第38話王の盾
「それは全てを防ぎ、全てを守る強固なる城壁。偉大なる
ジャハーンダールの腹に凶器が届く直前、救いの声が辺りに響いた。ジャハーンダールの周辺に堅牢な透き通った城壁が築かれる。城壁には、金色に輝く古代魔法語が余すところなく記されている。
アパオシャの曲刀の先が、城壁に触れると澄んだ高い音が響いて、剣先からジャハーンダールを防いだ。
ジャハーンダールの前には、砂と汗にまみれたファルリンが、盾を構えジャハーンダールを守るように立ちふさがっていた。
ジャハーンダールよりファルリンは背は低いがそれでも精一杯守ろうとしている。燃えるようなファルリンの赤毛が風に吹かれて靡いた。ファルリンの黒曜石のような瞳が興奮で煌めいている。
ファルリンの
「陛下、ご無事で?」
アパオシャの方を警戒しながら、ファルリンは背後にいるジャハーンダールに声をかけた。一度、ファルリンはジャハーンダールに振り返った。ジャハーンダールの影に隠れるようにして、震えるようにファルリンを見ているマハスティと目が合った。マハスティは見せつけるようにさらに、ジャハーンダールに抱きつく。ファルリンは一瞬だけ、泣きそうな顔を唇で噛みしめて堪えるともう、ジャハーンダールの方へ振り返らなかった。
「ファルリン、俺の
「承知!」
ファルリンは曲刀を構え直して、アパオシャと対峙する。
アパオシャが斬りかかってくるのを、ファルリンが刀で受ける。ファルリンが防御に回ると、ヘダーヤトが代わりに魔法を使って、アパオシャを攻撃する。息の合った二人の攻防にアパオシャが押され始める。
「空の声、空の嘆きを聞け!
ヘダーヤトは、
爆風によって砂が舞い上がり、二人の視界が阻まれる。爆風に紛れてわずかに聞こえた服の擦れる音に、ファルリンは、左に避けてヘダーヤトを庇いながら盾を構える。
舞い上がる砂塵に紛れて、アパオシャが斬りかかる。
「人にしては随分うまいことやるね……でも」
アパオシャの姿が二人の視界から消える。次の瞬間、ヘダーヤトが後方へと吹き飛ばされ、壁に激突した。先ほどまでヘダーヤトがいた場所のすぐ近くにアパオシャが立っていた。人には見えない早さでヘダーヤトを殴り飛ばしたのだ。
「こういうこと。神と人では歴然とした差がある。たとえ、僕が不完全な神だとしてもね」
ファルリンのすぐ前にアパオシャが現れ、防御の姿勢をとる間もなくファルリンは腹部を蹴られ後方へ吹き飛んだ。受け身を取った体制で、ごろごろと地面を転がる。
「ファルリン!」
ジャハーンダールの悲痛な叫び声に、マハスティは面白くない顔をする。
「さて、留めといこうかな」
朝ご飯のメニューを選ぶような気軽さで、アパオシャは言うと、痛みでまだ地面に転がってうめき声を上げているファルリンに近づいていった。
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