第6話楽園での出会い


 あの盗賊団の襲撃以降、盗賊に襲撃されること無く王都スールマーズに到着した。城壁でぐるりと囲まれたオアシス都市だ。城壁の入り口には、門番がいて出入りする人のチェックをしていた。そのため、入り口には少しだけ行列ができていた。

 ファルリン達の番が回ってきた。門番がペイマーンの積み荷を確認している。違法の品物や、大量の火薬の持ち込みなどを積んでいないか確認しているのだ。

 香辛料しか積んでいないことが確認できたので、ファルリン達は城門を通って王都へ入った。



 ヤシャール王国の王都というだけあって、とても人が多く、どこも賑わっている。街の中心には大通りが東西南北に開かれていて、通り沿いには土とレンガでつくった住宅がひしめき合っていた。人々の往来も多く、喧噪に溢れていた。

 バザールは、王都で一番の神殿の近くの通りにある。ペイマーンのお店までが護衛の仕事なので、ファルリンは迷子にならないように、ペイマーンの後をついていく。

 人の通りの多い大通りから、脇道に入り入り組んだ路地を歩く。住宅地なので、どこからか子供達の楽しく遊んでいる声がする。やがて、神殿へと通じる通りにでてくると、バザールはすぐそこだった。


 今日は、バザールの日ではないので、閑散としている。殆どの店が休業だ。ペイマーンはバザールが開かれる通りの中ほど辺りにお店を構えていた。間口は小さく奥に深い建物だ。ペイマーンが裏口から入り、その後を護衛達が積み荷を店舗内の倉庫へ運んだ。


「ありがとう。おかげで盗賊の被害にも遭わなかった」


 すべての荷を倉庫へ運び込んだところで、ペイマーンがファルリンに言った。


「いえ、私はそんな……一人前の護衛とはいえません」


「充分だよ。貴女みたいに強くて優しい人が、王をお守りするのだから、この国も安泰だね」


 ファルリンは、最上級の褒め言葉をペイマーンにもらい、恥ずかしがりながらも嬉しそうに微笑んだ。


 王の痣マレカ・シアールを宿した者たちは、全員王宮へと集められている、ということをあらかじめ門番から聞いていた。ファルリンは、王宮までの道をペイマーンに聞いた。

 ファルリンが王の盾マレカ・デルウであると王に認められれば、身軽に護衛をしながら砂漠を旅することもできない。ペイマーンや護衛達、ジャックに会うのは、今生ではこれが最後かもしれないのだ。


「お世話になりました」


「貴女の活躍を城下でお祈りしています」


「僕も、物語に書くよ」


 ペイマーンと、護衛達ジャックに見送られながらファルリンは王宮へと向かった。





 王宮は、オアシスの源である湖を囲うように建てられている。レンガ造りの城だが瑠璃色のタイルで覆われ、天井は金色のドームになっている。尖塔ミナレットが建ち並び、交代で兵士達が見張りをしている。王宮の入り口には門番がいて、王の痣マレカ・シアールを宿しているとファルリンが告げると、大広間に行くように言われた。


 王宮の中は外より、すこしだけ気温が低い。王宮の中央は大きな湖がありその上を風が通り抜けるように王宮が設計されているので、幾分か温度の下がった風が城内を通り抜けるので涼やかなのだ。

 回廊の柱と柵には細やかな装飾が掘られていて、瀟洒な印象だ。ファルリンは、美しい回廊から水をたたえた緑溢れる中庭を見て、感嘆のため息をついた。


(まるで、楽園のようだ)


ファルリンは、生まれて初めて緑あふれる大地を見た。


 湖を中心に、緑が茂り椰子の木がふんだんに植えられている。湖から引かれた水路は、中庭を縦横無尽に引かれていた。水の流れる音が心地よい。

 思わずファルリンが見とれていると、背後から若い男の声がした。


「そこに居るのは誰だ?」


 ファルリンは驚いて振り返ると、黒髪に褐色の肌で魔術師のローブを纏った見目の良い男が、腕を組んで仁王立ちしていた。

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