19話

「とにかくさ、ブラッドって子が死んだ今」

「おい今凄いこと言った自覚あるか? え、何死んでるの? エネミーは?」

「え、攫われたじゃん。王の兵が攫ってったじゃん」

衝撃的な事をさらりと何事も無いように言ったこの兄は、首元を掴まれてもいつも通り狂っているかのようにただ、笑っている。そういうところが、嫌いだ。

「だからさぁ、『あっちの世界』に逃亡するために一旦隠れてやり過ごそうとしたのを監視されてて、落ち着いた所に奇襲掛けられてズバーン、て奴だよ。良くあるでしょ? そういう終わり方」

分からない。エネミーもブラッドも、王様に後れを取るほど弱い奴らではない筈だし、特にエネミーなんて対抗手段がいくらでもあっただろうに。

「シザリスも殺されちゃううから、このままこの村でずぅっと逃げ続けるのが良いと思うんだ。だって、いつもそうやって生きてきただろう? お前は」

「いや、死んだっていいさ。仲間が守れるのなら……なんて、言えたら良かったんだけどな」

「シザリスは本当に嘘を吐くのが下手だなぁ。もっと好きなように、楽なように、生きればいいとマル兄さんは思うんだけど、ね」

流れた涙は、血の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る