7話

スヴォルトで過ごした一週間はあっという間に過ぎた。その間にエネミーとブラッドもなんとなく親睦を深められた……気がする。やっぱり、獲物と捕食者という関係性は相入れるのが難しいらしい。


「……お前が魔王の娘を連れ歩いているという偽勇者シザリスか」

スヴォルドからそう離れてもいない荒野にて、正統派勇者に因縁を付けられていた。一応王命を受けて旅をしている訳なんだが、別の奴も派遣したのか? もしかして、俺を切り捨てる為の秘蔵っ子……とか。あり得ない話じゃないから困る。

「……俺、王から直接命令を受けて旅してるんだけど」

ピンク色の可愛らしい女の子に守られている彼に、秘蔵っ子らしい素質は見えないーーむしろ迷わず包丁をこちらに向け、俺を殺す勢いで睨んできた女の子の方が秘蔵っ子っぽい。おっぱいGカップくらいか? 可愛いけど怖すぎて無理。

「いや、王様が夢に出てきて言ってたから間違いない!」

あ、頭がヤバイ奴だコイツ。ヤバイ奴に絡まれてしまった。エネミーとブラッドも思いっきり目を逸らしているから上手く巻き込めねえ! クソが!

「アルバート様流石です!」

「もう、アルバートったら……」

桃色髪の女の子にキラキラした目を向けられながら微笑まれ、栗色の髪を三つ編みにしたお姉さん系エルフの女の子に苦笑され……なんだこれ。勇者ハーレムかよ。ん? あのエルフ、何処かで見た事あるような……?

「先手必勝!」

そんな思考をしている間に突然いきなり正統派勇者に攻撃を受けた。名乗りも上げない勇者クンは細剣使いらしい……弟を思い出して少し郷愁に耽ってしまう。が、どうやら勇者クンは俺を殺すつもりらしいし、そこまで舐めた対応をしたら勇者クンに失礼なので、少し本気を出す事にする。スカートから俺の武器である片鋏状の武器を二本だし、攻撃をスラッと受け流す。隣ではブラッドと桃色髪の女の子が戦いを繰り広げていたが……桃色髪の子の気迫が凄まじく怖い。これに気付かない勇者クンが逆に怖い。

「……で、ここをこうするのよ」

「へー……すごい」

エルフっ子とエネミーはお花畑で花輪を作ってほのぼのしている……うん、良い。ていうかやっぱり見た事あるんだよなぁ……あそこまで美人なエルフ、見たら忘れないと思うんだが。

「何俺の許可なくアリスを見てるんだ……!!」

耳の真横でブォンという鈍い音が聞こえた。勇者クンも拗らせ系かよ……。



「ふう。お片付け完了」

「ゼェ……ゼェ……紳士的に気絶させるの……たいへ……」

「アリスー、また会ったらお話ししましょう?」

「ええ、勿論よ」

ボコボコになり気絶する勇者クン、疲労により倒れた桃色ちゃん、ほのぼのするエネミーとエルフっ子、疲れた俺たち……うん、カオスだ。

「これ、治療費とか雑費だ」

とりあえずエルフっ子にお金を払っておく。こいつら新人っぽいし、金もそこまで持ってなさそうだからな。

「え、そんな……」

「これはアレだ……えーと、将来への投資って奴。強くなってまた挑んでこいって伝えといてくれ……じゃあな」

シザリス・リッパーはクールに……


「あれ、兄さん?」

去れない。

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