受け身で待っているだけの人には幸せになる価値はないと考える小幸。そうして、幸せになる権利を持つ者と持たない者を棲み分けて、自分を卑下し、自傷のような行為に走る。この物語は彼自身の虚構だったのか、はたまた現実逃避の果てだったのか……。決めるのはあなた次第……。
激動の物語。1万文字以下とは思えない重厚さが詰まっています。幸せな夢を見ているのか、夢で辛い現実から逃げているのか。それともこれら全ては夢で、違う世界があるのか。考えることがとても多いです。しかし、読了後の衝撃と後味は相当なもの。状況描写と感情表現の奥深さが半端ないです。同じ短編書きとしては、嫉妬したくなる才能を感じました。
明晰夢っていうのは目覚めても日記がつけられるくらい覚えているものなんだけど、日常の些細なことで一気に砂糖菓子のように溶けるものでもある。ペンがないとか、漢字が思い出せないとか、靴下がないとか、そういうことで。夢かそうでないかなんて、ただ生きるためにはどっちでもいいことも多い。大変よろしいと思いますよ。
夢と現実の線引きが曖昧で、それが故に最後の結末に驚きました…!バッドエンドになってしまうのではとハラハラもしましたが、「この人生が全部、夢だったらいい」というタイトルに込められた衝撃のラストに震撼します。
何気なくて些細なことに気付くことが非常に重要な物語でした。虚無的で全部夢であることを願いたくなるような展開ですが、その先にあるものを確かめたくならざるを得ないほど引き込まれました。
読んで損はありません。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(112文字)
書き出しの感情を読み手に示してから最後までの感情の導線が素晴らしいです。人間関係や生活環境などの情報を出し入れする順番を間違えていないのであっという間に物語の時間軸に立たされます。一幕を読んだだけなのに、人生全部を知ったかのような。良い作品でした。ありがとうございました。
この人生が全部、夢だったらいい。無気力で受動的な俺には、幸せになる資格がない。そんなふうに生きていた彼は、明るく正義感の強い橘さんに出会う。「彼女はきっと、誰かの人生の主人公やヒロインになれる人間だ」と思う佐藤。そんな時、恋人から別れの一文を突きつけられて……どこまでが夢で、どこまでが現実なのか。全く感動のない無気力で乾いた描写と、生々しいほどの衝動が描かれた描写、ただ幸せな描写。あなたは、どちらを「現実」と思い、どちらを「夢」だと思いますか。
短編作品でありながらここまでの満足感はなかなかありません。最終話は特に凄いので是非読んで欲しい作品です!
もっと見る