概要
それとも、未来に拓かれる幸福を信じて生きる、発展と変化を怖れない強固な人間性の保持なのか。
どちらにしても、罅割れることを知らない、美しい結晶。
*:..。o♬*゚・*:..。o♬*゚・*:..。o♬*
ドビュッシーの音色に包まれて生きる人々の心の行方。
優しくて強くて透明な音の世界を求めて。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!王権を保つ言葉達によって衛られた「物語り」に耳を傾ける度、小夜曲は甦る
小説の生命は、実は読み終えられた直後にこそ始まるのかも知れません。結末を知ってしまった物語を再び読み返したくなる動機とは何か。それは当然にも、真っ新な未知と出逢う昂奮を味わいたいがためではなく、幾度となく触れられてなお摩耗するどころかその味わい深さを弥増す鞣革のような手触り、ならぬ「読み触り」、読み返す度に心地良い風合いを醸す「言葉」や「譬喩」との再会を庶幾するからに外なりません。
成る程、なべて物語は要約される運命から遁れることはできず、まさしく「要」だけを「約」められた梗概としてデフォルメされてしまいます。抗い難いことです。然は然り乍ら、ではその要約の過程で「不要」と断ぜられ、価値を見…続きを読む - ★★★ Excellent!!!世界から閉ざされた少年は、ピアノという旋律で目覚める
コンプレックスを持つ少年・ラルム。
その珍しい名と容姿のコンプレックスに、心無い言葉が向けられる。
罵詈雑言が少年の心を痛めつけ、いつしかもう一つの世界へと誘われる。
あちら側で待っていたのは、美しい貴婦人と、ピアノを奏でるドール。
彼女らと過ごす中で、少年は心に平穏を取り戻していく。
そんな中、行われることになったドールのコンサート。
しかし、当日……
作者さまは、美しい言葉と言葉選びの才をお持ちです。
鮮やかで儚く、虹のように美しい世界。その幻想世界へと、あなたも踏み出してみませんか?
どこまでも続きそうなピアノの旋律は、この物語を彩り続けます。 - ★★★ Excellent!!!優しい音で塞ぎ続けた耳を解放して、きっと新しい旋律を未来へ紡いでいける
生まれつき左耳の耳朶を持たない少年と、ピアノ講師の母親の物語です。
類稀なほど端麗で繊細な表現に彩られた、耽美でありながら「生」の力強さも感じる、味わい深い作品だと思いました。
まるで、優しいピアノの音色にも似た。
「みんなと違う」ことで、心に深い傷を負った主人公・ラルム。
息子を「みんなと違う」身体に生んでしまったことで自分を責める母親。
互いに思い合うからこそ外に出せずにいた想いが、巡り巡ってある一つの幻想的な「夢」を作り出します。
ラルムの中に培われてきた「母の音」と、目映い舞台で紡がれる「ラルム自身の音」。
物語中盤にあった演奏のシーンは圧巻でした。漲るような生命の力がありました…続きを読む - ★★★ Excellent!!!罅割れた心さえ治癒してくれる、優しい強さに満ちた物語
耳を覆いたくなるような、罵詈雑言の数々。世の中はそんな悪意に満ちた言葉に溢れています。機敏な聴覚を持つ耳朶のない少年ラルムにとっては、容赦なく耳に飛び込むそんな言葉が余計に突き刺さったことでしょう。
ピアノ講師の母と二人きりで寄り添うように暮らし、音楽を愛し、幾重にもかさねたガーゼの中で大事に守られ育ってきた少年。しかし母の失踪により、少年はこの現実という「外」の世界へ放り出されてしまいます。心ない言葉に傷つき、大切にしていたものを奪われる、心が罅割れそうな日々。絶望の果てに逃亡したラルムが迷い込んだ森の中で出会ったのは──、不思議な魅力を湛える貴婦人と、ピアノの自動演奏人形「たから」、そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!儚く透明感に満ちた美しさと、その奥底に流れる真っ直ぐな強さ。
左耳の耳朶を持たずに生まれた少年、ラルム。
ピアノ講師を営む母親は、そんな息子の心と身体を優しくいたわり、常に音楽で包み、深い愛情を注ぎます。
また彼自身も、ピアノを演奏することで自分自身を表現する喜びを知り、ピアノとともにあることが彼の幸せとなっていきます。
母の愛に包まれ、守られ、憂いを味わうことなく幸せに流れるラルムの日々。
けれど、そんな母親がある日突然姿を消し——。
彼は、今まで守られてきた繭から引きずり出されるように、現実の苦しみに曝されます。
堪え難い屈辱と孤独の中で、ラルムは——。
人間は誰も、苦悩から逃れることはできません。それは時に、生きることを投げ出したくなるほどに心…続きを読む - ★★★ Excellent!!!柔らかなガアゼに包まれて、子供たちは旋律を奏でる。
耳朶を持たない少年は、ある日森に迷い込んだ。その森の中で、ピアノの旋律に導かれるように、ある家に辿り着く。そこには美しい自動演奏人形のたからと、それをメンテナンスする御婦人がいた。しかし、あるピアノ発表会の夜に、ピアノを弾くはずだったたからが、壊れて動かなくなってしまう。耳朶のない少年は、たからの代わりにピアノを弾くことになる。少年の演奏は称賛される。
母が好きだったドビッシィーの曲。優しい母の声に、少年は目を覚ます。そして自分の体の一部から作られた、人工の耳朶を獲得する。そして少年の母はピアノ教室を再開する。そこで少年は、一人の少女と出会う。
音楽小説の域を脱し、ピアノを中軸にした…続きを読む - ★★★ Excellent!!!少年の耳は、誰よりも繊細で美しい音を拾い続ける、無垢なたからもの
生まれつき片耳の耳朶がない少年、ラルム。
ピアノ講師を勤める母に、これ以上ないくらいに温かな、優しい言葉とピアノ音楽を惜しみなく与えられてきました。
その母が、いなくなってしまった。
ラルムの世界が、音が、心ない外界の騒音から身を守るように閉ざされていきます。
そんな時に出会ったのは、優雅な雰囲気の貴婦人と、彼女の自動演奏人形、「たからちゃん」でした。
全編を通して、繰り返し流れるドビュッシーのピアノ曲。
母との時間、たからちゃんとの出会いをきらきらと彩る様々な色、匂い。
美しい言葉が、空気中を躍るように世界を満たしていきます。
そして、作者の温かな思いを感じずにはいられなくなります。
…続きを読む