夜も深くなった頃ーーとある平和だった村が、突如として燃えた。その燃え広がり方は意図的に燃やされたものにしか見えない。

「火事だーーーッ!!!!!」

「イヤァアアアアッ! 畑がッ!」

「牛舎にも飛び火してる! これじゃ生活が……」

一人でも多く救えるよう声を張り上げて村を駆ける若者、村の生命線とも言える畑や牛舎、鶏舎まで燃えてしまい絶望し、立ち尽くすしかない者、誰か分からない犯人へのやりきれない怒りをぶつけて争う仲良しだった村人達。ただ平凡で、平和な日々を願う女にとって、その光景は地獄以外の何物でもない。エルフとしてのプライドが許さないものの、女は涙を押し殺せずにいた。家も、大事に育てていた花達も全て炎に燃やされてしまい、もう戻る事はない。

「アリス、逃げよう」

そんな彼女に声をかけ、手を伸ばしたのはまるで事前に準備していたかのように剣を背負った少年だった。女は「何処へ逃げるの」と聞く間も無く、強引に腕を引っ張られ、少年と共に逃亡したのだったーー。


ーーーーー


作戦は成功した! 勇者といえば、故郷が不幸に合うのが鉄板だよなぁ。自分の故郷を燃やすのは抵抗があったけど、オレが魔王を討伐したら絶対に復興する! それまでは絶対に戻って来ないつもりだ。

「はぁ……はぁ……ここは? 村から大分離れている様だけど」

アリスは疲れているのか珍しく息を乱している。それにしても、当たり前の事聞くんだなぁ。

「村から離れた森の中だな!」

「なるほど……村の皆も心配しているだろうから、今日は野宿して、帰りましょう」

「? 帰るのは魔王の首を取ってからだろ」

「え?」

アリスの表情が驚きで固まった。なんだか今日はアリスの色々な顔を見ている気がして愉快だ。いつも笑顔だもんなぁ。流石、オレのアリス。

「旅が終わるまで、改めてよろしくな! アリス!」


ーーこうして、勇者アルバートの旅は始まったのだ!

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