少年の耳は、誰よりも繊細で美しい音を拾い続ける、無垢なたからもの

生まれつき片耳の耳朶がない少年、ラルム。
ピアノ講師を勤める母に、これ以上ないくらいに温かな、優しい言葉とピアノ音楽を惜しみなく与えられてきました。
その母が、いなくなってしまった。
ラルムの世界が、音が、心ない外界の騒音から身を守るように閉ざされていきます。
そんな時に出会ったのは、優雅な雰囲気の貴婦人と、彼女の自動演奏人形、「たからちゃん」でした。

全編を通して、繰り返し流れるドビュッシーのピアノ曲。
母との時間、たからちゃんとの出会いをきらきらと彩る様々な色、匂い。
美しい言葉が、空気中を躍るように世界を満たしていきます。
そして、作者の温かな思いを感じずにはいられなくなります。

可愛いラルムと、彼を取り巻くたくさんの愛情。
ぜひ、心ゆくまで触れてみてください。

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