勇者の旅路
勇者アルバートの旅は順調であった。それはもう、恐ろしい位に。魔物や敵は前衛のリルチェとサイブリーがギリギリまで衰弱させ、アルバートがトドメを刺す。まるで作業のように罪もない魔物を正義の名の下に断罪する姿は余りにも滑稽でありいっそ哀れみを感じる程に醜い。
「オォ~?!こんな所で奇遇じゃ~ん!」
何処かで見覚えのある褐色半裸のダークエルフの男がニヤニヤしながら話しかけてきやがった。別人ですよオーラも通じないしこういうあきらかに強そうな相手に悲しいかな、アル君は口を挟めないのだ。
「出たわね、モード」
ふぅ、と深くため息を吐く。なるべく自分の過去ーー否、黒歴史を知っている人物とは出会いたくないものである。特に、この女と金が大好きなクズ男には。
「露骨に嫌そうな顔してくれて俺様嬉し~! えってかめっちゃ可愛い子連れてんじゃねえかお前可愛いな? なま…ブッフェ?!」
とりあえずリルチェちゃんに絡もうとしたモードを止めようとしたのだけれど、意外にもサイブリーさんがそれを止めてくれた……物理で。アホに脳天チョップとか分かってるのね、サイブリーさん。
「……嫌がってるから、ダメ」
「そーだぞ! 人が嫌がる事したらダメなんだぞ!」
リルチェちゃんを庇うように立つサイブリー君は少しだけ光って見えた。少なくともモードが怖かったけどサイブリーが撃退してからちょっと調子に乗って強気な態度に出たアル君よりは、遥かに。
「……ってぇなァアアア?! 今ので頭蓋骨割れたから金払えよテメェエエエエエ!」
うーん、流石モード。抜かりない。
「……あの、この人ってアリスさんのお知り合いの方……でしょうか?」
「違うと言いたい所だけれど……そうよ。モードは私と同郷のダークエルフ。行商人をやってるけど、買っちゃダメよ? ぼったくりなんだから」
コソコソと私の方に移動してきたリルチェちゃんを撫で回したい衝動と戦いながらも聞かれたら面倒な事ではあるので小声で話し合う。あ、アル君お小遣い少ないのに口車にノせられて見事剣を買っちゃったわねぇ……ロクに使えもしないのに。
「おいモードォ! 商売終わったんならもう行かないとベールに間に合わねーぞ!」
リルチェちゃんと同じようなピンク色の髪を四つに結び、キラキラと輝いている水色の瞳は美しい。小柄で可愛らしい女の子が荷馬車からひょこっと顔を出してきた。
「あー悪いなルティ! 今行くわァ」
ルティちゃん。あの可愛いもふもふ少女はルティちゃんね。覚えたわ
「ねぇ、モード。同郷のよしみでベールまで乗せて行ってくれない?」
そう言いながら札をそっとモードのポケットに入れると、無言のガッツポーズが帰って来た。流石、分かってるわね。
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