罅割れた心さえ治癒してくれる、優しい強さに満ちた物語

耳を覆いたくなるような、罵詈雑言の数々。世の中はそんな悪意に満ちた言葉に溢れています。機敏な聴覚を持つ耳朶のない少年ラルムにとっては、容赦なく耳に飛び込むそんな言葉が余計に突き刺さったことでしょう。

ピアノ講師の母と二人きりで寄り添うように暮らし、音楽を愛し、幾重にもかさねたガーゼの中で大事に守られ育ってきた少年。しかし母の失踪により、少年はこの現実という「外」の世界へ放り出されてしまいます。心ない言葉に傷つき、大切にしていたものを奪われる、心が罅割れそうな日々。絶望の果てに逃亡したラルムが迷い込んだ森の中で出会ったのは──、不思議な魅力を湛える貴婦人と、ピアノの自動演奏人形「たから」、そして、瑠璃色(アズレー)のピアノ。

硝子ケースに守られ、お互いを想う優しさだけで成り立っていた母と子のエピソードと、物語が進行する部分とが巧みにリンクし、お話は進んで行きます。優しく脆い母も息子も、発展と変化を恐れない強さを持って生き返ることができるでしょうか。それはホ長調の音色が聴こえてきそうなラストでお確かめください。

ドビュッシーの曲を織り交ぜながら綴られる、優しくも力強い再生の物語。
罅割れた心ですら、もう一度息を吹き返させてくれる、包み込まれるような温かさに満ちています。
傷ついた心の特効薬になることでしょう。

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