非常に完成度が高く、テーマ性、文学性、そして共感性、様々なベクトルでのクオリティを感じさせられる作品でした。
主人公はコンビニ店員として生計を立てつつ、「自分だけは幸せになる資格がない」と常に感じさせられて生きている。
なんとなく、要領よく生きている人間が目に付き、そういう人間はどんどん幸せになっていく。人生のステージを次に進めていく。その一方で自分だけは前に進めず、取り残されて行く感がある。
この心情、とても胸を打たれました。うまくいく人間はどんどんうまくいき、自分と何が違うのだろうと悩まされる。こういうことに悩んだ経験のある方は、きっと少なくはないと思われます。
そうして葛藤する日々を送る中、主人公の日常にはとある変化が……。
夢と現実。その境界の曖昧さを描くことで、主人公の人生に救済があるのか、それとも破滅が訪れるのか。どのようにも取ることができる、とても深いラストが描かれていました。
考察しがいのあるテーマ性や構成。そして共感性の高い心情。
文学性の高さも評価したくなる、まさに名品でした。
主人公はコンビニで働く男性。主人公の出勤日に、迷惑な客が訪れる。唾を飛ばす男と、その様子を撮影する女だ。主人公は能動的に動けないという性を持っていた。そのため、迷惑な客を追い払えずにいた。そこに、大学生のアルバイト店員が現れ、主人公の窮地を救った。
主人公は考える。能動的に動ける人間は、幸せになる資格がある。しかし自分のような能動的になれない人間は、幸せになる価値はない。
そんな主人公にも彼女がいた。しかし、その彼女は主人公の元を去り、目覚めると別の女性がいた。しかし、物語はなおも転じて……。
これは夢か?
それとも現実か?
どこまでが現実で、どこまでが夢か?
作品の題名が表す世界観の中で、一人の男が時には苦悶し、時には恍惚とする。
曖昧になる境界で、危うい精神の機微を掬い取ったような物語です。
是非、御一読ください。