その後の話②

次に目が覚めた時、朧な視界に入ったのは空のように深い、深い瞳から宝石のような液体を流す怒った顔をしたアリスさんだった。

「無理しないでよ、バカ……バカリスゥ……!」

嗚呼、不運にも俺は、生き残ってしまったらしい。ヒュー、ヒュー、という煩わしい呼吸音と、貫かれた筈の心臓が、何事も無かったかのようにどくんどくんと鼓動している。よく考えると身体中は痛いのに、暖かくて。ここで初めて、アリスさんに膝枕されている状態なのに気が付いた。

「……、……」

いつもみたいに笑って、「驚かせたか? 助けてくれてありがとうな」なーんて思ってもない言葉を並べ立てようとした言葉は空気と同化して消えた。嗚呼、喉が潰れているのか。これじゃあ嘘も吐けない。ソワードがこんな弱い俺を見たら、どう思うかなんて容易に予想が付く。失望、されるんだろうなぁ。

「ソワードちゃんの事はリルチェちゃんに頼んだから、大丈夫。そんな顔しないでよ」

そんな顔ってどんな顔だよ。リルチェちゃんに頼んだってどういう事だ? 無事なのか?

「……まずは自分の心配をしなさい、バカリス。私の前では弱音を吐けって、前にも言ったでしょう?」

抓られた頬が、痛い。やはりここは現実なのか。俺は死んでないんだ、という自覚がふつふつと、漸く湧いた。

「ァ、」

「馬鹿、声出さないの」

また抓られた。痛い。こんなに痛いのに、死ねなかったのに、どうしてこんなに幸せなんだろう。どうやら、俺の人生とやらはまだ続いてしまうようだ。

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