柔らかなガアゼに包まれて、子供たちは旋律を奏でる。

 耳朶を持たない少年は、ある日森に迷い込んだ。その森の中で、ピアノの旋律に導かれるように、ある家に辿り着く。そこには美しい自動演奏人形のたからと、それをメンテナンスする御婦人がいた。しかし、あるピアノ発表会の夜に、ピアノを弾くはずだったたからが、壊れて動かなくなってしまう。耳朶のない少年は、たからの代わりにピアノを弾くことになる。少年の演奏は称賛される。
 母が好きだったドビッシィーの曲。優しい母の声に、少年は目を覚ます。そして自分の体の一部から作られた、人工の耳朶を獲得する。そして少年の母はピアノ教室を再開する。そこで少年は、一人の少女と出会う。

 音楽小説の域を脱し、ピアノを中軸にした幻想小説である。
 耳朶の欠損。人形のたから。母のピアノ。
 読んでいると、本当に文章に酔いしれるということが本当にあるのだ、と感動を覚える。音楽の基礎知識がなくても、十分に音楽と戯れることが出来る一作。限りなく透明でいるのに、紗がかかったように夢現。文章が単語レベルにまで研ぎ澄まされているのを感じます。

 是非、御一読下さい。

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