお願いがあります」


 モラーズは、ホマー城からの避難してきた人々の話をした。一通り話を聞いたカームシャードは、避難民の保護をすることを引き受けてくれた。


「我ら砂漠に住む者バティーヤの誇りに賭けて誓おう」


「俺が言うのも何ですが、こんなにあっさり引き受けて良いのですか?」


 ピルーズが不思議そうにカームシャードに尋ねた。


「二人がファルリンと親しい関係で無ければ、追い返しただろう。二人が我らの文化に理解を示そうとしているから、応えたのだ」

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