第21話 ボジョレ・ヌーボー

 今日は大型スーパーで買い物だ。いつものスーパーではなく、しまむらとダイソーが合体している複合施設の方である。食料品ではなく、分厚い靴下を求めてやって来たのだ。


 用が済んで出入り口を出ようとした時、ふと目に入ってきたものが気にかかって、神那は立ち止まった。

 大きな垂れ幕がぶら下がっている。


『ボジョレ・ヌーボー解禁! 当店まだまだ取り扱いあります』


「ボジョレ・ヌーボーかぁ」


 神那は、はあ、と大きな息をついた。


「飲んでみたいなぁ。こんなに毎年話題になるんだもん、絶対すごいおいしいんだよね。早く二十歳になりたいなぁ」


 双子が揃って「そう?」と首を傾げた。


「母さんはそんなに盛り上がってないけどな」


 驚いた。双子の母親はとにかくワインが好きで、たまにワインを飲んでからトランス状態で仕事をしていると言うほどだ――在宅仕事だからできることである。


「お祭り騒ぎだと思ってた」

「だって、ヌーボーでしょ?」

「ヌーボーってフランス語で新しいって意味だよ」


 双子が蘊蓄うんちくを披露する。


「ボジョレ村の新酒だよ。つまりまだ若いお酒で、熟成されてないんだってさ」


 神那は「なるほど」と感心した。


「ワインはヴィンテージって言うもんね」

「うちには僕らが生まれた時に買ったワインが眠っていて、僕らが二十歳になったら開栓される予定らしいよ。ワインってそういうものらしいよ」

「うわぁ、なんだかロマンチック! やっぱり双子のお父さんとお母さんってそういう普通の人には思いつかないことを思いつくんだねぇ、うらやましい!」


 いい話を聞いた。神那に直接関係のある話ではないが、何となく浮足立った気持ちでスーパーを出た。

 その後ろを追い掛けてきた双子が、ぽつりとこぼした。


「まあ、母さん、酒屋で予約してたけどね、ボジョレ・ヌーボー」

「結局飲むんかい!」






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