第八楽章 少し元気をつけて
「まぁ、ラルムちゃん。
そんなに
編み物が趣味の
しかし若々しく、西洋人形のような出で立ちをしていた。
「ありがとう。奥様の帽子も
羽根飾りが付いているね。どんな鳥の羽根?」
様々に考えた結果、ラルムは婦人を『奥様』と呼んでいた。
「どんな鳥でしょうね。
ラルムは、奥様の帽子の飾りに指を触れた。
気のせいか、森林の香りが漂った。
ラルムが入浴剤で
*:..。o♬*゚・*:..。o♬*゚・*:..。o♬*
森の木々の
貴婦人が
眠りから醒めたラルムは、
「奥様、本日の御召し物も素敵ですこと。私も、めかしこんで参りましたの。
けれども、とんでもない事態ですわ」
「エマージェンシーです。メインのドールが動かない。
残念なこと。今夜のアーベントは、お流れですわね」
そんな遣り取りを聞き逃せず、少年は揺り椅子から跳び起きた。
「あの、もしかして今、お話されているドールって、
たからちゃんのことですか?」
「まぁ、お若いのに、よく御存知ね。
ドールの愛好者と言えば、私たちのような、
おとなの女性と相場が決まっておりますのに」
もうひとりの奥様が、前下がりボブの少年に、悪気なく言う。
「壊れてしまいそうな女の子さんですこと」
壊れてしまいそうな、とは初めて言われたが、女の子に間違えられることには慣れていた。少年は、たからが動かないという非常事態を追究する。
「僕は女の子じゃないよ。それよりも、たからちゃんは何故、動かないの?
今、
「あら、僕ちゃんだったの? 失言、ごめん遊ばせ。
たからちゃん、屋敷でメンテナンス中ですって。
充電をやり直しているのではないかしら」
ラルムは椅子から降りて、一目散に屋敷の中に駈けた。
髪が風に
「たからちゃん?」
駈け寄った少年に、貴婦人は心細そうに言う。
「どういったわけか、ぴくとも動かないのです。
眼鏡の奥で底光りしていた貴婦人の瞳は、別人のように自信なさげに潤み、泣いている。だが、その審美眼を少年に定めた途端、
「ラルムさん。たからの代わりに舞台に立ってください。
代役をこなせるのは、あなただけです」
驚くラルムの横で、貴婦人は自慢のホームメイドドレスを、衣裳ケースから取り出して
「あら、
「冗談は
「性別なんて
美しければ、それで、いいのです」
貴婦人は腕を
少女人形は時を止めたまま。
なかば強引な熱意で少年を彩る貴婦人の表情は、少し元気をつけて、
希望を
第九楽章『幸せの調を響かせて』に、つづく
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